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【コラム】大阪・関西万博「未来の都市」から見たSociety5.0への道筋

2025/9/19(金)

大阪・関西万博の「未来の都市」パビリオンでは、日本を代表する企業が見すえるそれぞれの未来像を体感できる。関西電力送配電のスマートポールや川崎重工による、移動したいという人間の本能を刺激するモビリティなど、それぞれが示したビジョンは実に多彩だ。

万博のフィナーレが近づく中、披露された数々の技術は今後どう進化し、実用化への道を歩んでいくのだろうか。そんな「アフター万博」への注目度が徐々に高まっている現状を踏まえて、各社の展示内容を見ていきたい。
「未来の都市」パビリオンでは、Society5.0が実現された未来の都市を体験でき、食やものづくり、エネルギーや交通など、暮らしや都市にまつわる15のアトラクションが設けられている。本記事では、まちづくりやモビリティ、エネルギーや農業・建設などの分野に関わる6社の取り組みをピックアップした。
※サイバー空間とフィジカル空間を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する人間中心の社会(引用:内閣府「Society5.0」

大阪・関西万博「未来の都市」外観、別カット

【関西電力送配電】未来のまちを支える「スマートポール」

関西電力送配電は、未来の都市パビリオンの内外に次世代インフラ「スマートポール」を展示している。ここでいうスマートポールとは、街路灯・通信・監視・情報配信などの機能を統合した次世代インフラを指す。都市機能を拡張するプラットフォームとして、同社が実用化に向けて取り組んでいる。

パビリオンの来場者は、まずブース内のタブレットで自身のアバターを作成。アバターが「モビリティの島」、「アドベンチャーの島」、「テーマパークの島」という3つのテーマに基づいたフィールドで、スマートポールが未来社会でどう役立つのかをバーチャルで体験できる。


特に注目したいのが、屋外に展示しているスマートポールだ。柱部分にはペロブスカイト太陽電池(積水化学工業製)、巻き付け型のデジタルサイネージ、スマートフォンの充電機能、人流分析や子どもの見守りが可能なAIカメラなど、多種多様な機能を一体化している。今回は実装していないものの、頂点部分には風力発電設備や、非接触充電に対応するドローンポートの設置も可能だという。


▼路車間通信による安全運転支援への応用も

さらに同社は、モビリティ分野との連携についても取り組みを進めている。その一例が、安全運転支援・自動運転への活用だ。2022年に関西電力送配電ら12社は兵庫県三田市で、既存の電柱インフラを活用した安全運転支援と見守り支援の実証実験を実施。バスと電柱(路側機)が通信しながら飛び出しや駐車車両の検知機能を検証した。

自動運転の実用化が進む昨今において、このような「路車間通信」もスマートポールへの搭載機能として期待度が高い。これらの多彩な機能が統合されたスマートポールは単なる街路灯を超えて、未来の都市インフラで重要な役割を担う可能性がある。今回の展示や各地での検証成果を踏まえ、ますますの高度化を期待したい。

【川崎重工】人間のDNAに刻まれた「移動本能」への回答

川崎重工は、「移動本能」をテーマに掲げ、2つの革新的なモビリティを展示。人間のDNAに刻まれた根源的な「移動したい」という欲求と向き合い、未来の移動体験を提案している。

▼究極のドア・ツー・ドア「ALICE SYSTEM」



その1つが、未来の公共交通システム「ALICE SYSTEM」だ。外観はトレーラーヘッドや小型の電車のようにも見える。これは「キャビン」と呼ばれる客室部分で、「キャビンが自動で動き、陸海空すべての乗り物に自動で乗り換えていってくれるシステムです」と担当者は説明する。貨物コンテナがトラックや船舶と連結されるように、キャビンが多様なモビリティに格納されていくイメージだ。

キャビン内にはロボットアームによるコンシェルジュ機能も備える想定だ。音声で希望を伝えると飲み物を注いだり、デバイスを持ってくれたりする。また、壁面の半透過式ガラスディスプレイで外の景色や動画を楽しめる。キャビンでくつろいでいたら目的地に着いてしまう、まさに「究極のドア・ツー・ドア」を形にしたシステムを提案している。

▼移動体験の価値を全ての人に提供する「CORLEO」


もう一つの展示「CORLEO(コルレオ)」は、四足で立つ動物の姿を模したモビリティだ。「ペットロボットのような愛玩具ではなく、あくまで『愛車』という位置付けです。随所にバイクの機構が盛り込まれています」と担当者は強調する。

CORLEOで提案するコンセプトは、オフロード体験の民主化だ。「現在、険しい山道を攻める移動体験ができるのは一部の方だけ。もっと多くの人が安全・安心に体験でき、移動の喜びや楽しさを感じられる未来の移動価値を提案したい」との思いをCORLEOには込めたという。

▼水素サプライチェーンの構築にも注力

両モビリティで共通しているのは、水素エネルギーの活用を想定している点だ。実際に、川崎重工は水素の液化・運搬・受入基地までを担う「貯蔵・輸送」のインフラ整備に注力している。直近でも今年9月、トヨタ、関西電力、ダイムラートラック、ハンブルク自由港倉庫建築組合と水素サプライチェーン構築に関する協業覚書を締結したことが発表されるなど、動きが活発化している。今後、水素サプライチェーンの構築に向けて、どのような展開を進めていくのか要注目だ。

【商船三井】海上の風で水素をつくる次世代船舶を展示

水素のエネルギー活用については、商船三井による次世代ゼロエミッション船「ウインドハンター」の展示でも見られる。パビリオンでは長さ約4メートル、高さ約3メートルの精巧な模型が展示され、隣接する川崎重工との連携により、両社のスクリーンを合わせた長さ17メートルの巨大画面でムービーが投影されていた。



この「ウインドハンター」は風を受けて推進し、その風の力でタービンを回して電気を起こし、海水を電気分解して水素を生産する。従来のプロペラ式風力発電とは異なる仕組みで、甲板に立てた伸縮する帆(硬翼帆)が回転しながら効率的に風を集める設計だ。風の強い海域を移動しながら水素を生産する海上工場として、従来のエネルギー産業や海運業の概念を大きく変える可能性を示している。

▼商用化のポイントは水素需要の拡大

一方、液体水素はマイナス253℃という極低温での保管が必要で、取り扱いが難しいのが難点だ。そこで商船三井は、有機溶剤などに用いられる「トルエン」と化学反応を起こして、「メチルシクロヘキサン(MCH)」という液体に変換する技術を採用している。陸上に運んだ後は、再びトルエンと水素ガスに分離する仕組みだ。「MCHは常温で保存が可能なため、水素の運搬・貯蔵が格段に容易になる」と担当者は説明する。

また、海上での水素の生産も実証が進んでいる。今年3月には実証ヨットを用いて洋上風からグリーン水素を生産し、陸上施設への供給に成功。商船三井によると、船舶が自らの航行で生産したグリーン水素を陸上に供給するのは世界初の事例だという。
航行中の実証ヨット

航行中の実証ヨット
(出典:PR TIMES)


風力を活用した水素生産システムや、水素を液体化して貯蔵・輸送する技術は既に確立されており、海上での水素生産も実証段階に入っている。技術面での目処が立った今、実用化に向けた最大の課題は採算性の確保だ。この課題を解決するには、水素エネルギーの需要拡大が不可欠となる。商船三井が今回の展示で描いた水素社会の実現に向けては、市場の成熟度が鍵となるだろう。

【青木あすなろ建設/コマツ】安全な場所から遠隔で水中工事を

青木あすなろ建設とコマツは、「未来の水中工事」と題した共同出展を行った。1970年の大阪万博の翌年に誕生した水陸両用ブルドーザーが時代を超えて進化し、水中施工ロボットとして未来の工事現場で活躍する未来像を描いている。



展示会場では、大型模型とともにサンドアートやCG、実写を織り交ぜた3編のショートムービーで「未来の水中工事」を紹介。床や天井にも工夫を凝らして、来場者が水の中を歩いているような体験を演出した。

▼「経験と勘」から、誰でも操作できる自動制御システムへ

青木あすなろ建設は、70年万博から現在に至るまで1,200件以上の水中建設工事の現場で技術やノウハウを蓄積してきた。河川やダム、海岸にたまった土砂の除去、海域での漁場の整備を中心に、東日本大震災など災害復旧の現場でも実績がある。



従来機はディーゼル駆動で熟練作業員による現場操作が必要だったが、現在開発を進めている実証機では、電動化と完全遠隔操作を活用して「熟練技術がなくても安全・快適なオフィスから、遠隔操縦により誰もが活躍できる工事現場」への転換を図っている。

この技術を通じて解決を目指すのは、自然災害の激甚化・頻発化や、少子高齢化による工事の担い手不足といった複数の社会課題だ。「少子高齢化や人手不足により、次世代を担う人材が育っていないという課題が業界全体にあります。熟練作業員が現役で活躍している今のうちに技術を蓄積し、誰でも操作できるシステムを構築しようと取り組んでいます」と担当者は説明する。

現在は水深7メートル程度での実証を進めており、将来的には水深50メートル超での作業も想定して開発を進めている。1970年の万博で生まれた技術が、55年を経て再び万博で進化の道筋を示している。

【クボタ】多彩な機能を持つ農業ロボットが描く未来の農業

クボタが掲げるテーマは「地球と人にやさしい、未来の”食と農業”の研究所」。地球温暖化や食料需要増大といった課題に対して、人々の豊かな暮らしと地球環境の持続可能性を両立し、地球にやさしい食と農業の実現を目指している。

同社はSociety3.0(工業社会)でトラクターなどの機械化を推進し、Society4.0(情報社会)ではデータ農業や自動運転農機を実現。次なるSociety5.0では、環境負荷を減らしながら農業の完全無人化を実現し、重労働からの解放と効率的で収益性の高い農業の確立を目指す。

▼作業に応じて変形する汎用プラットフォーム

多様な展示の中で注目なのが、農業から土木・建設作業まで対応する汎用プラットフォームロボットだ。今回は2つの異なるタイプが用意されている。

Type V(可変型完全無人ロボット)は、作物の生育状況に応じて車体の高さや幅を変形する機能を持っている。さらに多様なアタッチメントを装着することで、トラクター、コンバイン、田植機などの役割を1台で担うこともできる。さらに稲作や野菜栽培、農業以外の作業への応用も可能だ。
Type V(可変型完全無人ロボット)

Type V(可変型完全無人ロボット)


Type S(多目的フレンドリーロボット)は、4本の脚で傾斜地や凹凸地形でも機体を水平に保ちながら移動するアシストロボットだ。主な用途は荷物運搬や高精度作業で、様々なアタッチメント装着により農業の枠を超えた多用途でも対応できる。具体的には、積載能力を生かした山間部での人命救助などへの応用を検討中とのことだ。
Type S(多目的フレンドリーロボット)

Type S(多目的フレンドリーロボット)


次世代ロボットに搭載される多くの技術は、大阪府堺市にある同社のグローバル技術研究所ですでに実証済みで、現在はアタッチメントの自動付け替え機能などを開発中だという。農業従事者の減少が続く中、人手不足や環境負荷などの課題解決に向け、新技術の開発が着実に進んでいる。

「未来の実現は絵空事ではない」と予感させる技術の数々

今回取材した6社の技術に共通するのは、万博での展示が単なる未来の期待を示したものではないという点だ。これらの技術は、万博全体で掲げる2050年の未来像よりも早く実用化される可能性があり、労働力不足、環境負荷軽減、災害対応といった複合的な社会課題の解決に寄与するポテンシャルを秘めている。

すでに実用化への道標が示されているこれらの技術群は、万博という舞台で展示して終わりではなく、日本の未来を切り開く原動力となることが期待される。これらの革新技術がどう実用化され、日常の暮らしに溶け込んでいくのか、今後も注視していきたい。

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