【特集】黎明期から自動運転にチャレンジしてきた塩尻市「地方都市にこそ自動運転を」/百瀬市長インタビュー
2025/12/9(火)
ドライバー不足が深刻な中、いずれ自動運転技術が活用されることは間違いない。レベル4の運行が全国8カ所で始まり、自動運転バスやタクシーの導入が少しずつ現実味を帯びてきた。公共交通事業者が目下の経営で苦境に立たされている中、自動運転で鍵を握るのは自治体だ。自動運転の技術実証が始まった初期のころから取り組んできた長野県塩尻市の百瀬市長(以下、百瀬氏)に話を聞いた。
(取材・文/モビリティジャーナリスト 楠田悦子)
(取材・文/モビリティジャーナリスト 楠田悦子)

塩尻市 市長 百瀬 敬(ももせ たかし)
1970年生まれ、日本大学法学部政治経済学科卒業。塩尻市役所に就職後、就職企画課、情報推進課、観光課、産業政策課などを経て、塩尻市として初めて40歳代で産業振興事業部長に抜擢される。2022年10月1日から現職。
新しいものにチャレンジをする土壌
――自動運転についてどのようにお考えか教えてください。百瀬氏:社会全体を見渡すと、地域公共交通事業においては運び手がいない構造的な問題があります。まずはその問題を解決しなければなりません。塩尻市では2020年から自動運転の実証実験を始めました。当時は全国的にもまだ珍しい取り組みで、「達成できない領域だ」と考えた方もいたかもしれません。しかし今では、実用化の出口が見えてきています。塩尻市には新しいことに挑戦する文化があります。塩尻市は1億2千万人の日本をぎゅっと小さくしたような自治体で、ここで成功すれば全国にも広がるはずだと期待しています。

交通が脆弱な地方都市だからこそ自動運転が必要
――公共交通は民間事業者が担うものだという考え方が日本にはあります。なぜ大都市の自治体ではなく、地方都市の自治体がわざわざ技術開発の時点から自動運転に取り組むのでしょうか?百瀬氏:地方都市の交通基盤が弱いことは既知の通りです。交通手段がないと日常生活の多くのことが成り立たないのが現実です。私たちは「選ばれる自治体」を目指していますが、そのためには交通基盤をきちんと整備することが欠かせません。
塩尻市の自動運転レベル4の取り組みは社会実装に向けた最初の一歩です。20年、30年先を見据えたとき、自動運転が当たり前に使えるようになれば、行きたいところに行きたい時間に行けるようになります。そうすれば、地方都市は強くなれると考えています。
結果のみならずプロセスにも未来につながる要素がある
――他の自治体や民間事業者が開発したものを、後から塩尻市が使う選択肢もあるかと思います。先駆けて自動運転の実証実験をしたり、実装しようとしたりしているのはなぜですか?百瀬氏:アイサンテクノロジーやティアフォーといった自動運転関連の企業ともつながりができており、自動運転の3Dマップ作成には塩尻市振興公社(KADO)の皆さんが携わってくださっています。先日、「市民が関わる自動運転の取り組み」は先駆的でかつ他の地方都市のモデルとなり得るものと高く評価され、国際交通安全学会賞を受賞しました。完成された自動運転の“結果”だけではなく、そのプロセスの中にも未来につながる大切な要素がありますので、その一つひとつを大切にして取り組んでいきたいと思います。
――今抱えている問題や課題は何だと認識されていますか?
百瀬氏:急な周辺環境の変化への対応が大きな課題です。例えば、塩尻市では雪が降るため、自動運転が動けない状況に陥りやすくなります。また、法制度や手続き面でも課題があります。自動運転レベル4の申請には一定の労力がかかりますし、事故が起きればネガティブなトーンになってしまいがちです。ただ、一般の乗用車を運転していても、必ず事故のリスクは付きまといます。そのため、自動運転の事故をある程度許容できる社会になっていかないと、なかなか実用化は進まないと感じています。

強みを掛け合わせ弱みを打ち消す、自治体同士のつながりを
――交通事業者は自社の経営が苦しい中で新しいことに手を出せなくなっている状況です。「自治体に引っ張っていただきたい」という声がよくあります。百瀬氏:交通事業者も自治体のつながりを深める場に参加するのも一つの方法でしょう。
長野県では、県交通担当部局が中心となって「地域公共交通のあり方検討研究会」を開催し、県内の自治体や地域交通事業者とともに、自動運転を含めた先進的な取り組み事例の共有を行っています。持続的な公共交通の維持確保を図るための一つの手段として自動運転を捉え、自治体、交通事業者を交えて議論していく必要があると思います。
――今後に向けてポイントになるのは、そういった官民を問わない「つながりの場」でしょうか?
百瀬氏:今では多くの自治体が自動運転に取り組むようになりました。しかし、その中で感じる課題の一つは自治体の横のつながりがまだ十分でないことです。塩尻市にも他の自治体にも、それぞれ強みと弱みがあります。だからこそ、自治体同士がしっかり連携できれば、互いの強みを掛け合わせることができ、弱みを打ち消すことができると思います。
これまで塩尻市では、本市の取り組みを発表するシンポジウムを開催してきました。これからはそれを一歩進め、“自動運転サミット”のように全国の自治体が集まって講演や発表を行い、共通する根本課題を共有することが大切だと思います。
▼ 自動運転特集のその他の記事はこちらから! ▼










