ミドリムシと稲から作る次世代バイオ燃料―大阪発企業が目指す「自給自足」システムとは?―
2025/4/3(木)
運送業の脱炭素化を背景に導入が進むEVやFCVと並び、期待されているのがバイオ燃料の利用だ。しかしながら、ガソリンの代替となるバイオエタノールも、軽油の代替となるバイオディーゼルも、従来の製造方法には原料調達など幾多の問題点があるという。
その問題点を打破する可能性を持つのが、大阪府に拠点を置くRevo Energyだ。2022年設立の同社は、ミドリムシと稲を組み合わせた画期的な方法でバイオディーゼルの開発に成功。物流大手らと組んだコンソーシアムでの実証や、大阪・関西万博への出展を経て、今後のさらなる拡大を見据えている。
同社の代表を務める中谷敏也氏が語る、従来の常識を覆す「自給自足」型の燃料プラントとは?インタビューを通じて、その構想と取り組みに迫る。
その問題点を打破する可能性を持つのが、大阪府に拠点を置くRevo Energyだ。2022年設立の同社は、ミドリムシと稲を組み合わせた画期的な方法でバイオディーゼルの開発に成功。物流大手らと組んだコンソーシアムでの実証や、大阪・関西万博への出展を経て、今後のさらなる拡大を見据えている。
同社の代表を務める中谷敏也氏が語る、従来の常識を覆す「自給自足」型の燃料プラントとは?インタビューを通じて、その構想と取り組みに迫る。
■運送事業者を悩ませる3つの課題解決に向けて
——まずは、Revo Energyが取り組む事業について教えてください。中谷氏:私たちは、ミドリムシ(ユーグレナ)を使ったバイオディーゼル(軽油の代替燃料)の普及に取り組んでいます。事業を通じて、運送業界の課題解決に貢献しようと考え、Revo Energyを立ち上げました。
――御社から見て、現在の運送業界にはどんな課題があると考えていますか?
中谷氏:3つの大きな課題があると考えています。まず燃料価格の高騰、次に「2024年問題」とも呼ばれていた人手不足、そして環境問題への取り組みです。
——それらの課題解決にアプローチする御社の技術について教えてください。
中谷氏:私たちのコア技術は、高効率なミドリムシ培養と、培養に欠かせない特殊な稲の栽培に関するノウハウです。これらの優位性を生かして、バイオディーゼルを原料から自給自足できる小型プラントの構築に取り組んでいます。
――自給自足のプラントとは、どんな仕組みでしょうか?
中谷氏:具体的には、ミドリムシの餌となる培養液を稲から作り、その培養液でミドリムシを増やします。そして、培養したミドリムシの油脂から軽油の代替燃料となるHVO※を精製する。これらの一連の流れをプラント内で完結させる仕組みです。
※HVO:水素化処理油。Hydrotreated Vegetable Oilの略。植物油、廃食油または動物性油脂から水素化精製法によって精製したバイオディーゼルの一種。(参照:国交省「船舶におけるバイオ燃料取り扱いガイドライン」)
——自給自足の手法を構築する背景には、従来のバイオ燃料における課題があるのでしょうか?
中谷氏:そうですね。全てのバイオ燃料に共通する最大の課題は、原料調達です。環境問題を背景に期待されている燃料である一方で、例えばバイオディーゼルの主な原料である廃食油が不足して争奪戦になっています。しかも取引価格が高騰しており、廃食油をかき集めるよりも、食用油メーカーから直接買った方が安いのでは、と思えるほどです。
そのほかにバイオディーゼルの原材料として利用されるパーム油(ヤシ油)に関しては自然破壊を防ぐ観点から輸入規制がかかっています。また、ガソリンの代替燃料であるバイオエタノールの原料となるサトウキビなどの作物は、食品利用と競合してしまいます。
対して、自給自足の小型プラントであれば外部環境の影響を受けないので、材料調達や燃料確保を安定させることが可能です。
■ミドリムシと稲にまつわるコア技術
——ではコア技術の1つであるミドリムシの培養について教えてください。一般的な培養方法とは何が違うのでしょうか?中谷氏:ミドリムシは、光合成で成長する“植物的な”性質と、餌を食べて成長する “動物的な”性質を併せ持つ生物です。光合成によって培養 したミドリムシは、健康食品やサプリメントの材料に利用されます。ただ、光合成ではミドリムシの個体数は6日間でおよそ1.12から1.19倍(Revo Energy調べ)に しか増えず、効率がいいとは言えません。
プロジェクトの最大の課題は「どうやってミドリムシを増やすか」でした。そこで私たちは、ミドリムシの動物的な性質に着目し、光合成をさせない「従属栄養培養」という方法にたどり着きました。
――従属栄養培養とは、どんな培養方法なのでしょうか?
中谷氏:光を当てない暗闇で餌(独自開発の培養液)を与える、極めてシンプルな方法です。そうすることで、ミドリムシは6日間で90倍(同社調べ)という驚異的なスピードで増殖します。現在はこの効率をさらに高め、200倍を目指して研究を進めています。
従属栄養培養で増殖したミドリムシは、体内に油脂を溜め込みます。この油脂こそが、HVOの原料となるワックスエステルです。ただし、この方法だとサプリメントは作れません。私たちはこのミドリムシの二面性を理解し、燃料生産に特化した培養方法を選択しているのです。
——ミドリムシ用の培養液の開発も苦労されたそうですね。
中谷氏:こちらもまさに試行錯誤の連続でした。効果的な溶液を探る過程で、ラボの目の前にある自動販売機の飲み物を、端から順に試しましたよ。酔った勢いで「お酒を入れてみたら」と試したことさえあります。それこそ、試していないのはケチャップとマヨネーズくらいではないでしょうか。結局、一番コストがかからず、かつ効率的にミドリムシが増えたのは自社栽培した稲から作った培養液でした。
大阪府吹田市に構えるラボ内の様子
——もう1つのコア技術である特殊な稲の栽培と培養液の製造についても教えてください。
中谷氏:実は最も苦労したのは、稲の栽培でした。通常の稲の品種は年1回しか収穫できないため、培養液の原料とするには不向きです。私たちが栽培に成功した特殊な品種の稲は、背丈が20センチほどで、2カ月で収穫できます。また、LED技術や水耕栽培システムを開発し、室内での栽培が可能です。
ちなみにこの品種の稲は、大学の研究室や大企業でも栽培できなかったと言われています。実際、私たちも最初は何度も枯らしてしまい、失敗を繰り返して栽培方法を確立しました。
栽培中の稲。稲穂だけでなく葉や茎、根も培養液の原料となる。
■「自給自足」型の燃料プラントを展開
——具体的なビジネスモデルについても教えてください。中谷氏:重要なのは、私たちは燃料を販売する企業ではない、という点です。私たちは、自給自足型の燃料プラントを、運送事業者などに向けて販売します。そして、顧客の事業所などの敷地内にプラント設備を置き、その後のオペレーションも担います。顧客側で必要なのは土地と建物の準備だけで、あとは出来上がった燃料を使用するだけ。そのようなビジネスモデルを展開する計画です。
顧客が1日2,000リットルの燃料を使うと想定すると、10年間で約4億円の燃料費を削減できる試算です。この削減分を人件費に回せば、環境対応と人材確保の両課題を同時に解決できます。
――燃料を自社生産することで、冒頭に挙げた運送業界の課題を解決しようというわけですね。
中谷氏:さらに、「創エネプラットフォーム」構想の確立も目指しています。この構想では、稲の栽培からミドリムシの培養、燃料抽出までを一貫して行うプラントを中心に据えつつ、プラント自体の稼働も太陽光発電などの再生可能エネルギーを使って運用します。加えて、関西電力グループのSenaSon のエネルギーマネジメントシステムを導入し、電力の最適化も図る考えです。
——プラントの運用や保守はどのように行われるのでしょうか?
中谷氏:プラントの販売価格は、建物代・設備費用を合わせて約4億円を想定しています。ただ、私たちは初期導入費よりもメンテナンスによるランニング収入を重視する考えです。
プラントの保守は、私たちのスタッフが定期的に訪問して、清掃や培養液の補充などを行います。また、2カ月に一度はパネルの入れ替え(田植えと稲刈り)などの作業を行う想定です。日常的な監視や制御は、IoTを活用した遠隔操作で行います。この点は、顧客にとってメンテナンス不要というメリットになります。
——ターゲット市場についても教えてください。
中谷氏:バイオディーゼルの市場は、世界的に見ると80兆円、日本だけでも運送業で約4兆円の巨大な市場です。重機や建機、船舶も潜在的な市場で、これらを合わせると約16兆円規模の市場となります。また、約5万7千社ある国内の運送事業者のうち、私たちのターゲットとなる11台以上のトラックを持つ企業は、約2万7千社あります。
■EV・FCVとは違う選択肢を、万博後に本格展開へ
——EVやFCVの普及が進む中、バイオディーゼルの必要性についてはどのようにお考えですか?中谷氏:確かに、物流大手などでは小型商用車の電動化が進み、政府も2030年に小型商用車のEV比率を20〜30%とする目標を立てています。とはいえ、現状では大型車両のEV化が順調に進んでいるとは言えないでしょう。水素トラックについては、車両やステーションのコスト面が課題で、高い導入ハードルがあります。
現状、国内を走る約1,400万台のトラックを全てEVやFCVに切り替えるのは現実的ではない、と言わざるを得ません。従来の軽油の代替飲料として、バイオディーゼルは非常に有効な選択肢なんです。
——現在の開発状況と今後のスケジュールについて教えてください。
中谷氏:昨年5月にはRevo Energy が代表企業となり、SGホールディングスのグループ会社であるSGムービングや、大阪に拠点を置く池田泉州銀行など7社が参画するコンソーシアムを立ち上げました。
現在は、Osaka Metro御堂筋線の延伸で新設された箕面船場阪大前(みのおせんばはんだいまえ)駅の近くに実証プラントを建設中です。このプラントには実際にトラックが入れるように設計していて、燃料の供給と走行実証も行う計画です。
——大阪・関西万博にも出展されるそうですね。
中谷氏:万博では、大阪ヘルスケアパビリオンと電力館の2カ所に出展予定です。ヘルスケアパビリオンは7月1日から1週間の出展で、電力館は4月の開幕以降の全会期、 6カ月間の出展になります。ジオラマや映像を通じて技術やコンセプトを紹介する予定です。
——万博後はどのように取り組まれる構想でしょうか?
中谷氏:現時点で多くの企業からの問い合わせが寄せられていますが、本格的にサービス提供を始めるのは、順調に進んだとして万博の会期終了後になるでしょう。その後、当面は運送会社での導入実績を積み上げながら、ターゲット市場の拡大を図るつもりです。
将来的には、ジェット燃料(SAF)にも対応できる大型プラントでの大量生産も視野に入れています。また、大型プラントの開発や研究開発を加速させるためには、資金調達や大企業との連携も必要になるでしょう。将来的なIPO(株式上場)も視野に入れながら、これからも取り組みを続けていきます。
【取材後記】
Revo Energyが目指す「自給自足」型のバイオディーゼルは、原料調達という業界全体の課題に対する独自のアプローチとして要注目だ。全てのプロセスを一貫して行うプラントが実現すれば、大型車両の脱炭素化に大きく貢献できる可能性がある。
これから本格化する実証プラントでの取り組みでは、ラボにおける成功事例を大規模なプラント運用に発展させられるかがポイントになる。今後の実用化を見据えると、この実証が重要なマイルストーンとなりそうだ。
(取材・文/和田翔)