自動運転タクシーの事業化へ。newmo、大阪森ノ宮に夢洲交通の中核拠点
2025/12/29(月)
タクシー・モビリティ事業を展開するnewmo(ニューモ)は、グループ会社「夢洲交通」の森ノ宮営業所で、開業セレモニーと内覧会を実施した。大阪におけるタクシー事業拡大の中核拠点と位置付ける同営業所は、本社と営業所の機能を一体化した「ノーボーダー」をコンセプトに掲げ、DXと将来の自動運転タクシーの社会実装を見据えた新たなタクシー事業の発信拠点となる。
拡大計画を支える新拠点 人材確保へ職場環境を整備
森ノ宮営業所は、元パチンコ店舗と立体駐車場という既存建物をリノベーションして開設された。新築に比べ初期投資を抑えながら、動線や執務空間、乗務員の休憩・交流スペースなどを再設計し、コスト効率と働きやすさを両立させた点が特徴だ。今までのタクシー営業所のイメージを刷新し、開放感のある清潔な職場環境を実現した。
newmoは「移動で地域をカラフルに」というミッションを掲げ、創業から約2年で大阪府内のタクシー会社3社を相次いで事業承継してきた。今年7月に新設した夢洲交通は、同社にとって初の「ゼロイチ」で設立した新会社となる。森ノ宮営業所はグループの中核拠点として、既存事業の統合に加えてタクシー事業の新たな取り組みを対外的に発信する役割を担う。
車両58台で運行を開始。今後は段階的に約330台規模まで拡大する計画だ。大阪全体では、来夏までに2,000~3,000台規模への到達を目標に掲げる。慢性的な人手不足が続くタクシー業界において、同社は未経験ドライバーの積極的な受け入れと定着を重視する。DXによる業務効率化と、職場環境の改善を通じて、働き手の裾野を広げたい考えだ。
DXで業務刷新 紙・対面依存を脱却し運行管理を円滑化
DXの取り組みでは、紙や対面に依存してきた従来のタクシー業務を抜本的に見直す。点呼や車両の点検を紙からデジタルへ移行し、社内システムを内製で統合。運行データを生かした乗務員への支援や配車業務の効率化、AI音声配車の導入などを順次進めている。こうした取り組みにより、管理業務の負担軽減や情報共有の迅速化を図るとともに、運行状況をリアルタイムで把握できる体制づくりを進める。配車や乗務割り当ての精度向上に加え、現場対応の属人化を抑え、安定した運行管理につなげる狙いだ。
現場で蓄積される運行データや乗務員の意見をシステム改善に反映させるなど、運用と開発を連動させたDXを進めている点も特徴となっている。日々の業務を通じて改善を重ねることで、事業拡大に対応できる柔軟な運行体制の構築を目指す。
自動運転レベル2車両で公道検証 堺市と連携
オープニングセレモニーでは、自動運転タクシーの社会実装を見据えた取り組みも披露された。この日公開された車両には、レベル2相当の自動運転プログラムが搭載されている。同社は堺市と連携し、公道の限定エリアで走行実証を開始した。9月に連携協定を締結し、今月から堺浜エリアの公道で夜間を含む走行を実施している。現在はセーフティドライバーが同乗し、対向車への対応や停止の制御などを確認しながら検証を進めている段階だ。
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車両には前後・上下左右にLiDAR(レーザー光を用いて周囲の物体の距離や形状を検知するセンサー)を配置し、複数のカメラやイメージングセンサーを組み合わせている。人間の視野では捉えにくい死角を補い、周囲の環境を立体的に把握できる構成だ。学習を重ねることで検知の精度は向上するとされ、道幅の狭い道路の走行についても高い水準に到達しつつあるという。
一方で、降雪や悪天候時にはカメラやLiDARの性能が低下するなど、技術的な制約も残る。このため、将来的には既存車両に後付けする形ではなく、センサーやカメラを車両に組み込む一体型のシステム構成が望ましいとの認識を示した。あわせて、特装車の調達やメンテナンス、充電設備の整備など、一定の物理的投資が必要になる点も課題として挙げた。
今後は堺地域で2桁台の運行体制を目標とし、住宅地から駅への接続、渋滞しやすい箇所、交通手段が限られた地域など、多様なシナリオへ実証の範囲を広げる。地域住民に向けて試乗も準備しており、社会的受容性の醸成にも力を入れる。国のモビリティDXロードマップが示す2027~2028年ごろの長期的な社会実装を参考にしつつ、独自の安全評価を重ねる姿勢だ。
同社は、自動運転技術について「技術的に導入可能な水準に達しつつある」との認識を示す。一方で、今後は自動運転を導入する事業者が増えるなか、いかに交通全体の調和を図るかが重要な課題になると指摘する。自動化によって乗務員不足を補完し、従来のタクシーの枠を拡張する形で新たな移動ニーズが生まれるとの見方だ。
森ノ宮営業所を起点に、事業継承で構築した基盤と新設拠点を活用し、地域の状況に応じて自動運転の段階的な導入を検討していく。こうした取り組みが、今後どのように展開されるかが注目される。
(取材・文/平井千恵美)











