【大阪・関西万博】国交省PLATEAU、3D都市モデル実用化の現在地を示す
2025/6/17(火)
大阪・関西万博のテーマウィーク「未来のコミュニティとモビリティ」において、国交省が主導する3D都市モデル整備プロジェクト「PLATEAU(プラトー)」の展示が行われた。展示では、都市のデジタルツインを活用した自律運航システム、防災シミュレーション、市民参加型まちづくりなど、実用化が進む技術やサービスの数々が披露された。
【プレミアム会員向けの記事を期間限定で全文公開中!】■PLATEAUが示す3D都市モデルの可能性

PLATEAUとは、国交省が推進するプロジェクト。産官学を問わない幅広い分野の企業・団体と連携しながら、3D都市モデルの整備、活用、オープンデータ化などに取り組んでいる。
3D都市モデルを提供する価値は、大きく3つに分類されるという。1つは、都市空間を立体的に視認できるようになり、説明力や説得力が向上する点(ビジュアライズ/視認性)。次に、立体情報を持った都市空間をサイバー上に再現することで、幅広く精密なシミュレーションが可能になる点(シミュレーション/再現性)、そして、フィジカル空間とサイバー空間の情報を相互にやりとりできるプラットフォームを提供できる点(インタラクティブ/双方向性)だ。
これまでに全国で約250以上の都市で3Dモデルを整備。コンソーシアムに参加する企業・団体の数は400以上に及び、まちづくりやモビリティ、さらにはエネルギー関連など、実に多様な分野で活用されている。ユースケースの総数は100を超え、例えば以下のようなものがある。
・XR技術を活用した市民参加型のまちづくり
・ドローンと搬送車両の自律運航管理
・大規模都市開発における避難シミュレーション
・建築物や地形の3次元形状を活用した高精度浸水シミュレーション
・屋根形状を考慮した太陽光発電のポテンシャル推計
・駅周辺の地上・地下における3Dナビゲーション
■3つのユースケースを展示
今回のテーマウィークでは、「誰もがその人らしく生きられるコミュニティとは?」とのテーマが掲げられている。前述した100を超えるユースケースの中から選ばれた3事例の展示では、映像や資料を用いたデモに加え、体験型の催しも開催。来場者の見学・参加を募っていた。▼都市物流を想定した自律運航システム
竹中工務店、センシンロボティクス、アダワープジャパンのユースケース「3D都市モデルとBIMを活用したモビリティ自律運航システム v3.0」は、都市部物流の課題解決に焦点を当てた取り組みだ。建設現場の資材運搬やラストワンマイル輸送の効率化を目的に、自動搬送車両と自律運航型ドローンを統合したシステムを開発。直感的にルートを作成できる「無人ロボット運航アプリ」を改良し、アプリの3D地図上にPLATEAUの3D都市モデルと建物のBIM(Building Information Modeling)モデルを表示。無人車両とドローンの運行管理・遠隔監視を一つのツールで行える仕組みを実現した。
今回の展示では、PLATEAUのデータを活用した自動運転シミュレーションのデモ映像のほか、センシンロボティクスのドローンやアダワープの自動運転ロボット「AdaCart(アダカート)」などが展示された。
▼都内の再開発施設で防災DXを推進
KDDIグループやJR東日本グループが実施する「防災エリアマネジメントDX v2.0」は、防災分野での活用を目指して開発されたシステムだ。主に災害時のリスク可視化と関係者間の合意形成支援を目的としている。大井町駅(東京都品川区)の再開発事業の目玉として2026年に開業するOIMACHI TRACKS周辺を実証地として、3D都市モデルを活用した大規模な避難シミュレーションシステムを開発。従来は専門的な知識が必要だったツールを改善し、シミュレーションの専門家でなくても操作できる仕組みを構築した。
会場では発災時の状況を可視化した動画とともに、大規模避難シミュレーションシステムのデモンストレーションが展示され、防災分野でのデジタル技術活用の可能性を示した。
(画像中・右:KDDIプレスリリースより)
▼市民参加型まちづくりの新たな形態
ホロラボ、日建設計グループが展示したユースケース「XR技術を活用した市民参加型まちづくり v3.0」では、3D都市モデルにXR技術を組み合わせたシステムを展示。これまでに、このシステムを活用した参加型ワークショップを自治体などで行ってきたという。同システムは八王子市や加古川市などで活用され、各地で徐々に導入が進んでいる。専門知識を持たない市民でも参加しやすい仕組みを設けることで、まちづくりに多様な意見を反映させる狙いがある。
タブレット端末や地図、建物のデータが埋め込まれたカードなどを用いながら行う体験型のワークショップは、複雑な都市開発計画を専門知識のない地域住民でも直感的に理解しやすい。今回の展示では「未来の万博をつくってみよう」をテーマに、来場者が架空のパビリオンを大屋根リング周辺に配置できるインタラクティブな体験を提供した。
■五感を刺激するVR体験も
これら3つのユースケースのほかに、もう一つの目玉展示となっていたのが体験型のVRコンテンツだ。クリエイター集団のアブストラクトエンジン社が特別に開発したVRチェアに座り、加速度、振動、重力を体感しながらHMD(ヘッドマウントディスプレイ)でコンテンツを体験する仕組みだ。来場者は渋谷と京都の街のいずれかを選択し、PLATEAUの3D都市モデルと実際の都市画像を重ね合わせたバーチャル空間を疾走する体験ができた。視覚的に風景が移り変わるだけでなく、シートの振動や傾き、音響効果により五感をフルに刺激するコンテンツを通じて、デジタル技術による新しい身体感覚と、現実空間では得られない「まち」への気づきを提供した。
■技術統合がもたらす都市の未来
今回の展示で示されたように、都市デジタルツインの活用方法は非常に多彩だ。それを裏付けるように、国交省が主導するPLATEAUのプロジェクトは、都市のデジタル化における重要な基盤として広がりを見せている。万博での展示は、その実用性や成熟度に加え、今後のポテンシャルを社会に示す機会となったと言えるだろう。プロジェクトで掲げられているロードマップによると、今後は標準仕様の拡張と短周期のデータ更新スキームの確立に取り組みながら、2027年までに全国約500都市のデータ整備を目指すという。技術的な発展はもちろん、実際の都市運営や経済活動にどのような変化をもたらすか要注目だ。