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日本で唯一のモビリティ学生団体「モビラボ」 鉄島代表インタビュー

2020/12/24(木)

画像:Adobe Stockより

九州大学に在籍する大学生だけで構成された日本初となるモビリティの学生団体がある。それが「モビラボ(Mobility Laboratory)」だ。企業と連携して新型モビリティの実証実験やイベントの開催を支援したり、意見交換を行ったりと、活動内容は一般的に想像するようなサークル活動とは一線を画している。

交通課題の解決と、スマートモビリティ社会のさらなる発展のために活動を続けるモビラボ。代表を務める九州大学共創学部2年生の鉄島大貴氏に、団体成立の経緯から現在の具体的な活動内容について話を聞いた。
※LIGARE調べ

手前から、モビラボの代表を務める鉄島大貴氏、副代表の葦津稀一氏、広報の佐伯晏穂氏

手前からモビラボの代表を務める鉄島大貴氏、副代表の葦津稀一氏、広報の佐伯晏穂氏



企業と連携して、地域の交通課題を解決したい

――モビラボの設立経緯について教えてください。

元々、子供の頃から乗り物に興味を持っていて、大学では漠然とモビリティに関連した研究を行おうと思っていました。転機となったのは、入学してすぐの昨年5月に、大手電機メーカーが九州大学で電動アシスト自転車の実証実験を開催したことです。そのメーカーの担当者が、学生と意見交換をしたいということで、私も参加しました。

そして、メーカー側からこういう意見交換会を継続的に行っていきたいと打診を頂きましたので、「では、学生団体を作って関係を続けましょう」ということでモビラボを設立したのが始まりです。

九州大学の伊都キャンパスは敷地が広大で信号設備や車道があり、路線バスまで走っています。公道と同様の環境がある私有地だったので、実証実験がやりやすく、今後モビリティ関連企業から注目される実証フィールドになるだろうなと考えていました。そうなった場合、学生側の窓口が必要になるだろうと考えたことも設立の理由の一つです。

九州大学伊都キャンパス(2009)

九州大学伊都キャンパス(2009)
写真提供:福岡市/撮影者:Fumio Hashimoto



ただ、モビリティに興味のある学生は少なく、しばらくは一人で活動していました。それが半年ほど続いた後に参加してくれたのが今の副代表の葦津(葦津稀一氏)です。それから徐々に学生が参加してくれるようになり、今は6人ほどで活動しています。団体としての設立日は葦津が入ってくれた昨年の12月にしました。

――どういった理念で活動されているのですか。

根底にあるのは、地域にある交通課題をスマートモビリティの力で解決していきたいという思いです。

伊都キャンパスは、かなり過酷な交通環境にあります。例えば、最寄り駅の九大学研都市駅からは4キロあり、徒歩で行くと1時間近くかかってしまいます。路線バスを利用する学生が多いのですが、朝夕は満員で、すし詰め状態です。運賃も往復600円と学生にとっては決して安くありません。

一方、バスを利用せずに自転車や原付バイクで通っている学生もいますが、トラックやバスが通るたびに砂埃が舞うなど、大学までの車道はあまり環境がよくないんです。

――日々の学生生活の中で交通課題を感じていたんですね。

そうです。伊都キャンパスから博多などの中心部に行くにも時間はかかるし、地下鉄を併用しても往復1,600円かかるなどお金もかかり不便を感じています。ほかにも、伊都キャンパスの近くにスーパーがないので、食料品を買うにも駅まで行かなければいけません。こうした九大生に潜在する交通課題をなんとかしたいという思いも強いですね。

3つのプロジェクトを軸に活動 企業との共創活動も

――モビラボは、どのような活動を行っていますか。

「MobiValet(モビバレット)」、「MobiLab(モビラボ )」、「MobiStreet(モビストリート)」という3つのプロジェクトを活動の軸に据えています。

「MobiValet」では、モビリティ企業などが伊都キャンパスで実証実験や試乗会を行う際に、運営上の支援や、学生が日頃感じる課題などを企業に説明する意見交換会などを定期的に行っています。ほかに、企業に代わってSNSなどの広報活動を行ったり、実証実験の際に保守作業なども行ったりしています。

福岡市の国営公園、海の中道海浜公園で行われた電動キックボードシェアリングサービス「mobby」の実証実験で運営補助を行ったときの様子

福岡市の国営公園・海の中道海浜公園で行われた電動キックボードシェアリングサービス「mobby」の実証実験で運営補助を行ったときの様子(提供:モビラボ)



――現在はどういった企業支援をしていますか。

現在進行中のものでいうと、昭和グループが行っている「よかまちみらいプロジェクト」に関わっています。そのプロジェクトの一環として、伊都キャンパスでトヨタのカーシェア(TOYOTA SHARE)が始まったので、その体験会のお手伝いをさせてもらっています。ほかにも昭和バスと連携して、伊都キャンパス周辺のバス環境の在り方について意見交換会を行っています。昭和バスからすると、バスをもっと学生に利用してほしいということで、私たち学生側からの意見は非常に貴重だと言っていただいています。
※昭和グループ:福岡に本社を置く株式会社SEEDホールディングスを持株会社とする企業グループ。バス事業者である昭和自動車や、福岡トヨタをはじめとするトヨタ系の販売店などで構成されている。

ただ、モビラボ自体、学生とのつながりがまだまだ弱い現状なので、どうすればより多くの学生の意見を集められるか、そういったスキーム作りはこれからの課題の一つですね。

――「MobiLab」はどういった活動をしているのでしょうか。

「MobiLab」では、私たち学生や地域住民の「こういったモビリティがあったらいいな」というニーズを考えた新しいモビリティサービスのアイデアを、交通事業者やモビリティ関連企業に提案しています。賛同していただいた後は、企業と学生の共創活動ということでサービス実現まで目指しています。

――現在考えている企画はありますか。

現在ある企業に提案しているのは、キャンパス近くの農家などと提携して、野菜を学生に届けるような移動販売車の配車プラットフォームサービスです。先ほどもお話したように、スーパーは最寄り駅まで行かなければないのですが、畑はキャンパス周辺にたくさんあります。野菜を販売している九州大学の学生団体がありますので、そことのタイアップも考えています。

――「MobiStreet」について教えてください。

モビリティ専門のメディアを作っています。モビリティに関心のある学生が少ないのは、日ごろモビリティ自体に意識を向けていないからだと思うので、少しでも興味を持ってもらうためにメディアとして情報を発信しています。

まだ記事は少ないのですが、最寄り駅から伊都キャンパスまでのバス運賃が250円から300円に値上げした際に、運営会社である昭和バスまで取材に行った記事は、学生から大きな反響がありました。値上げした際にSNSで昭和バスに対して批判的な投稿をしていた学生もいたのですが、バス会社側も苦しい経営事情があると根拠を示して書いたところ、納得できたという投稿をしてくれました。

「MobiStreet」に掲載した記事(MobiStreetの公式noteにリンクします)

「MobiStreet」に掲載した記事
(実際のMobiStreetの公式noteにリンクします)




学生が入りたいと思ってくれる魅力ある学生団体にしたい

――今後、活動は拡大していく予定ですか。

そうですね。まだまだやりたいことはたくさんあってメンバーを増やしていきたいのですが、難しい側面があります。どうすればほかの学生たちにモビリティへの興味を持ってもらえるかが私たちの課題で、その解決策の一つに先ほどのMobiStreetやSNSでの広報活動があります。

それと同時にモビラボに入ることで、学生に対してどのようなプラスの面があるか、活動の意義や“価値”の部分についてさらに追及していきたいです。

――現在、考えられているモビラボの”価値”とはなんですか。

モビラボの価値というのは、モビリティという先進分野に関わりながら自分たちが住むまちづくりを考えられる点と、学生でありながら企業のビジネスに関われる点だと思います。その魅力を伸ばすために、連携する企業のサポートだけでなく、主体的に関われるようなプロジェクトを増やしていきたいですね。

また、「MobiLab」の活動についてなんですが、学生が考える学生のためのモビリティサービスを生み出して、一つでも多く実用化までもっていきたいです。将来的には、キャンパスだけでなく街全体に目を向けて交通サービスを展開するところまで活動の幅を広げていきたいですね。

(取材/齊藤せつな・太田祐一、記事/太田祐一)

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