特集ティアフォー第3回 未来を創る仲間、自動運転を生むのは人
2024/5/13(月)
今回は、事業を支えるプロフェッショナル6名が集結。「ティアフォーで働くこと」についての思いや課題、ティアフォーの未来について語ってもらった。
2024年のティアフォー、これまでとこれから
ティアフォーは24年1月開催のCESでCo-MLOpsプロジェクトをお披露目した。世界各地で集めたカメラ画像、LiDAR点群といったデータを共有し、自動運転AIの開発を早めるもの。24年内の本格的な運用開始を目指す。新しい事業を手掛ける川端一成さんがプロジェクトを主導し、23年10月にチームを結成した。Co-MLOps Platformの開発、運用、各地の法規制対応、提供など「少ないメンバーで大きく形にする。自動車ティア1やOEMが興味をもってくれていて好調な滑り出し。数年で成果を見せられるといい」。
川端一成さん
Cross-Functional Unit Future Solution
精密機器メーカーでイメージセンサーの要素技術開発、米国での新規事業などを経験。ティアフォーで車載カメラの自社開発・外販など提案して実現。ほか、思い出に残る仕事は「入社したばかりのときにLiDAR100個くらいをひたすら検品して、製品の理解が深まった」。
各地の実証実験から自動運転車の販売、サービスの実装までを手掛ける岡崎慎一郎さんは「ティアフォーのフェーズが変わった」と評する。日本全国様々な自治体でティアフォー製の自動運転車の実証実験が行われ、24年3月には石川県小松市で定常運行が始まった。「実証実験で1、2カ月走らせるのでなく毎日走ることでいろんなことが起こる」。
岡崎慎一郎さん
Core Business Unit Turnkey System
経済産業省を経て19年入社。以来各地の実証実験に参加し、関連する事業全般をリード。「自動運転バスの定常運行は、まだ過程とは思っているが、一つのマイルストーン。社外の方が運行するのに必要なサポートとサービスを考えて実践していきたい」。
政府が掲げる自動運転の社会実装の目標である25年度50カ所、27年度100カ所のうち、ティアフォーは一定数の自治体を支援することを目指し、前段階の実証実験を実施する数は24年度、たいへんに大きくなるという。
社員が考える、ティアフォーのカルチャー
売上拡大と「自動運転の民主化」のビジョン実現の目標に向けて、ティアフォーの社員はどのように働いているのだろう?各人が考える企業文化と、それぞれの働き方を聞いた。ティアフォーの文化として、オープンソースソフトウェアAutoware※に代表される「オープンであること」があるのは周知の事実。「パートナーとコミュニティを形成して一丸となって自動運転を作り、社会実装していく企業文化がある」と話すのは、Autoware開発に初期から携わり、ティアフォーの技術開発のロードマップの構築に携わる斉藤之寛さん。
斉藤之寛さん
Cross-Functional Unit Architecture
学生時代、Autoware開発に初期から参加し、ソニーで自律移動ロボットの研究開発に従事。18年にティアフォー入社。Autowareの開発・設計や開発技術方針・技術ロードマップ作りにいそしむ。「西新宿の実証で無人タクシーの助手席に座り、予期せぬ周囲の動きに冷や冷やしたのもいい思い出」。
サイモン・トンプソンさん
R&D Unit Platform Lab
産業技術総合研究所でロボット自律性を研究し、19年よりティアフォーでAutowareの研究開発を担当。「クローズだったAutowareの高精度地図フォーマットの変更・オープンソース化をThe Autoware Foundationと連携しながら行った。今も使われている地図を見るたび、いい仕事ができたと思っている」。ニュージーランド出身、豪州でコンピュータサイエンスの博士号を取得。
未知のものを作る働き方
ティアフォーのミッション「創造と破壊」は、「誰もやったことのないやりかたで、誰もやったことのないことをやる」こと。この一文を実現する働き方を、国内初となる歩車混在空間での自動運転レベル4認可取得を主導した飯田祐希さんが説明してくれた。
飯田祐希さん
Cross-Functional Unit Product
DeNAで自動運転の運行管理システム開発を手掛け、ティアフォーに転じて現職。17年愛知県幸田町レベル2実証ではプロジェクトをリードし、「日本初の遠隔ドライバー」に。警察の教官による審査の下、遠隔型レベル2の実証実験を実施した。
「『自分の仕事はこれだけ』という枠はティアフォーにはなく、全員が複数のプロジェクトに横断的に関わることで『AもBもCも実現する最大公約数的な技術と製品、すなわちプラットフォーム』が生まれる。大変ではあるが、ノウハウが自然と共有されて、個人の成長にも役立つ」と飯田さんは評価する。
レベル4認可は「誰もやったことのない」仕事だったと飯田さんが振り返る。申請を出した22年時点では、レベル4認可を可能とする道路交通法の改正前。認可取得を目指す飯田さんの提案に対して社内では「法改正まで待つのがいい」との意見もあった。
一方、飯田さんら開発の担当者には「枠組みができるのを待っていては出遅れる。手を動かそう」との思いがあった。国土交通省の担当者と技術説明などのやり取りを盛んに行い、認可取得の見通しがたったところで申請。見込み通りに認可をとれたと述べる。
24年のティアフォーの目標はスケールしていくこと、「政府目標である25年度50カ所、27年度100カ所の自動運転の社会実装の一定数」に向けて仕込みをしていき、認可を取得していくことという。
川端さんはCo-MLOpsプロジェクト以前にも、車載カメラを製品化した実績を持つ。20年夏当時使っていたカメラは自動運転の開発に不十分と感じていた。市場を探したが思い通りの物はなく製品化を提案してから半年を経て自社開発を始め、製品化・外販に至った。
経験に基づき川端さんがチーム作りで一番大事にしているのは「実際に手を動かす人が『やりたい』『面白い』と思ってもらうこと」。上から命じられた仕事でなく、自分ごととして取り組みたいと思う人とチームを作っていく。
資金を最大限に活用する仕組み
仕事には働く人が欠かせないし、資金も欠かせない。経営企画を担当する小宮山玲子さんは資金調達と予算配分、そして成長に合わせた組織作りに心を砕く。
小宮山玲子さん
Administration Unit 経営企画
監査法人の公認会計士として幅広い業界の監査やコンサルティングを担当。20年にティアフォー入社。「予算を中長期で適切に配分するため、政府が主導するRoAD to the L4プロジェクトを筆頭にプロジェクトを深く理解し、対外的にも資金調達の裏付けとする取り組みを行っている。学ぶほどに深い世界と思う」。
そして「予算配分は本当に難しい」。短期の視点でなく、2、3年先をみて各ユニットに予算を配分するが、製品もソリューションも自動運転の開発は次々と立ち上がり、「年度予算を期中で走りながら組み替えていく」。期中に各所の予算を調整し、全社最適を達成するのも、ティアフォーならではの特徴と感じているという。
仲間探し 長い目で不確実性の中を進む
小宮山さんがティアフォーで働く上で重要と考えるのは「好奇心旺盛さ。チームで自動運転を作り上げ、オープンマインドで謙虚に学べることも大事」。スキルは当然必要だが、領域によって要求は異なる。新しいものを作りたい価値観も求められるという。ティアフォーのスタッフは300人を超え、これからも増えていく見込み。パートナーや顧客も増えていく。会社の規模が大きくなるにつれて、過度に心配せず、しかしリスクテイクできる会社の体制を作ることを自分の仕事と小宮山さんは語る。
「社員が増えている以上に、案件が増えているのは、ありがたいこと。24年4月にTIER IV Autoware Partner Programを公開したように、ティアフォーのノウハウを共有し、ティアフォー以外の企業の方も自動運転開発に携われるスキームを作り、自動運転の市場が盛り上がっていく」とは飯田さんの弁だ。
岡崎さんは「自動運転の将来は、技術発展の速さやコストなど見えないことが多いし、すぐに完璧な自動運転車ができはしない。でも少しずつ進んでいる。ティアフォーでもパートナーでも、不確実性を許容しながら進む長期的視野を一緒に持てることが大事」と話す。
最新技術の見極め 共同で素早く研究、針路を定める
技術開発でもパートナーは不可欠だ。パッションを持つ優秀なエンジニアが社内でいつも議論しており、「技術トレンドは必然的に蓄積される」と言うのは斉藤さん。加えて他社や研究機関とオープンに話し合うことで技術のメリット・デメリット、自社では不得意な分野の知識も集められる。特に世界中の大学でAutowareを広く使ってもらうことで、最先端の研究成果がAutowareコミュニティに自動的に還元される。
長期の開発ロードマップを作る立場の斉藤さんは「今ある技術と最新技術のバランスをとることに気を配っている」という。自動運転の社会実装は、運用のコンセプトを考えれば、既存技術でカバーできる部分も実は多い。ただ最新技術を追うだけでなくベース技術を作り込み、車両に実装して形にする部分も重要と話す。
一方の最新技術では「すでに米国では社会実装が進んでいるにもかかわらず、大規模言語モデル(LLM)をはじめとする新しいトレンドが続々と登場している。これらの技術の傾向としては一社で作り込むには膨大な人的資源とコストが必要なので、他者を巻き込んでスピード重視で試し、ティアフォーが本当に力を入れるべきものを見極めたい」とする。
世界の研究者を「Autowareファン」に
トンプソンさんが今、取り組んでいるのはAutowareを使う自動運転技術の研究者を増やすこと。研究室や学生に研究費やティアフォー奨学金を提供し、The Autoware Foundationの研究室ネットワークの拡大を支援している。しかし、それ以上に力を注ぐのは「Autowareが有益だとみんなに分かってもらい、研究の成果を還元してもらうための仕組み作り」だ。研究者が自発的にAutowareのコミュニティに参加してもらう形を目指す。研究者がAutowareを効率よく学べるよう、すぐに使える教育プログラムの開発にも取り組む。
ティアフォーのD&I
前述のように社員が約330人まで拡大したティアフォー。多様性と認め合い(Diversity & Inclusion、D&I)を尊重し、社員が最大限に能力を発揮し、自分らしく活躍できる環境を整えることにも注力している。社員が可能性を広げ、主体的、⽣産的に行動することで世界中の仲間とオープンソースの自動運転ソフトウェアを作れると信じるからだ。それが、「The Professional」に代表されるコアバリュー実現につながる。
社員を年齢で見ると、20代~30代が半数以上を占める。一方で、経験豊富な40代~60代も多く在籍。皆が支え合い、教え合う文化の中で最先端の技術開発に取り組んでいる。
スキルや強みを生かして働く上でジェンダーの差異もない。ソフトウェア開発では男性が多くなりがちというが、多数の女性がエンジニアリング、事業開拓、コミュニケーション、事務などさまざまな業務で会社の発展に欠かせない存在となっている。
国籍・出身地もさまざま。日本人社員以外にもアジア・大洋州、欧州、米国など出身の社員が在籍し、英語も飛び交う。社員のキャリアは完成車や家電、半導体のメーカー、テック系スタートアップ、コンサルティングなど幅広い。
多様性が生む「民主化」
ティアフォーのミッション「創造と破壊」、ビジョン「⾃動運転の⺠主化」に共感し、自動運転の未来を共に創る仲間が入社してくる。働き方では、フレックスタイム制を採用し、出社、リモート、ハイブリッドと、チームや社員がそれぞれの状況に合わせて柔軟に働く。自動運転は、世界各地に住む多種多様な人が使うと想定される。だからこそ、ティアフォーは多様性を非常に重んじる。多様性のある企業文化は、安全、安心、使いやすさをユーザーが感じられる自動運転技術の開発にも欠かせないという信念だ。
自動運転の未来に進むティアフォー、支える仲間
自動運転車を動かすのはAIでも、自動運転を欲して作る原動力は人間の思いだ。ティアフォー、そして加藤真平CEOが考える「だれでも自動運転車を作れる世界」「Autowareで動く街」…。LIGAREでは3回の特集を通じてその取り組みを詳しく紹介した。特集で描写した未来の自動運転、そして自動運転を共に創る人々の情熱が、読者にとってもエキサイティングなものだとうれしく思う。ティアフォーはオープンソースで世界の仲間と自動運転の未来を切り拓いていく。
特集ティアフォー全3回、終わり