道路・街路を人の暮らしに寄り添った場所に変える「ストリートデザイン・マネジメント」とは?--横浜国立大学三浦助教インタビュー
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2019/8/5(月)
道路空間は自動車が登場して以来、長らく自動車が主役の場所である。江戸時代の浮世絵などで描かれているように、かつて道には広場や市場などがあり、人々の生き生きとした活動が生まれる場所であったが、今では時速60km/hで走る大きい乗り物と、歩行者が隣合わせという、緊張感のある場所となっている。しかし昨今、道路上の交通技術に、自動運転やMaaS、パーソナルモビリティの出現などの変革が起きている。今まさに、これらの技術革新とともに道路を人にとってより安全で、豊かな場所に変革するチャンスかもしれない。「道路」「街路」を移動だけでなく、人の様々な活動ができる、暮らしにとって身近な場所=「ストリート」にするための意義と方法論「ストリートデザイン・マネジメント」の研究に取り組む横浜国立大学交通と都市研究室助教の三浦詩乃氏に話を伺った。(文:齊藤 せつな)
都市には「道路」「街路」ではなく「ストリート」が必要
三浦氏の研究テーマである「ストリートデザイン・マネジメント」とは何なのか。まずは、「道路」「街路」ではなく、あえて「ストリート」という言葉を使う点に着目したい。三浦氏によると、これはただ単に英語を使っているというわけではなく、日本語では表現しきれない、「交通のための場所」以上の、さまざまな意味を含むからだという。
「そもそも『道路』は、道路法上の法律用語であり、戦後、急速に自動車が普及したときに現行の道路法が生まれました。つまり、自動車ありきの言葉であり、自動車をいかに安全に、速く、円滑に流すかに重点がおかれます。1990年代になると道路法の改正が行われ、自動車だけでなく、歩行者・自転車・公共交通の場所であるという考えが追加されましたが、あくまでも「円滑な交通のための場所」という考え方は変わっていません。また、並木道など、景観や都市機能を重視した「街路」も道路法のもと運用されるので、あくまでも交通路です」(三浦氏)。
しかし、実際の道路や街路の役割は、交通だけではない。今でも路上で見かけるように、人が立ち話をしたり、ひと休みをしたり、ぶらぶらと散策を行うように、一日のうちで必ず使う、誰にとっても身近な公共の場所でもある。そこで、三浦氏は海外ですでに広まっていた「ストリート」という言葉に着目した。
「イギリスでは1990年代に『ストリートを取り戻せ(Reclaim The Street)』という運動が広まっていました。人がゲリラ的に道路を占拠して、自分たちの場所に取り戻す運動です。道路は、もちろん交通のための場所ですが、それだけでなく、人々の交流や活動なども含めて、自分たちの暮らしに使える場所にすべきだと訴えるものです。その頃から、この『ストリート』の概念が世界で広まっています。日本で広める際、既存の用語では、『暮らしのために取り戻された道』を表現しきれず、この『ストリート』を使っています」(三浦氏)。
「ストリート」が都市の暮らしをいきいきとさせる
では、なぜいま、「ストリート」が必要なのか。「ストリート」をつくるということは、人が活用できる公共の場所を充実させるということだ。これは都市の活性化・魅力向上にもつながるという。例えばニューヨークでは、道路を一部封鎖して、歩行者空間や広場を充実させる、大胆な政策が行われた。これによって人がまちに滞在する時間が増え、周辺の小売店の売り上げが増加したという。まちの中にひと休みをしたり、立ち話をしたりする場所があることは、高齢者の外出機会を維持して、生き生きと暮らすためにも重要である。また、まちに多くの人の目があることは、防犯にも有効である。昨今、自動運転車、MaaS、様々なパーソナルモビリティの出現など、モビリティ技術の進歩も著しい。また低速車両の台頭にもあるように、交通は、速く、大量に、遠くへ運ぶというだけでなく、生活のある場面ではゆっくりでも良いというような考え方に少しずつ変わりつつある。今まさに、技術革新とともに「ストリート」を再構築する機会だと考えているという。
実は、国もすでに動き始めているという。