三菱電機モビリティの非接触で人を見守る次世代ドライバーモニタリングシステム【JMS2025】
2025/11/20(木)
完全ソフトウェア型モニタリングが切り開く新たな安全技術
今回の出展では、完全ソフトウェア型のドライバーモニタリングシステムを披露した。このシステムは専用ハードウェアを必要とせず、車内のカメラやモーションセンサーを使ってドライバーの表情や視線、体の動きを捉え、安全状態をリアルタイムに解析する。法人向けサービスは2026年初頭の開始を予定しており、主に運輸・物流分野での活用が期待されている。
従来の安全システムでは、シートベルトの装着をバックルの物理的な感知で確認するのが一般的だった。これに対し、今回のシステムは、カメラ映像を解析してシートベルトの装着状況だけでなく、正しく着用されているかどうかまで判別できる。また、顔の向きだけでなく視線の細かな動きまで追跡し、わき見運転を高精度で検知。危険な状態と判断されれば、警告音でドライバーに注意を促す仕組みを備える。
とりわけ注目されるのは、非接触で生体情報を取得できる点だ。カメラが可視光線だけでなく皮下の血管の変化まで捉えることで、脈拍・呼吸・体温などを測定する。スマートウォッチのような装着型デバイスに頼らず、非接触でこれらを計測できる技術は、より快適で安全な運転支援の実現に大きく前進したといえる。
複数の情報を組み合わせることで、ドライバーの体調異常も検知可能だ。体勢の乱れや呼吸・脈拍の異変が見られた場合には、意識を失った可能性を判断してクラウドを介して会社や家族などの緊急連絡先へ自動通知する。この仕組みは、単なる運転支援を超え「人の命を守るモビリティ技術」として注目されている。
モニタリング技術は、ドライバーだけでなく同乗者にも対象を広げている。助手席や後部座席の乗員をカメラで見守り、異常を検知する機能の開発が進行中だ。カメラで捉えにくい小さな子どもについては、モーションセンサーが反応して存在を把握する。こうした取り組みにより、車内の乗員全体を守る安全システムとして進化している。
データが支える新しい運行管理「セレンディ」が担う役割
ドライバーモニタリングシステムからクラウドに蓄積されたデータは、個人の健康管理に役立つだけでなく、企業の運行管理にも活用できる。ドライバーごとの体調や運転傾向を分析することで安全教育やシフトの最適化が可能になり、運輸業界が抱える人手不足や長時間労働といった課題の解決にもつながるとみられる。同社スタッフは「100人単位の運行管理も格段に軽減される」と話しており、現場での負担改善への期待も高い。
これらの技術の基盤となるのが、新たなDXプラットフォーム「Serendie(セレンディ)」だ。セレンディは、三菱電機グループが長年培ってきた社会システムや自動車機器の知見を統合した仕組み。車両分野に限らず、将来的にはインフラ・物流・生活領域など、幅広い分野での活用が想定されている。
当日の発表で田中社長は「モビリティは単なる移動手段ではなく、社会を支えるプラットフォームだ」と語った。非接触センシングとクラウド連携を軸にした今回の見守り技術は、その理念を象徴する取り組みといえる。JMS2025で示された構想は、三菱電機モビリティのこれからの企業像を示す内容となった。安全・安心を提供する社会インフラの構築を視野に入れた取り組みは、モビリティ分野の方向性にも影響を及ぼすことが期待される。
(取材・文/平井千恵美)









