あおり運転はなぜ起きる?仕組みと対処法を専門家に聞いた!
2021/11/16(火)
【特集:ドライブレコーダーの進化に迫る】
2020年6月、道路交通法が改正され、「妨害運転罪」いわゆる「あおり運転」の罰則が設けられた。あおり運転は悲惨な死亡事故が起きたことなどを背景に、ここ数年で特に社会の注目度が高まっている状況にある。
しかし、法整備が進むだけでは必ずしも十分な対策とは言えないだろう。私たちの生活には至るところに「怒り」の種が潜んでいて、いつ自分があおる側、あおられる側となってもおかしくはない。
当記事では、一般社団法人日本アンガーマネジメント協会の代表理事を務める安藤俊介氏に、あおり運転がなぜ起きるのか、また、その対処方法について話を伺った。さらに、普及が進むドライブレコーダーは、あおり運転の防止に貢献できるのか。可能性を探っていきたい。
しかし、法整備が進むだけでは必ずしも十分な対策とは言えないだろう。私たちの生活には至るところに「怒り」の種が潜んでいて、いつ自分があおる側、あおられる側となってもおかしくはない。
当記事では、一般社団法人日本アンガーマネジメント協会の代表理事を務める安藤俊介氏に、あおり運転がなぜ起きるのか、また、その対処方法について話を伺った。さらに、普及が進むドライブレコーダーは、あおり運転の防止に貢献できるのか。可能性を探っていきたい。
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■「怒り」の感情を感じたらどうするべき?
――昨今「アンガーマネジメント」という言葉をよく耳にするようになりました。実際、どういうことを行うのでしょうか?安藤氏:アンガーマネジメントとは、怒りの感情とうまく付き合うためのトレーニングのことです。1970年代にアメリカで「ロードレイジ※」が社会問題として取り上げられ、広まっていきました。スティーブン・スピルバーグ監督の『激突!』(1971年公開)という映画はまさにロードレイジがテーマで、社会に潜む脅威が見事に描かれていましたね。
※ロードレイジ:車の追い越しなどに対する、あおり運転やその他危険運転による報復行動のこと。暴言・暴力行為も含まれる。
――安藤さんが日本にアンガーマネジメントを持ち込んだ経緯を教えてください。
安藤氏:別の仕事でアメリカに駐在しているとき、アンガーマネジメントを知って、「これはきっと日本でも役に立つ」と社会的な必要性を感じたんです。そして、2011年に日本アンガーマネジメント協会を立ち上げました。あれからちょうど10年くらい経ち、特にこの数年で認知度が上がってきたなと思っています。
――ところで、そもそも怒りの感情はどうして湧くのでしょうか?
安藤氏:怒りとは、僕らが便宜上名前を付けていますが、本来体の状態を指します。そもそも、身を守るために存在するものだと言われています。動物は、例えば天敵を目の前にすると、戦うか逃げるか選択しなければなりません。戦うことを選択し、臨戦態勢をとるときの感情が怒りなんです。
――つまり、逃げる選択肢をとれば、怒りの感情はわかないということでしょうか?
安藤氏:そうですね。ところが現代人は、戦うか逃げるか選ぶ場面で、戦う人がとても多いです。ネットニュースを見ても、攻撃している人が大勢いる。本当は逃げればいいんですよ。つまり、見なければいい。でもなぜかみんな戦うことを選んでしまう。
――怒りの正体は生物学的な反応なんですね。
安藤氏:怒りの仕組みというのは、ライターで例えるとわかりやすいです。ライターは火花を散らして、ガス(燃料)に着火させますよね。火花が散るのは、「こうするべき」という感情が裏切られたときです。車の運転で言うなら、「安全運転をするべき」とか「もっと車間距離を取るべき」などですね。でも、火花が散っただけでは炎は燃えないんです。
――より燃焼を強めてしまうガスにあたるのは何でしょうか?
安藤氏:マイナスな感情、あるいは体の状態です。マイナスな感情には、不安や心配、辛い、苦しい、寂しいなどいろいろな種類があります。体の状態で言うと、どこかが痛い、お腹がすいた、眠たいなどですね。コロナ禍の影響もありますが、現代人はみんなガスがたまった状況にあると感じています。その状態で運転するから、よく燃えてしまうのです。
――アンガーマネジメントで、ガスにあたる部分を減らすことが可能なんでしょうか?
安藤氏:怒りの炎を小さくする方法は二種類しかないんです。「こうするべき」が裏切られる回数を減らすか、マイナス感情状態を小さくする。どちらかです。アンガーマネジメントでは、まずはそういう怒りの状態を理解して、その後「衝動のコントロール」「思考のコントロール」「行動のコントロール」とステップアップしていく流れです。
――ぜひ具体的な方法があれば教えてください。
安藤氏:例えば、書籍や講演など、いろいろな場面でおすすめしているのが「6秒ルール」というものです。人間は6秒たつと理性が働くと言われています。怒りを感じた場合、深呼吸をするなどして、6秒間待ちましょう。
■三十六計逃げるに如かず
――やはりあおり運転は、怒りの感情に任せてしまうと発生するものなんでしょうか?
安藤氏:あおり運転を考える上で大事な点はいくつかあります。まずは、匿名性が高いこと。車という安全で閉鎖された空間に守られているわけですね。次に、車の価値と自分の価値を同一視すること。大きい車、高級な車に乗っている方が偉いと感じてしまうことがあるんです。そして最後は、万能感です。意のままに物を動かせることで万能感を味わえる。そして、それを邪魔されることはすごく不愉快に感じるものなんです。そのほかにも、直前に何か不安になるようなことがあったとか、急いでいるとか、いろんな感情も影響します。
――もし、先ほどの「怒り」の仕組みや、今挙がったポイントに思い当たる点がある人はどうすればいいでしょうか?
安藤氏:自分が運転時に怒りやすいことを、人に指摘されたことがあるかも含めて、自覚しているかが重要です。もし自覚があるなら、メモやふせんに「自分は怒りっぽい」などの言葉を書いて、目に留まる所に貼っておけばいいでしょう。先ほどの「6秒ルール」などももちろん有効です。
――加害者としてではなく、被害者になる可能性もありますよね。あおられる側になったときの対処法も知っておきたいです。
安藤氏:もし自分があおられた場合は、とにかく逃げること。路肩などに車を止めてやり過ごしましょう。相手の視界から消え、意識から消えることが一番です。
以前、あおり運転の事例を映像で見る機会があったのですが、今は誰もがスマホを持っているので、あおられた側が証拠を残そうとカメラを向けてしまうんですよね。そうすると、あおった側が焚きつけられ、激昂する可能性がある。とにかく関わってはいけないんです。
――例えば、ドライブレコーダーを搭載すればスマホを向けることなく自然に録画できますし、最近は「ドライブレコーダー録画中」などと書いたステッカーを貼る車もありますよね。
安藤氏:一定の抑止効果にはなるのでしょう。見られていること、つまり監視されていることが抑止力につながるという点では、残念な気持ちもありますけどね。
■重要なのはセルフコントロール
――ここまで話を伺って、あおり運転を防ぐには、ドライバーが怒りの状態をどう自覚できるが重要だと感じました。職場でのマネジメントだと、事前に兆候を把握して知らせるとか、怒りが通り過ぎた後に注意するとか、そういう工夫も考えられますよね。安藤氏:伝え方は大事ですね。怒っているとき、下手に言うと火に油を注ぐようなものですからね。
――社有車という枠組みで見たとき、管理者としてできることはなんでしょうか?例えば、録画した走行データを振り返って、怒りの状態を我慢できていたらいい評価をする、なんて方法も考えられると思うのですが…。
安藤氏:「承認すること」については、良い面と悪い面があります。承認され続けている間はいいと思いますが、承認されないと駄目になってしまうんですよ。認めてくれない場合は我慢しないという癖がついてしまうと、やはり問題があると思います。
また、我慢という抑え込む行為は、自分自身に対する攻撃でもあります。我慢したら褒められる経験をすると、それがいいことだと思って続けてしまいます。そして、続けているうちにどこかで破綻するんですよ。
――必ずしも褒めることがいい結果を生むわけではないんですね。となると、重要なのはセルフコントロールでしょうか?
安藤氏:そうですね。やはり自分でコントロールできることが重要です。いずれにせよ、怒りの感情を理解する必要があります。理解できるからこそ、対処が可能になるんです。アンガーマネジメントもやっていること自体は決して難しくありません。単純なことの繰り返しです。
■ドライブレコーダーであおり運転は防げるのか?
――自分を理解することが大事なんですね。例えば客観的に知ることは可能でしょうか?安藤氏:怒りの状態は、血中ホルモンの濃度で示せますから、そう遠くないうちに自分が今どんな感情でいるのか高い精度でわかるようになるはずです。運転中であれば、怒った状態になればシステムなどが介入して、何らかの運転制御をする方法などがあり得るのかなと思います。
――例えば、ドライブレコーダーから運転中に通知するのも有効でしょうか?
安藤氏:顔認証で表情を読み取って感情などを分析するというのは、今まさに進んでいる技術ですよね。例えば、インジケーターに「今ちょっと怒っている」とか「笑顔になっている」と表示するとか、そうやって知らせる方法ができれば有効ではないでしょうか。自分がどういう状態にあるか自覚させることができれば、あらかじめ気を付けるようになると思いますね。
――可視化できると冷静に自分の状態を理解できそうですね。システムの介入という点についても、詳しく教えてください。
安藤氏:今まさに研究開発が進んでいる分野だと思いますが、状況に応じてシステムが運転を制御することなどが考えられます。もちろん法的な問題はあると思いますが、強制的に速度を落とすとか、路肩に止めさせるとか。それ以上運転できないようにする方法は有効でしょうね。
――システムが「運転して大丈夫な状態か」を判断するということですね。まさに、自動運転の技術が進むと実現の可能性が高まりますね。
■あおり運転の防止は、罰則と教育の両輪で!
――昨今は、コロナ禍の影響もあって、至るところに怒りの感情があふれているように思います。安藤氏:誤解を恐れずに言うと、怒りはエンターテイメントという面があります。お金もないし時間もない、しかもコロナ禍で行動も制限されている。じゃあどうするかというと、手軽に怒りを発散したくなるんですよ。ニュースを見れば攻撃したくなるとか、運転中にあおってしまうとか。要するに、手っ取り早いエンターテイメントとして消費してしまっている。そこに問題の根本があります。
――先ほどの例で言えば、火花はたくさん散るし、よく燃えるガスもたくさんあるわけですよね。
安藤氏:究極的に言うと、社会全体が穏やかになることが必要です。怒りはポータブルな性格があって、どこかで感じた怒りを別の場所へ持ち運んでしまうんですよね。職場で嫌なことがあったから帰り道であおり運転をしてしまう、なんてことも起こり得ます。なので、持ち運ばないようにする。その場でおしまいにする必要があります。
――そのために、怒りとうまく付き合うアンガーマネジメントがあるんですね。ぜひ「あおり運転」の根絶に向けて取り入れていってほしいですね。
安藤氏:アンガーマネジメントが生まれたアメリカを例に挙げると、司法の中に組み込まれているんですよ。スピード違反をした人に対して「アンガーマネジメント講習を受けなさい」と命令を出せる。罰するだけでなく教育も行い、両輪で動かす仕組みなんです。
日本でも昨年、道路交通法の改正であおり運転が厳罰化されましたよね。もちろん厳罰化も大事なんですが、学ぶチャンスを与えることも必要です。例えば、運転免許の更新時にアンガーマネジメントのプログラムを受けるなど、そういった仕組みが必要だと考えています。今後はそういう取り組みにもチャレンジしたいですね。
あおり運転という言葉は、以前より社会に浸透したと思います。今後は、より多くの人に「それが犯罪になり得るものだ」と知ってもらい、啓発を続けていきたいです。