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AIが教習指導員に?人とシステムが共生する安全運転のあり方

2022/3/8(火)

【ドライブレコーダーの進化に迫る】

「若者の車離れ」と言われるようになって久しい。その流れで考えると、自動車教習所に通う人も当然減っていると考えてしまいがちだ。しかし、実態はもう少し複雑な状況にある。山積みの課題を解決すべくサービスを開始したのが「AI教習所」。その教習・検定システムには自動運転の技術が応用されているという。AI教習所で代表取締役を務める江上喜朗氏(以下、江上氏)に詳細を聞いた。

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■自動運転の走行実験から生まれたAI教習システム

――まずはAI教習所の概要を教えてください。

江上氏:この会社は、福岡を中心に国内外で教習所事業などを行うミナミホールディングスと、自動運転システムの開発を主導するティアフォーの2社が立ち上げたジョイントベンチャーで、2社が共同開発したAI教習システムを販売していく会社です。

――なぜ自動車教習にAIを導入することになったのですか?

江上氏:5年ほど前、実はティアフォーの加藤さん(創業者/CTO 加藤真平氏)が、ミナミホールディングス運営の教習所で自動運転の走行実験をしていたんですよ。私も試乗させていただく機会があって、高い精度の自動運転にとても驚いたのを今でも覚えています。

――それが立ち上げのきっかけにつながったのですか?

江上氏:はい、その後 LiDARなどのセンサーを用いて周囲の状況やドライバーの運転挙動を監視する仕組みについて詳しく教えてもらったんです。そのうちに、「これは人間の運転評価に応用できるのでは」と考え、ティアフォーに提案したところ「おもしろそうなので、ぜひ開発してみましょう」と、プロジェクト発足につながりました。
※LiDAR:レーザー光で対象物との正確な距離を測定し、遠方や周辺の状況を把握する装置。

AI教習システム搭載車両

AI教習システム搭載車両
(写真提供:AI教習所)



■「若者の車離れ」現場の実態

――教習所といえば、最近は「若者の車離れ」という言葉もよく聞きます。実際、現場ではどのような状況なのでしょうか?

江上氏:実は、依然として年間100万人以上が免許を取得している状況です。若者の人口自体が減っているので減少傾向なのは事実ですが、実はそれほど大きく市場規模が縮小しているわけではないんですよ。
※警察庁が毎年発表している「運転免許統計」によると、令和2年の運転免許証交付件数(新規)は1,186,873人。
https://www.npa.go.jp/publications/statistics/koutsuu/menkyo.html

――その一方、従業員の安全運転教育を行う企業が、ペーパードライバーの増加に直面しているとの話をよく聞きます。

江上氏:確かにペーパードライバーの数は年々増えている印象です。先ほど話したように、免許を取る人は大きく減っていないのですが、免許取得後に車を買う人が年々減っているんです。ミナミホールディングス運営の教習所で5~6年前に実施したアンケートだと、「免許を取った後、車を買いますか?」という質問に、「はい」と答えたのは50人に2人ぐらいでした。

――たった4%ですか!それは驚きの結果ですね。

江上氏:ほとんどの人が就職に必要だから免許を取得するだけなんですよ。このアンケート結果に従えば、50人中48人がペーパードライバーとして就職するということです。実際に、研修を請け負っている企業からも「新入社員のほとんどが運転に不慣れで困っている」という相談をよく受けます。

――他方、指導員の高齢化や採用難が問題になっていると聞きました。

江上氏:確かに、教習指導員は2033年までに約35%減るという予測があって、将来指導員が不足する可能性が高い状況です。すでに一部では繁忙期に大勢の生徒を受け入れられないとか、一般教習以外の企業研修などが実施できない事態が起きています。

――すでに人手不足の影響が出始めているんですね。

江上氏:加えて、2022年5月から75歳以上の一定の違反歴のあるドライバーは免許の更新時に運転技能検査が義務化されるため、教習所の負荷はさらに大きくなります。そこでも、AI教習システムを活用して指導員が横にいなくても教習を行える仕組みを作って、これらの課題を解決しようと考えています。
※2022年5月13日に施行される改正道路交通法により、75歳以上で一定の交通違反歴があるドライバーは、運転免許証の更新時に、実車を運転して能力を確かめる運転技能検査が義務づけられる。この検査は、更新期限の6カ月前から繰り返し受検することができるが、不合格の場合は運転免許証を更新することはできない。
【参考】全日本交通安全協会Webサイト
https://www.jtsa.or.jp/new/koutsuhou-kaisei.html

AI教習システムを導入している南福岡自動車学校の教習コース

AI教習システムを導入している南福岡自動車学校の教習コース
(写真提供:AI教習所)



■AIによる指導とは?

――ペーパードライバーの増加や運転技能検査の開始、指導員の不足と、課題は山積みですね。それらのソリューションを目指しているAI教習システムについて、仕組みを教えてください。

江上氏:教習車に後付けしたLiDARから取得したデータと、事前に作成した3Dマップを照らし合わせることで、走行位置を把握します。これは自動運転で使われている技術で、走行位置だけではなく、車線からはみ出していないか、一時停止場所で停止したか、あるいは縁石に乗りあげたかなど、細かい運転行動を評価できます。

AI教習システムの仕組み(1)

AI教習システムの仕組み(1)
(資料提供:AI教習所)



――指導員が横に乗っている場合、状況に応じて声を掛けて指示しますよね。AIの場合も同様ですか?

江上氏:はい、AIによる音声ナビ機能もあります。車両の位置に応じて「次は右折です」といった案内を流すことが可能です。また、車両の位置や障害物との距離等に応じて、自動で補助ブレーキが作動するようになっています。加えて、車載カメラを使ったドライバーの顔向き判定も行なっています(下記参照)。

AI教習システムの仕組み(2)

AI教習システムの仕組み(2)
(資料提供:AI教習所)



――自動車教習でAI教習システムを活用するメリットはなんだと考えていますか?

江上氏:1つ目は省人化でして、AI教習システムを利用して、教習・検定等を実施することで人手不足の解消につながると思っています。
2つ目はデータに基づいた定量化です。運転のレベルが一定以上必要になる場合、運転行動を定量化して評価する必要があると思いますが、そこはまさにAI教習システムが得意とするところです。

――デンソーテンの通信型ドライブレコーダー「G500Lite」にも、運転行動を点数化して安全運転教育に活用できる機能があり、アプローチが似ているなと感じました。

江上氏:まさにそういう使い方が考えられますよね。新入社員への教育に活用するとか高齢社員を再雇用するときの判断材料にするとか、そういったケースでの応用も可能性があると思います。

「G500Lite」ランキング機能のサンプル画面

ランキング機能のサンプル画面



■人が得意なところ、AIが得意なところ

――実際に教習のカリキュラムは全てAI教習システムが行っているんですか?

江上氏:いえ、指導員とAI教習システムが教える範囲は区別しています。教習所内で教える22項目のうち、11項目ずつを分担しているんですよ。ただ、所要時間だと指導員は4時間、AIは8時間という配分で、全体の3分の2でAI教習システムの利用が可能です。

――AI教習システムが教える部分の方が多いんですね。昨今は「AIが仕事を奪う」との声もよく耳にしますが、その点についてはどのように考えていますか?

江上氏:「人間の仕事がなくなるのでは」というネガティブな意見は確かにあります。ただ、実際にAI教習システムの開発に取り組んでみてわかったんですが、人間が得意なところとAI教習システムが得意なところは、やはり別なんですよ。大事なのは役割分担だと思います。

――それぞれどんな役割分担にしているんですか?

江上氏:運転の基礎は人間が教えるべきだと思います。適切なシートの位置やハンドルを握る位置など、初めに身に付けるべきことはたくさんあります。また、安全運転の大切さや心構えの部分は絶対に人間が教えるべき部分です。そのほかにも、体に障害を持っているなどの理由できめ細かな指導を必要とする方には、人間が寄り添って教える必要があると考えています。

――それに対して、AI教習システムが担う部分とはどこでしょうか?

江上氏:運転技能はたくさん練習を積むことで確実に上達します。例えば、クランクやS字カーブの走行などですね。これらの部分はできるだけ運転時間を増やすのがいいと思っていて、AIに任せて指導するのが現在の最適解だと思っています。AI教習システムによる指導なら、指導員不足でも対応しやすいですしね。

――ここまで実証を積み重ねてきて、手応えを感じていますか?

江上氏:運転仮免許(路上で運転の練習するために必要な免許)の取得者が初めて出たときは本当にうれしかったですね。日本は免許を取る方法が2通りあって、1つは指定自動車教習所を卒業してから試験を受け、合格する方法。もう1つが届出校で教習を受け、運転免許試験場で運転技能と法令の試験を受ける、いわゆる「一発試験」の方法ですね。前者のケースでAI教習システムを使うには法改正や規制緩和が必要なので、現状AI教習所は後者での利用を推進しています。トライアルに参加した4名のうち、すでに3名の合格実績があって、残り1名も再試験を受ける予定です。

AI教習システム搭載車両

AI教習システム搭載車両
(写真提供:AI教習所)



■事故防止の鍵は持続的な仕組みづくり

――今後の目標について教えてください。

江上氏:プロジェクトが発足してからは試行錯誤の連続でした。ゴールといえる目標はいくつかあるんですけど、目下はAI教習システムが指定教習所でも利用できるようになることです。例えば、場内教習なら8時間はAI教習システムが行うとか、人手不足の教習所でも導入できるようにするのが目標です。

――自動車教習に携わっている立場から、企業が行う事故防止や安全運転教育についてご意見があればぜひ教えてください。

江上氏:企業向けに安全運転のコンサルティングをする中で、安全運転を徹底して事故防止を行っている企業は、持続的な仕組みを作っている印象です。具体的に言うと、社用車を運転する際の認定制度を作るなどですね。

――ドライブレコーダーがその取り組みに貢献できるとすれば、どのような点でしょうか?

江上氏:先ほど話した運転行動をスコア化する機能がありますよね。例えばそれを活用して、一定の合格ラインを下回ったら講習や指導を受けさせるとか、そんな仕組みづくりに活用できるのではと思います。事故防止や安全運転の教育は、シンプルなことをコツコツやり続ければ確実に事故は減りますから、やはり持続的な仕組みづくりが重要だと思います。

AI教習所株式会社 代表取締役 江上喜朗氏

AI教習所株式会社 代表取締役 江上喜朗氏



【後記】
「AI教習所」と初めて聞いたときは、人の手を極限まで排除した教習システムを想像していた。しかし実態は、人とAIそれぞれが得意な範囲を区別し、共生可能なシステムで運用するものだった。また、自動運転技術を応用するなど先進的な取り組みを行う一方で、事故防止や安全運転の教育については、コツコツ積み重ねることが重要だと語っていたのも印象的だ。やはり事故の無い社会に向けた近道などはなく、地道に取り組むことが重要なのだと改めて教えられた。

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