「安全運転義務違反」は重大事故の入口?弁護士が徹底解説
2023/2/14(火)
安全運転の重要性は多くのドライバーが認識しているだろう。しかし、具体的にどんな運転行動が「安全運転義務違反」にあたるのか、どんな罰則を受けるのか、知らない人も多いはず。今回は、交通事故の分野に詳しいWILL法律事務所の清水伸賢弁護士に話を伺った。慣れや慢心からつい危ない運転をしていないか、本記事を通じて自身の運転を振り返ってみよう。
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「安全運転義務」は道路交通法で定められている
――「安全運転」という言葉を聞くといろいろな運転シーンや行動を想像しますが、具体的に法律で定められているのでしょうか?清水氏:道路交通法第70条に定められていて、条文には「車両等の運転者は、当該車両等のハンドル、ブレーキその他の装置を確実に操作し、かつ、道路、交通及び当該車両等の状況に応じ、他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転しなければならない。※」とあります。
※引用:e-Gov法令検索
――事故統計※を参照すると、「安全運転義務違反」が交通事故原因の多くを占めています。例えば信号無視や速度超過などの交通違反をイメージしがちですが、数字で見ると安全運転義務違反の方が多いんですね。清水氏:信号無視や速度超過といった違反も、同法70条に該当しうるので、広い意味では全て安全運転義務違反だともいえます。ただ、信号無視や速度超過などは安全運転義務違反とは別に条文が設けられていて、違反した場合は主にそちらが適用されます。
そういう意味では、第70条の安全運転義務は包括的な規定といえるのではないかと思っています。事故の原因になる危険な運転操作のうち、個別に定められていないものが安全運転義務違反に当てはまる、という考え方です。統計の件数が多いのは、そうした法律的な建て付けが一つの理由だと考えられます。
――とはいえ、条文を読んでも「何をしてはいけないのか」が分かりにくいですね。
清水氏:そうですね、「状況に応じ」や「他人に危害を及ぼさないような速度と方法」などとありますが、「じゃあどんな運転が駄目なの?」と疑問に思うかもしれません。
――具体的にはどういった運転行動が違反行為となるのでしょうか?
清水氏:例えば、前方不注意が挙げられます。さらに細かくすると「漫然運転」という内在的要因と、「脇見運転」という外在的要因に分かれます。
例えば、運転中に悩み事について考えていたり、疲れてボーッとしていたり、そういう頭の中の思考が内在的要因です。対して、運転中に携帯電話が鳴って脇見をしてしまう※とか、自分の外部で起こるのが外在的要因です。
※運転中に携帯電話を保持して通話したり画像注視したりする「ながらスマホ」は、別途違反の対象となる。(参照:政府広報オンライン「やめよう!運転中の『ながらスマホ』違反すると一発免停も!」)
――交差点では注意していても直線が続く道路では油断してしまうとか、道路条件などの要因もありそうですね。他にどんなケースがあるでしょうか?清水氏:その他には、運転操作不適・動静不注視・安全不確認・安全速度違反があります。ちなみに、いずれにも含まれない場合、事故統計上「その他」に分類されます。
運転操作不適
(例)アクセル・ブレーキの踏み間違いや踏み損ね、ハンドルの操作ミスなど。動静不注視
(例)「対向車が止まってくれるだろう」や「歩行者が道路を横断してこないだろう」といった考えで、危険な要因に気付いていながら誤った行動をとった。安全不確認
(例)前後左右の安全確認が不十分で、歩行者や他の車両の存在に気付かなかった。安全速度違反
(例)最高速度違反ではなく制限速度内で走行していたが、見通しが悪く徐行しなければならない状況で、安全速度で走行しなかった。――非常に細かい項目に分かれているんですね。
清水氏:ただ、これらは主に交通事故の統計上の分類で使用される用語であり、法律用語というよりは交通用語といえるかもしれません。こうした分類をすることで、事故対策を検討しやすい面もあると思います。
「安全運転義務違反」に該当した場合の罰則は?
――安全運転義務違反は、実際に事故が起きたかどうかは関係ないんですよね?
清水氏:はい、実際に事故には至らなくても、安全運転義務違反に該当する運転行動をしたら、違反の対象になります。
――違反した場合、どんな罰則があるのでしょうか?
清水氏:安全運転義務違反の違反点数は2点で、基本的には行政処分※で終わることが多いです。違反をしたからただちに刑事処分という話ではなくて、事故が起きた場合、その内容や結果に応じて点数が加算されます。
※道路交通法における行政処分は、罰金の他にも累積した違反点数に応じて免許の停止や取り消しなどの処分が下される。なお、刑事処分では、道路交通法で定められた罰金や懲役などの刑罰を受ける。
乗用車(普通自動車)であれば、9,000円の反則金※を支払う必要があります。反則金を払うと行政罰だけで終わる、という建て付けですね。正確に言うなら、安全運転義務違反の刑事罰自体は法律で定められているが、交通反則通告制度によって反則金を払えば刑事手続が免除される、ということになります。※二輪車の場合7,000円、原付の場合6,000円
――刑事罰になる場合もあるんですね。清水氏:例えば安全運転義務違反の反則金を支払わない場合、「三月以下の懲役又は五万円以下の罰金(道路交通法第119条)」を科せられます。交通事故や違反は無数に起こりますから、一つ一つ起訴して裁判を行うのは現実的ではありません。ですから、過失が軽く被害も軽微な場合は反則金を科す行政処分で済ませる、ということです。
――そうした事実を知らないドライバーも多いように思います。安全運転義務違反はれっきとした法令違反だと知っておいた方がいいでしょうね。
――人身事故を起こした場合、先ほどのお話とは別の罰則があるのでしょうか?
清水氏:付加点数といって、生じた結果に応じて点数が加算されます。死亡事故の場合は、事故状況にもよりますが、最高20点※が安全運転義務違反の2点に加わります。
※参照:警視庁「交通事故の付加点数」
――万が一死亡事故を起こしてしまった場合は、刑事罰になりますよね?清水氏:基本的には、自動車運転過失致死傷罪にあたります。近年、何度か法改正が行われていますが、正式名称は「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」です。
「死亡事故の場合20点」というのは行政罰に関する話で、それとは別に、刑事罰として過失運転致死傷罪が成立する、という考え方です。この場合、幅はありますが「七年以下の懲役若しくは禁錮又は百万円以下の罰金※」と定められています。
※e-Gov「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」
――「幅はある」とのことですが、その幅を分ける要因とはなんでしょうか? 清水氏:大きく左右されるのは事故の結果です。被害者が死亡したのか負傷したのか、負傷で済んでも後遺障害が残るほど重いのか、そういった結果が考慮されます。同じ運転行為で起きた交通事故でも、深刻な結果になっていると重い判決が下されます。
――ドライバー側の悪質性によって厳罰になることもありますよね?
清水氏:大幅に速度超過をしたとか、飲酒運転をしたとか、安全運転義務違反どころではない重大な行為があった場合、危険運転致死傷罪※というもっと重い罪になります。また、同じ過失運転致死傷罪であっても、過失の程度によって具体的に言い渡される刑罰の軽重に影響があります。
※過失運転致死傷罪と同じく「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」に定められている。
「安全運転に近道なし」継続できる仕組み作りが大切
――これまで清水さんは、弁護士としていろいろな交通事故の事例を見てきたと思います。その中で、安全運転義務違反の防止策について、どんな方法が有効だと考えていますか?清水氏:「日々体調を整えましょう」とか、「緊張感を持ち交通ルールを守って運転しましょう」とか、どうしても抽象的な言い方になってしまうので、難しい問題ですね。
――誰しも運転免許を取ってすぐのころは安全運転をしていたと思いますが、やはり慣れが悪い方向に出てしまうのでしょうか。
清水氏:ただ、安全運転義務違反が事故につながるのは、適切な危険予測ができていないことが原因の一つなので、他律的に注意喚起できる仕組みがあれば事故防止に役立つのでは、と思います。
――例えばですが、JAFは「交通安全3分トレーニング」を公開していますよね。こうしたドライブレコーダーの映像の活用についてはいかがでしょうか?
清水氏:効果を数字で測定するのは難しい面もありますが、そういう取り組みで運転中の注意の程度は変わるでしょうから、事故の発生を減らせる可能性はあると思います。
何より、安全運転教育は、社用車を保有する会社の義務であるといえます。教育を怠り運転をドライバー任せにして事故が起こった場合、間違いなく会社の責任を問われます。
結果として事故が起きてしまったとしても、そうした社会的な責任を果たしているかどうかで、損害賠償の負担(この場合、主に会社と事故を起こしたドライバー間の負担割合)などが変わることもありえるでしょう。
――通信型ドライブレコーダーの機能として、録画した映像から事故やヒヤリハットのシーンをピックアップして、安全運転教育に活用できるものもあります。
清水氏:自社のドライバーが運転した実際の映像を、他のドライバーと共有できるのは効果があると思います。実際の映像、まして同僚たちの運転映像であればなおさらでしょう。危険な事例を共有することで、高い緊張感を保って安全運転意識の向上につなげるのは、一つの方策としてあると思います。
*通信型ドライブレコーダーの特徴
運転状況の見える化で事故の予防につなげる 車間距離や速度超過、一時不停止等、ドライバーのさまざまな運転行動を見える化できます。可視化したデータをドライバーごとの運転診断に活用するなど、日々の安全運転管理に役立つ機能が満載です。AIが抽出したヒヤリハット映像を安全運転教育に AIがヒヤリハットの可能性がある映像のみを自動で抽出します。ヒヤリハットの発生地点をマップ上に表示して危険なポイントを共有したり、ヒヤリハット映像を活用したe-Learning資料を作成したり、ドライブレコーダーが取得したデータを日々の安全運転教育に活用できます。
全車両の位置情報をリアルタイムで確認 社用車がいまどこにいるのか、どこでどんな走行をしたのかを記録し、確認することが可能です。万が一の事故でも、場所と状況のスムーズな確認が可能になり、迅速な対応に貢献できます。
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――よく「だろう運転」より「かもしれない運転」を、と言われますが、やはりそれが重要だと改めて感じました。
清水氏:安全運転義務違反や、その結果発生する事故は、「だろう運転」をしても何も危険なことは起きなかった経験が積み重なって起きている面があるでしょう。
事故の事例を見ても、「そんな場所から人が飛び出してくるとは思いませんでした」という話は実際よくあります。教習所で学んだことはやっぱり大事なんです。それを毎回運転のたびに思い出す必要があると思います。
――業務の中で実践するにはどんな方法があるでしょうか?
清水氏:最終的には一人一人の自覚という話になるんですが、それをサポートする体制が大切ではないでしょうか。点呼時の体調やアルコールのチェックといった人的なこともそうですが、設備機器の導入なども含めて、安全運転に配慮していく必要があると思います。
会社側がそうした姿勢を示すことによって、ドライバー側に「注意して運転しないと」という自覚が芽生える面もあるでしょう。ですから、「安全運転をしないといけない環境」を作ることも一つの方法だといえます。
自分の運転が、安全運転義務違反になっていないか
【今回のポイント】
・安全運転義務違反はれっきとした法律違反
・基本に返って「かもしれない運転」の徹底を
・社用車での違反を減らすには、環境作りも大切