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デンソー R&Dの強化でモビリティ社会に 新たな価値を

2017/10/6(金)

先端技術研究所

デンソーは9月1日、先端技術研究所を報道陣向けに公開した。かつての基礎研究所を再編し、「先端技術研究所」へ名称を変更した。モビリティ社会の新しい価値を創出するさまざまな研究を行なう。

「基礎研究所」から「先端技術研究所」へ

デンソーが基礎研究所を先端技術研究所と改称・再編した理由について、技術開発センターを担当する加藤良文・専務役員は「自動車産業は100年に一度のイノベーションの時代と言われている。電動化、自動化、コネクテッド、シェアといった大きな波が来ている。この先端技術研究所の再編により、R&D領域のさらなる強化に努めていきたい」と述べた。

デンソーの技術開発センターの拠点の1つは、本社のある刈谷であり、ここには基盤技術開発部、研究開発部があり主に自動運転の先行開発、車両システムの開発を行っている。これと並んで重要となる拠点が今回再編された日進市の先端技術研究所である。さらに西尾市にあったパワートレイン、燃料電池、パワーエレクトロニクス、情報安全、熱システム分野の研究事業を行っているSOKEN(デンソー子会社)を先端技術研究所の隣に移転し、より強固な開発体制を整えた。

もともと基礎研究所は1991年に設立され、長期視点に立った技術開発をするために発足した。しかし、モビリティ社会の転換点である現在に至り、スピード感をもって事業につなげ、新たなモビリティ社会の価値を創出する研究が求められるため、今回の改称に至った。スローガンは「先進・先端技術研究で世界をリード」「粘り強いチャレンジで死の谷を越える」の2つ。川原伸章・先端技術研究所所長は「グローバルなオープンイノベーションで研究開発を加速していきたい。また、事業部と連携し高いレベルで技術と人の交流を行い、開発した技術をただ渡すだけでなく、密接な連携でシナジーを発揮している」と述べた。

研究の主な柱は4つある。車載センサーや次世代パワー半導体のSiC(シリコンカーバイド)パワーデバイスを扱うエレクトロニクス、磁性材・蓄熱材などを扱う材料、眠気検知や人間特性を研究するHMI、藻から再生可能エネルギーを生産するバイオである。今回は、この中でもAIを用いた高速道路の合流シミュレーション、ドライバーの脳血流量の計測による人間特性診断、次世代パワーデバイスの素材となるSiCの結晶の生成を披露した。

EVの効率化に貢献するSiCの生成

クルマの電動化が進む中、いかに電力を効率的に使うかが鍵となる。そこで登場したのがSiC(シリコンカーバイド)である。従来はSi(シリコン)製のパワーデバイスが使用されていたが、これと比較して電力ロスを5分の1に抑えられるのだ。

しかし、肝心なSiCは自然界にはほとんど存在せず、人工的に生成する際も、結晶欠陥の少ない高品質な結晶を作るのが難しい。デンソーは、豊田中央研究所と共同で結晶を作製する特許を取得した。これがRAF(Repeated a-face法)と呼ばれるものだ。種となるSiCの結晶を成長させ、その中から結晶欠陥の少ない部位を取り出し、さらに繰り返し成長させる方法で、他社製品と比べて結晶欠陥を4分の1程度に減らしている。

実際には、写真のような昇華炉を用い、原料となるSi(シリコン)とC(炭素)の粉末を2300℃の高温で固体から気体に昇華させ、種結晶部分で再結晶化させる。こうしてできた円柱状のSiCの結晶を円盤状に薄くスライスしたウエハを用いてパワーデバイスへと加工、さらにモジュール化、インバーターシステムへの組み込みまでを、デンソーは一貫して行っている。

SiC昇華炉の外観


AIを用いた高速道路合流シミュレーション

近年話題となっているAIは、自動運転に多大な貢献をするだろう。自動車の運転のためには「認知」「判断」「操作」の3つの柱がある。これまでは、周辺環境の「認知」と、実際にクルマを動かす「操作」の部分は自動化されていたが、他のクルマや人との関係を考慮し、クルマの動かし方の「判断」は人間に委ねられていた。

以前からセンサーなどの開発を通して「認知」の部分の研究は行っていたが、今回はAIを用いて「判断」を行う取り組みを公開した。シミュレーションでは、高速道路で右側の車線へ合流する際、前後の車間距離を見てどこにどのタイミングで入るかを判断するもの。写真のように、ドライバーは右側車線の後続車を運転して、前のクルマとの車間距離を詰めたり離したりすることで、左側から合流しようとする自動運転車との駆け引きを行う。

デンソーは、このようなディープラーニングを活用したアルゴリズムの作成や、ビッグデータ活用などのAI技術の実用化に向け、AI R&Dプロジェクトを2016年に発足し、研究を進めている。

アチソン法という手法で精製されたアチソン結晶。SiCを使用した研磨剤の製造の副産物としてできる結晶で、この結晶片からデンソーは研究をスタートした。



SiCウエハを用いて作られたパワーデバイス。ウエハレベルでの検査を4回実施し、車載のための高い性能と信頼性を実現している。



AIを用いたシミュレーションの様子


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