大阪・関西万博のヘルスケアパビリオンに注目スタートアップが集結。気になる「アフター万博」の行方は?
2025/10/2(木)
大阪・関西万博の会期が残りわずかとなる中、来場者から特に高い関心を集めているのが大阪ヘルスケアパビリオンだ。未来のヘルスケアや都市生活をテーマにした催しの数々が人気を博す中、同パビリオンで開催中の「リボーンチャレンジ」では、400社超のスタートアップや中小企業が週替わりで最新技術を展示している。
本記事では、これらの注目技術を取り上げながら、「アフター万博」を見据えたスタートアップ業界の展望を探る。
本記事では、これらの注目技術を取り上げながら、「アフター万博」を見据えたスタートアップ業界の展望を探る。
■2030年の社会実装を目指した新技術
総勢400社を超える企業が週替わりで展示を行うリボーンチャレンジは、万博でテーマとして掲げられている「いのち輝く未来社会」の実現に向けて、3~5年後に社会へインパクトを与えられる技術に焦点を当てている。そのうち、大阪産業局・大阪イノベーションハブ(OIH)が中心となった「カーボンニュートラル トレジャーハント〜便利な未来を支える技術たち〜(7月1日~7日)」では、未来の交通、新素材、ものづくり、エネルギー、環境の5分野で、脱炭素社会の実現に貢献する革新的な技術が紹介された。
▼「ミドリムシ×稲作」の独自バイオ燃料/Revo Energy
Revo Energyは、2022年に大阪府吹田市で設立された企業。ミドリムシの培養と稲の水耕栽培を組み合わせた独自技術でバイオディーゼル(軽油の代替燃料)の開発・普及に取り組んでいる。リボーンチャレンジでは、同社のプラント構想を形にしたミニチュア模型が展示された。
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▼空を走る次世代交通システム/Zip Infrastructure
自走式ロープウェイ「Zippar」を開発するZip Infrastructureも展示に参加。Zipparによる交通システムのイメージをブロック模型で表現した。現在は福島県内に設置した試験線で開発を続けており、関係者を対象とした試乗会に向けて取り組みを継続中だ。
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▼注目度上昇中のペロブスカイト太陽電池/エネコートテクノロジーズ
京都大学発のエネコートテクノロジーズは、次世代太陽電池として注目されている「ペロブスカイト太陽電池」を開発中。積水化学工業や東芝、カネカやアイシンといった大企業と並び、NEDOのグリーンイノベーション基金事業に選定されており、今後の成長が有望視されている。
▼波力発電の実用化に挑む/YellowDuck
海洋エネルギーを利用した洋上の発電設備を開発しているYellowDuckは、実証中の「波力発電機」を展示。外観はブイ(浮標)のように見える機械から、どのように電気を生み出すかの工程などをパネル展示で説明した。
■「海に道をつくる」船舶の自律航行システム/エイトノット
注目技術の実用化を目指す企業が多数参加する中、船舶の自律航行システムを開発するエイトノットも展示を行った。日本には約31万5000隻の小型船舶があるが、少子高齢化に伴う船長不足により、離島航路の減便などが深刻な問題となっている。同社は「あらゆる水上モビリティを自律化し、海に道をつくる」というミッションのもと、小型船舶向けに自律航行プラットフォーム「エイトノット AI CAPTAIN」の開発・提供を行っている。
万博の出展については、他企業と同様に、大阪産業局主催の支援プログラム「HeCNOS AWARD(ヘクノスアワード)」での受賞がきっかけとなった。
エイトノットの技術的特徴は、既存船への後付けが可能な点だ。船舶は一度建造すると30~40年使用されるため、新造船ではなく現有船を活用できることは、利用者のメリットとなる。
また、カメラやレーダーなどのセンサー群、GPS、慣性計測装置を組み合わせ、海図と船長のローカルな知見を融合した独自の航路データを構築している。その一方で、事業開発を担当する城尾将史氏によると「将来的にはソフトウェアに特化し、ハードウェアは舶用機器メーカーとの協業でシェア拡大を図りたい」との戦略を立てているという。
実証面では、今年1~3月に広島県大崎上島町の離島航路で、自律航行システム搭載船の就航を実施した。同地での実証は7月に第2弾が始まり、10月20日まで継続する予定だ。そのほかに東京湾でも展開を開始。今月には、内閣府が公募した海上無人探査機・潜水機の利用事業において、パートナー企業らと共に技術提供することも発表した。
さらに2027年には世界の小型船舶の30%が集中する北米市場への参入を計画しており、すでに北米の電動推進機メーカーと共同で実証実験を行うことも発表済みだ。
また、同社はこれまでに小豆島や堺市でシェアサイクルと連動した実証を行ってきた実績がある。今後のモビリティ連携の可能性について城尾氏に尋ねると、「船舶のオンデマンド交通は、エイトノットの自律航行システムが活かせる分野だと考えています。また、陸上のタクシーや自動運転などさまざまな技術との連携も視野に入れていく考えです」と回答した。
■「アフター万博」にイノベーション支援が加速
リボーンチャレンジの特徴は、単発の技術披露にとどまらず、2030年の社会実装を目標とした継続的な支援体制を構築している点にある。
大阪産業局やOIHでは、前述したHeCNOS AWARDで選ばれた企業に専任コーディネーターを配置し、資金面での支援から事業提携の仲介、実証実験の場の提供まで、万博開催前後にわたる一貫したサポートを実施している。
このほか、関西圏の産学官金が連携して創業期のスタートアップを後押しする「起動」プログラムでは、1,000万円を上限とする事業資金の提供に加え、投資専門家らによる半年間の集中支援を展開している。第3期ではYellow Duckがこのプログラムに採択されている。
万博終了後の展開に向けた新たな取り組みも相次いで発表されている。人材サービス大手のパソナグループは、ヘルスケア領域のビジネス育成に特化した30億円規模のファンド設立を表明している。
一方、大阪府は万博で公開された先端技術の実用化推進を目的に、企業版ふるさと納税の仕組みを使った「イノベーション創出基金」(40億円規模)を本年度に立ち上げた。この基金を通じて、スタートアップによる実証事業や大手企業との連携促進、大学研究成果の事業化支援を2034年度まで継続する方針である。
加えて、大阪府・市が関西経済連合会と共同で「最先端技術実装化センター(仮称)」を年度内に発足させる動きも報じられている。同センターでは再生医療、バイオ製造、水素・アンモニア技術、エアモビリティ、自動運転技術などの領域ごとに専門チームを組織し、企業・研究機関・金融機関をつなぐ中核拠点として、事業戦略の策定から資金獲得まで包括的な支援を担う予定だ。
万博を単発のイベントで終わらせるのではなく、関西経済の持続的成長を支える基盤として活用するこうした施策の数々が、今後スタートアップのエコシステムにどのような影響をもたらすのか注目したい。
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