「1週間でEVシステム統合を完遂」したAZAPAが見据える自動車開発の大変革
2025/8/20(水)
「コンバートEVのシステムインテグレーションを、わずか1週間で完遂する」
にわかには信じがたいこの挑戦を成し遂げた企業がある。独自のモデルベース開発で自動車業界をリードしてきたAZAPAだ。インドネシアの首都ジャカルタで開かれた国際オートショーの場で披露した同社の技術の真髄は、国内外から大きな注目を集めた。
中国企業の台頭やカーボンニュートラルへの対応などを背景に進行する電動化において、「いち早く市場にEVを」というニーズは根強い。そんな中、同社が達成不能にも思える挑戦をクリアできたのはなぜか――。それを紐解くことで、熾烈な競争を勝ち抜くための示唆を得られるだろう。未来を創造する同社の開発思想に迫った。
にわかには信じがたいこの挑戦を成し遂げた企業がある。独自のモデルベース開発で自動車業界をリードしてきたAZAPAだ。インドネシアの首都ジャカルタで開かれた国際オートショーの場で披露した同社の技術の真髄は、国内外から大きな注目を集めた。
中国企業の台頭やカーボンニュートラルへの対応などを背景に進行する電動化において、「いち早く市場にEVを」というニーズは根強い。そんな中、同社が達成不能にも思える挑戦をクリアできたのはなぜか――。それを紐解くことで、熾烈な競争を勝ち抜くための示唆を得られるだろう。未来を創造する同社の開発思想に迫った。
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●V字プロセス刷新 35%コスト削減を実現した独自の開発思想
なぜこれほどのスピードで開発できるのか。その理由を知るには、まずAZAPAが確立した開発哲学を俯瞰する必要がある。従来の自動車開発において一般的だったのは、いわゆる「V字プロセス」による開発手法である。この手法においては、製品レベル・システムレベル・部品レベルの3フェーズに分類し、このフェーズに沿いながら何度か試作のループを繰り返すことで完成に近づけていく必要がある。しかしCソースコードや実車・実製品を用いる従来のV字プロセスは、現在の複雑なシステム開発には適さない場面が生じる。何より、試作や手戻りが多い点が大きな問題だ。
そこでAZAPAは、このV字プロセスを根本から見直し、「価値設計―評価」、「実装設計―評価」、「適合設計―評価」の3段階プロセスへと分割。MILS・SILS・HILS※1からなるMBSE※2基盤を構築し、独自のトータルデザインマネジメント(TDM)プロセスを確立した。
※1 MILSは「Model In the Loop Simulation」の略称。同様にSILSは「Software In the Loop Simulation」、HILSは「Hardware In the Loop Simulation」。
※2 MBSEとは、モデルベースシステムズエンジニアリングの略称。複雑なシステム開発において、要件定義から設計・検証までの全工程にモデルを活用して統合的に管理する開発手法を指す。
※2 MBSEとは、モデルベースシステムズエンジニアリングの略称。複雑なシステム開発において、要件定義から設計・検証までの全工程にモデルを活用して統合的に管理する開発手法を指す。
このTDMプラットフォームを用いた開発プロセス図を見ると、従来のような一方向の流れではなく、各段階で相互に検証・最適化を行う複雑な構造が描かれている。これは一般的なソフトウェア工学ではなく、ハードウェアを含むシステム全体を統合的に扱う「システムデザイン工学」のアプローチだ。
企画・要求段階から実機の検証まで、フェーズごとにシミュレーションを最大限に活用し、アーキテクチャ(理論の接続)をしながら非常にスピーディーな開発プロセスを循環させていく。AZAPAの自社調べによると、こうした開発プロセスの革新により35%のコスト削減を達成したという。
●6つの特徴で読み解く従来シミュレーションとの違い
AZAPAの開発基盤を活用することで得られるメリットの1つに、企画段階で早期の合意形成が可能になる点が挙げられる。そのために欠かせないのが、同社が提供するソリューションである「性能シミュレーション(性能SIM)」だ。このソリューションは、OEMとサプライヤー間で発生しがちな要求漏れなどの合意形成のロスを解消するために開発された。前述の通り、従来の開発では試作と手戻りの繰り返しにより、合意形成に膨大な時間を要していた。AZAPAの性能SIMが持つ以下の6つの特徴は、この構造的問題の解決に結びついている。
1.早期合意形成による開発効率化
試作に依存しない開発プロセスを実現し、事前のリスク分析が可能。
2.コスト削減と品質向上の両立
従来の開発アプローチと比較して、大幅なコスト削減と品質向上を実現
3.品質の作り込みと自動適合
TDMプロセスは、価値設計を起点に、品質の作り込みと自動適合まで一貫してカバーし、MBSEを強い親和性を持つ。
4.価値基準に基づく開発支援
AZAPA TDMにより、顧客価値を最大化するシミュレーション評価を実現。
5.実車データ活用による競合比較
実際の車両データを活用し、競合分析や部品・機能の寄与度評価が可能。
6.A-SPICEプロセス準拠の本質追求
A-SPICEに準拠しつつ、TDMは価値・モデリング中心のアプローチで「設計本質」が焦点。
●「100台のEV実証」が証明したAZAPAの技術力
しかしながら、概念や理論を述べるだけでは、AZAPAの真価は見えてこない。実際のプロジェクトにおいて成し遂げた実績を見てこそ、その点が浮き彫りになってくる。同社はすでに、日本国内のあるOEMと協業し、全国48カ所のディーラーで100台の電気自動車(EV)を走行させている。この100台のEVは、既存のガソリン車をベースにしたもので、ECUやハーネスなどは、AZAPAのテクノロジーで開発されたものが搭載されている。設計効率化のみならず、OEMと同等の品質基準をクリアしたことに、AZAPAの総合的な技術力を垣間見ることができる。
先行車両開発を社会実装するプロジェクトを、同社は「PoCフィールド」と位置づけている。この取り組みでは、前述した性能SIMを最大限に活用したシステムデザインを行い、スピーディーな合意形成へとつなげ、MBSEによる論理的な設計開発を通じたECU実装まで行った。さらに現在は全車両のリモート管理まで実現している。このトータルの開発期間がわずか10カ月だというから驚きだ。また、現時点で展開の開始から2年経つが、重要品質問題を起こしてないという成果も目を見張るものがある。
この取り組みで特筆すべきは、「AZAPAの開発基盤や性能SIMなどを活用することで、OEMの安全基準と品質基準を満たす製品を迅速に作ることが可能」だと示した点だろう。あるいはこの事例を通じて、AZAPAの技術力は「車の中身を素早く造り変えるマジック」として顕現されたとの見方もできる。外見は既存の車両でも、全く異なる価値を持つ製品に変貌(価値設計)させるわけだ。
●「カンコツ」依存の開発を、徹底した「論理的プロセス」へ
AZAPAの開発スピードの背景には、日本の製造業が長年抱えてきた根本的な課題への明確な解決策がある。それは「カンコツ(勘やコツ)開発」からの脱却だ。自動車に限らず、日本における製造・開発の現場でよく聞かれる「あの人しかわからない」という“匠”の感覚に依存する属人的な問題は、スピーディーな開発の足枷となるケースが多々ある。この課題解決に取り組んでいる点からも、「テクノロジーは公平で平等に世界をアップデートさせる」という同社の哲学が見える。さらに深刻なのは、組織の縦割り構造だ。エンジンやトランスミッションなどコンポーネントごとに部署が分かれ、それぞれが自分たちの所管で開発を行ったものの、いざ全体を合わせた段階で、想定とは異なる結果になることも往々にして起こる。
AZAPAが提供するのは、こうした属人的な開発からの根本的な脱却だ。そのためには、システム全体の性能分配をアーキテクトで理解していく必要がある。一貫したプラットフォーム上で性能段階からシミュレーションを行う利点は、そうした全体的な理解度を高められる点にもある。
さらにAZAPA独自の開発基盤について語る上で欠かせないのが、これまで数値化が難しいとされてきたドライバーの感性や操作特性などの領域まで網羅している点だ。
例えばタイヤの磨耗や路面コンディションの変化といった動的な要因の中で、車両がどこまで性能を発揮できるかを正確に把握し、ドライバーが感じ取る足回りの操作感覚と結び付ける――。このような人と車の“調律”も同社が得意とするところだ。
現在AZAPAは、スポーツカーのフィール制御システムに従事している(筑波大学のスポーツ科学分野との協業)。シートによる人の筋力・体幹の支え、運動性やクルマの状態(コンディション)から、旋回性能の限界を検知・制御することで、限界での一手をドライバーに伝える開発を行っている。これはクルマの魅力を根底から創りあげるコアな取り組みだ。
従来のシミュレーションツールが個別機能の検証に留まる中、AZAPAの性能SIMは技術と感性も包含したまったく新しいシミュレーション体系を構築している。
●グローバルに広がる「1週間で車をつくる」未来
そんなAZAPAの技術力は、日本国内に留まらない。同社は現在、グローバル開発体制の構築にも注力している。冒頭に触れたインドネシアでの挑戦は、この方向性を示す代表的な事例だ。日本国内のOEMがインドネシアで展開する現地法人との協業で、前述したコンバートEVのミッションは完遂された。MBSE開発基盤によるソフトウェアファーストの開発力を武器に、性能SIMによる事前検証から統合ECUの実装、そして現地でのEVシステムインテグレーションを、現地チームと連携してわずか1週間で完了させたのだ。開発した車両は、インドネシア最大のモーターショーにおいて、同現地法人のブースでコンセプトEVとして展示され、国内外から大きな注目を集めた。
また、グローバルにおいても迅速な開発スピードを実現するには、離れた場所にいるAZAPAと顧客の間で、同じ開発環境を構築する必要がある。この環境をAZAPAでは同席設計環境と名付け、MBSE開発プラットフォームを運用する上で重要なポイントとして位置づけている。
インドネシアでのミッションを見事に成功させたのも、この思想を具現化し、物理的に離れた場所にいても、同じシミュレーション環境を共有することで、海外の顧客とのリアルタイムでの協業を実現できたからだ。実際に前述したコンセプトカーの展示によって、同社のシミュレーション技術と開発プロセスは、文化や言語の壁を越えても効果を発揮できることを示したと言えるだろう。
AZAPAは今後、国内の自動車開発に革新をもたらしてきたMBSEプラットフォームによる開発プロセスを、グローバルでも展開する方針だ。これは単なる技術輸出の取り組みではなく、日本で培った知見を世界標準として確立し、グローバルでも存在感を発揮するための挑戦でもある。まずは中国やASEAN諸国を皮切りに、取り組みの強化を図っていく。
「1週間で車を完成させる」という常識外れの行いは、近い将来では特別な事柄ではなく、AZAPAが提供する標準的なサービスとなっているかもしれない。未来の価値を共創しながら磨いてきた同社の技術力は、国境を越えて世界中にものづくりの新しい可能性を提示している。
