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過労運転による事故を防ぐには?基準や罰則、対策をプロが解説

2023/5/1(月)

過労運転の原因としてまず挙げられるのが長時間労働だ。「重大な交通事故につながるおそれがある」と認識していながら、日々の業務に追われて具体的な取り組みまで手が回らない企業も多いのではないだろうか。

今回は、特定社会保険労務士の石原清美氏(以下、石原氏)に話を伺った。石原氏は運送会社に長年勤め、運行管理者・整備管理者・衛生管理者を歴任し、職場の労働環境を変えるため在職中に社会保険労務士の資格を取得した経歴がある。

独立開業後もトラック運送業の労務問題に向き合い続けるプロの立場から、過労運転の詳細や長時間労働の改善について解説してもらった。

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過労運転の基準と罰則

――過労運転とは、どのような状態で運転することを指すのでしょうか?

石原氏:道路交通法第66条に定められていて、条文には「過労、病気、薬物の影響そのほかの理由により、正常な運転ができないおそれがある状態で車両等を運転してはならない」とあります。多くの会社で該当しやすいのは、長時間労働に関わる過労の部分だと思います。
※道路交通法第66条(過労運転等の禁止) 何人も、前条第一項に規定する場合のほか、過労、病気、薬物の影響その他の理由により、正常な運転ができないおそれがある状態で車両等を運転してはならない。(※引用:e-GOV法令検索 なお、ここでいう「前条第一項」は、第65条 酒気帯び運転等の禁止)

――過労運転に罰則はあるのでしょうか?

石原氏:過労運転に該当した場合、25点の違反点数が科され、免許取り消しの行政処分の対象になります。さらに刑事罰は、「3年以下の懲役又は50万円以下の罰金」と定められています。

インタビューに答える石原氏1

――安全運転義務違反と比べると重い内容ですね。例えば、疲労して睡眠不足の状態での運転、もっといえば居眠り運転をした場合は過労運転に該当するのでしょうか?

石原氏:疲労で眠気を感じるかどうかは、ドライバーの健康状態や置かれた状況にもよりますから、居眠り運転イコール過労運転だと必ずしも判断できない場合があります。
※安全運転義務(道路交通法第70条)に違反した場合、行政罰なら違反点数2点、9,000円の反則金(普通車の場合)を支払う必要がある。刑事罰なら「3月以下の懲役または5万円以下の罰金(道路交通法第119条)」を科せられる。

――確かに判断基準が難しいように思います。社用車の場合、会社は罪に問われるのでしょうか?

石原氏:会社は使用者責任を問われる他、過労運転が長時間労働によるものと認められれば、労働基準法違反などに該当する可能性があります。

法律以外でも、トラックやバス、タクシーなどの自動車運送業であれば、拘束時間や連続運転時間の上限などを定めた「改善基準告示」違反による行政処分にもつながります。

過労運転を防ぐには、「正しい労働時間管理」を

――過労運転につながるおそれがある長時間労働というと、最近よく話題に上る「2024年問題」にも関わると思います。改めて、この問題について教えてください。

石原氏:2019年に施行された働き方改革関連法案で、時間外労働の上限規制が定められました。建設業や運送業の自動車運転者などの一部の業種や職種については5年間の猶予期間が設けられていましたが、2024年の4月から自動車運転者の時間外労働に対して年960時間の上限が適用されます。

ちなみにこれはドライバーについての上限で、運行管理者は2019年に施工された一般の労働者の基準と同じで、月45時間・年360時間が時間外労働の上限となるので注意が必要です。
※臨時的な特別の事情があって労使が合意する場合(特別条項)でも、以下の上限を守る必要がある。
・時間外労働が年720時間以内
・時間外労働と休⽇労働の合計が⽉100時間未満
・時間外労働と休⽇労働の合計について、2カ月~6カ月平均全てでひと⽉当たり80時間以内
・時間外労働が⽉45時間を超えることができるのは、年6カ⽉が限度
参照:厚⽣労働省・都道府県労働局・労働基準監督署『時間外労働の上限規制 わかりやすい解説』

先ほど触れた「改善基準告示」についても、同じく来年4月から改正された基準が適用されます。トラック運転者の場合、例えば、1年間の拘束時間が3,516時間から原則3,300時間(最大3,400時間)になるなど、拘束時間や運転時間、休息期間の基準が短縮されます。

また、物流業界では深刻な人手不足が続いている一方で、貨物の量はどんどん増えている現状です。さらに、燃料価格が1円上がると業界全体で約50億円負担が増えるといわれています。人手不足の現場で労働時間が減り、物量が増えて燃料費も高騰するとなれば、「会社が持たない」という事態になりかねません。



――特に長時間労働が指摘されているトラック運送業は、どう対応していくべきでしょうか?

石原氏:業界の問題点である長時間労働を改善するために一番大事なのは、正しい労働時間管理を行うことです。業務のどの部分を改善できるか検討する前に、まずは長時間労働に陥っている理由をくわしく調べる必要があります。

例えば、あるルートの配送業務で、特定のドライバーだけ時間がかかってしまうのか、違うドライバーならもっと短い時間で運べるのか、誰が担当しても時間がかかるのであれば業務のやり方に問題はないか、考えるべきことはたくさんあります。それを会社の労働環境に応じて考えることが改善につながります。

――石原先生はトラック運送業の現場からさまざまな相談を受けているんですよね。そうした労働時間の管理が難しいという声は出ませんか?

石原氏:確かに、長時間労働が当たり前になっている会社の社長から「そんなことできない、無理だ」という声は多いですが、まずは一歩を踏み出すことが大切です。「荷主が理解してくれない、従業員が協力してくれない」とか周りのことはいったん置いておいて、まず自分の会社の状況を正しく理解することから始めましょう、とアドバイスしています。

――そのほか、過労運転につながる長時間労働を防ぐために、職場でのルールづくりなどで注意すべきことはあるでしょうか?

石原氏:特に始業前の点呼は大変重要です。一日のはじめに「体調はどう?」と聞くとか、乗務前に「いってらっしゃい」と元気よく送り出してあげるとか、ドライバーが気持ちよく運転できる声がけが大切です。

運転業務は精神状態の影響がとても大きくて、もしドライバーが怒っていたり、反対に気持ちが沈んでいたりすると、運転にも悪い影響が出やすいと考えています。ですから、例えば管理者がドライバーに厳しく注意しないといけない場合でも、帰社した後に伝えるなどの工夫が必要でしょう。



――コミュニケーションを通じて、従業員の状態を知ることが大切なんですね。

石原氏:会社の社長や運行管理者がドライバーの働きぶりを見る際、目立つ人の発言や行動は評価されやすいものですが、一方で不平不満を言わずに黙々と働く目立たないドライバーもいます。そういう人のことも社長や管理者がきちっと見る必要があると思います。

運送会社に限った話ではありませんが、普段のコミュニケーションを通じて従業員全体の状態を見て理解することが重要です。

――ドライバー側から意見を言いにくい場合もあると思います。コミュニケーションをとりやすい環境を作るために現場でできることはあるでしょうか?

石原氏:実際のトラック運送業の現場では、少人数のチーム制を導入している企業があります。例えば、5人制くらいのチームを作り、そのチーム単位で会議をして、チームごとの意見をリーダーが代表して上に伝える、という方法ですね。



――そのほか、過労運転や長時間労働に関して、外部の相談窓口はあるのでしょうか?

石原氏:長時間労働などに関して会社が悪質な法違反を犯している場合、指導や勧告などを行うのは全国に321カ所ある労働基準監督署になります。ほかにも、各都道府県の労働局には「総合労働相談コーナー」が開設されていて、労働問題全般の相談窓口となっています。

トラック運送事業者と荷主企業が対象だと「トラック運転者の長時間労働改善特別相談センター」があり、私も厚生労働省の委託を受けて西日本の相談窓口を担当しています。特に、先ほど述べた時間外労働の上限規制に関する問い合わせが多く、「2024年問題の対応を教えてほしい」という相談が多く寄せられています。

厚生労働省「総合労働相談コーナーのご案内
自動車運転者の長時間労働改善に向けたポータルサイト「トラック運転者の長時間労働改善特別相談センター

労働時間の管理に、車載器の導入は役立つのか?

――労働時間を管理するために、例えば車載器などデジタル機器を導入することは効果的でしょうか?

石原氏:トラック運送業を見ても、デジタルタコグラフ(デジタコ)やドライブレコーダーなどを導入する会社は増えています。例えば、デジタコなら自動車の速度や走行時間・距離など運転中のデータがわかりますから、業務を効率化するために活用できるでしょう。

また、トラックで交通事故を起こした場合を考えると、どうしても「大きい車両が悪い」となりがちです。ただ、ドライブレコーダーで録画した運転中の映像が残っていたおかげで、それが覆ったケースもあります。そのほか、危険な運転シーンの録画映像を社内会議で振り返るなど、映像自体の活用も可能です。

もちろん事故防止や安全運転に努めることが第一ですが、トラック運送業の事業者には、会社を守る意味でもドライブレコーダーの導入を勧めています。

*通信型ドライブレコーダーの特徴

運転状況の見える化で事故の予防につなげる
車間距離や速度超過、一時不停止等、ドライバーのさまざまな運転行動を見える化できます。可視化したデータをドライバーごとの運転診断に活用するなど、日々の安全運転管理に役立つ機能が満載です。
AIが抽出したヒヤリハット映像を安全運転教育に
AIがヒヤリハットの可能性がある映像のみを自動で抽出します。ヒヤリハットの発生地点をマップ上に表示して危険なポイントを共有したり、ヒヤリハット映像を活用したe-Learning資料を作成したり、ドライブレコーダーが取得したデータを日々の安全運転教育に活用できます。
全車両の位置情報をリアルタイムで確認
社用車がいまどこにいるのか、どこでどんな走行をしたのかを記録し、確認することが可能です。万が一の事故でも、場所と状況のスムーズな確認が可能になり、迅速な対応に貢献できます。

デンソーテンの通信型ドライブレコーダーを紹介するWebサイトでは、当記事のほかにも日々の運転業務に役立つ情報の発信や、実際に通信型ドライブレコーダーを導入している企業の事例紹介なども行っています。ぜひこの機会に会員登録(無料)をしてご覧ください。

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過労運転への対策は仕事の「見える化」から

インタビューに答える石原氏2

――石原さんのお話を伺っていると、過労運転の防止や長時間労働を改善するには、正しい労働時間管理や日々のコミュニケーションを通じて、会社ごとの仕事を「見える化」することが重要だと感じました。

石原氏:そうですね。私自身、トラック運送業に携わるみなさんから、日々いろいろなことを教えてもらっている立場ですが、車の大きさも違えば運ぶ物も違うし、走る時間帯や距離も、事業者ごとに全て異なるのが運送業なんです。

過労運転の対策や長時間労働の改善でも、全てに当てはまる解決策を一つだけ挙げるのは難しくて、それぞれの実態に合った解決策を考える必要があります。その全ての基本であり、改善の第一歩となるのが、正しい労働時間管理を行うことだと考えています。

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