「マイクロバス×電動キックボード」で移動の可能性を拡張 EXxが見据えるモビリティの未来
2020/11/26(木)
今年5月に設立した株式会社EXxは、マイクロバスを活用した宿泊・滞在サービスを提供していた株式会社DADAと、電動キックボードのシェアリングサービスを手掛けていた株式会社mymeritが合併して生まれた会社だ。
それぞれ取り組んできた、「動くホテル」と「マイクロモビリティ」との相乗効果を生かして、移動の可能性を拡張すべく挑戦を始めた。
EXxの代表取締役の青木大和氏、取締役の中根泰希氏と杉原裕斗氏に同社のビジネスやこれからの展望について伺った。
――EXxとして活動を始める以前、DADAとmymeritはどのような事業をしていたのでしょうか?両社が合流した経緯も含めて教えてください。
それぞれ取り組んできた、「動くホテル」と「マイクロモビリティ」との相乗効果を生かして、移動の可能性を拡張すべく挑戦を始めた。
EXxの代表取締役の青木大和氏、取締役の中根泰希氏と杉原裕斗氏に同社のビジネスやこれからの展望について伺った。
杉原氏:青木が代表を務めていたDADAは、マイクロバスを改造して宿泊や滞在ができる可動式滞在施設「BUSHOUSE」というサービスを提供していて、私と中根が創業したmymeritは、電動キックボードのシェアリングサービスを手掛けていました。
例えば、BUSHOUSEを導入した場合、移動した先に交通インフラがないという問題がありました。そこで、BUSHOUSEと電動キックボードの親和性が高いだろうということで合流しました。
1つの自治体の中にも色々な特性を持つエリアがあって、例えばここは宿泊施設が足りない、ここは地域の交通がうまく回ってないなど、課題はそれぞれです。それらのニーズに対してEXxでは電動キックボードとBUSHOUSEを単体もしくは組み合わせたアイデアを提案しています。
――電動キックボード事業は、公道走行の実証実験が始まりましたね。
杉原氏:はい。EXxとして「新事業特例制度」※を用いた電動キックボードの公道(特定エリアの車道+自転車レーンのみ)での実証実験に認定していただきました。
※新事業特例制度:新事業を行おうとする事業者による規制の特例措置の提案を受け、安全性などの確保を条件として「企業単位」で特例措置の適用を認める制度。産業競争力強化法第6条及び第9条の規定に基づく。(参考:経済産業省)
実証実験はLuupとmobby rideの2社も行います。EXxは東京都世田谷区と渋谷区、神奈川県藤沢市の全域と千葉県柏市の一部エリアで実施します。今回の実証実験では、電動キックボードの「走行場所の拡大」※による安全性・利便性を検証することが大きな目的なので、ライドシェアではなく特定の方にたくさん乗っていただくことに重点を置いています。※現行の道路交通法では電動キックボードは「原動機付自転車」に該当する。通常、公道では運転免許やヘルメット、ナンバープレートなどが必要で、車道を走行する必要がある。
柏市の場合は三井不動産と連携して、「31VENTURES KOIL(柏の葉オープンイノベーションラボ)」というシェアオフィスの施設内に20台の原付化した電動キックボードを設置して、会員約250人を対象に使っていただく想定です。また、このエリアは駅前から少し離れた場所に大学などさまざまな施設があるので、ゆくゆくはそれらを結ぶ移動手段として電動キックボードを導入していきたいと思います。BUSHOUSE×電動キックボードの相乗効果を目指す
――これらの取り組みは、2月に宮崎県日南市で行った実証実験で得た気づきも生かされているのでしょうか。当時の取り組みについても教えてください。杉原氏:日南市でおこなった実証実験は、電動キックボードとBUSHOUSEを掛け合わせた、初めての取り組みになります。
日南市には毎年プロ野球のキャンプ期間中に人口5万人の街へと15万人が殺到していて、その度に観光客の宿泊や移動の問題が発生していました。そこで、滞在施設とモビリティが統合されたサービスを観光客向けに提供する実証実験を行うことになったんです。宿泊施設の不足を補うものとしてDADAがBUSHOUSEを、最寄り駅から球場までの移動用にmymeritが電動キックボード、共同で実証に参加したパナソニックが電動アシスト自転車を提供しました。
結論を言うと、日南市での電動キックボードのシェアリングは難しかったです。シェアリングは人口密度が高いエリアに適しているモデルだと考えています。日南市は、プロ野球の1軍キャンプ期間が終わって2軍キャンプ期間になると見に来る人も大幅に減少する上、元々その地域に住んでる方も多くはないため、イメージしていたようには利用されませんでした。
これは電動キックボード業界や他のマイクロモビリティにも通ずると思うのですが、人口の少ない地域においてはシェアリングよりも個人所有へのハードルを下げるのがマッチしていると感じました。それを実感できた点では意味のある実証実験だったと思います。
――日南市での実証実験はどういう経緯で決まったのですか?
青木氏:今年はパナソニックとmymeritとDADAの3社でしたが、昨年はDADA単独でもやらせていただいたので、私自身は2度目の実施でした。私は学生時代にNPO法人を設立して10代の政治への関心を高める活動していて、当時から日南市の﨑田恭平市長にはお世話になっていた背景がありました。
大学在学中の2016年にコミュニティハウス「アオイエ」を立ち上げて活動する中で、日本には四季折々の風光明媚で観光的価値がある場所が各地にありますが、地域がそれをうまく発掘できていなかったり、事業者が参入していなかったりと、観光客と受け入れ側のミスマッチが生まれている場所が非常に多いと感じていたんです。
それで地方の小さな町の観光的価値を拾い上げて、そこに宿泊施設などの受け皿を作ることで、訪れた人たちが日帰りではなく、1泊2泊と長く滞在できるようにしたいと思い、2018年に可動式住宅のBUSHOUSE事業を始め、昨年に日南市での実証を行いました。
地域の小さな観光を生み出したい
――どのようにサービスを提案しているのでしょうか?また、ターゲットは自治体ですか?青木氏:今は全国の地方自治体と連携しながら、ローカルな経済圏での交通の足や、小さな観光地の新しい動線を作ることを目指して取り組んでいます。宿泊施設の新設を検討している自治体に対しては、まず2年間のBUSHOUSEの活用を提案しています。
サービスの提供にあたっては、まず「魅力的な場所」を見つけます。現地調査を行うと、山の上や海の目の前、ブドウ畑の横などさまざまな場所が見つかるんです。まずはそれらの場所で2カ月ごとにBUSHOUSEを移動させて、各場所の利用状況を分析します。
そうすると稼働率が高いところや人気の高いところなど、どこが観光体験として価値があるのか見えてきて、自治体側としては本格的な宿泊施設を建設する前の判断材料にもなるわけです。
バスは可動性が非常に高いのが強みですが、シャワーなどの水回りでは宿泊施設として弱い部分もあります。
今後、段階的にですが、コンテナサイズくらいまでは扱っていくことも考えています。コンテナもバスほどではないものの柔軟に動かすことは可能なので、事業モデルをバスだけに絞るよりも、ニーズに合わせてカスタマイズした提案をしていければと考えています。
――他にも連携が進んでいる自治体はありますか?
青木氏:北海道の安平町です。新千歳空港から車で約15分の場所にある人口8,000人に満たない町ですが、「ディープインパクト」をはじめ日本の競走馬の多くがこの町の出身なので、競走馬を見に訪れる観光客も多いです。その安平町で広大な土地を所有されている方と一緒にBUSHOUSEを使った宿泊施設を作ろうと、来春オープンに向けて動いています。
中根氏:この土地は農地法の規制上、建築物を建てて宿泊施設を営業することはできないのですが、BUSHOUSEは車両(トレーラーハウス)なので、すぐに移動できるという理由で可能になります。こういう規制を乗り越えられる可能性があるというのもモビリティの利点だと思います。
「モビリティで快適に暮らす」ためには広さが必要
――バスを改装した可動式住居を思いついたきっかけはなんでしょうか?青木氏:実家にはキャンピングカーがあって、幼い頃から父に色んなところへ旅行に連れて行ってもらいました。父はリモートワークやフレックス制度に積極的な外資系企業で働いてたので、いつも在宅で仕事をしていたんです。
父は文化的なものが好きだったので、地方の資料館などへ出かけて行って、出先で仕事の予定が入るとキャンピングカーに戻って仕事するというような、元祖多拠点生活というか、モビリティで暮らしていたという原体験がありました。
この事業の構想を練っていた時に、実家のキャンピングカーを使ってみたんですが、自分には少し小さいと感じたんです。それで父に「どのくらいのサイズだったら、やりたいことがもっとできたと思う?」と尋ねたところ、マイクロバスが普通免許で運転できる国内最大のサイズで、それが広さ的に良いんじゃないかとアドバイスを貰ったので、マイクロバスに決めました。
BUSHOUSEの広さはおよそ縦7m×幅3mで車内空間は約15平方メートルあり、ビジネスホテルの1部屋くらいの広さです。今、自社では3台保有していて、この春からは販売も開始しました。
――withコロナの時代、今の文脈にも合いますね。
青木氏:新型コロナの影響もあり、日本人が海外ではなく国内各地に出向くようになりましたが、この流れは将来的にコロナが落ち着いて海外に行けるようになっても続いていくと思っています。
観光立国として有名なフランスですが、地域の人たちが手作りで素敵なプチホテルを作ってはAirbnb※に掲載して、コアなファンを広げたことも、観光業が伸びた要因の一つだと言われています。
※Airbnb:宿泊施設・民宿を貸したい人と、借りたい人をつなぐマッチングサービス
日本は政府が観光政策に力を入れていますが、私はフランスのように、小さいけれど風光明媚なある場所がもっとフォーカスされて、そこで宿泊できるようになることも観光的価値としては大事ではないかと思っています。モビリティによってあらゆる可能性にアクセスできる世界を
――今後の事業展開などについて教えてください。杉原氏:電動キックボード事業はまず3月末までの実証実験をしっかりやることですね。今回の実証実験の後、来年6月までに次の規制緩和に向けた議論をしていくことになるのではないかと思います。
青木氏:実は今、いくつかの企業さんと共に、それぞれの事業者さんに特化した「ポップアップカー」を製作しています。軽トラックを特殊加工して横から開くようにして、荷台に荷物を収納して移動先で展開し、そこで店舗が設営できるという車両です。
EXxでは「不動産から可動産へ」をテーマに、実店舗のように動かない場所で価値を提供してるものが動くようにする事業を進めています。1号車が今年12月末か来年1月には完成する予定なので、ポップアップカーを活用した企画を他の事業者と検討しているところです。
中長期的には「その場所まで出向くことができる」というモビリティの可動性の強みを生かして、社会の課題を解決して行きたいです。EXxは会社のミッションに「Mobility for Possibility.」、モビリティによって全ての人があらゆる可能性にアクセスできる世界をつくることを掲げています。
人やモノが自由に移動できる世界を実現し、未来のモビリティとまちづくり、社会や人の在り方に対して提案し続ける会社でありたいと思っています。
――近い将来「こんなことをしてみたい」ということがあれば是非教えてください。
青木氏:私個人の究極の理想として、いつかバスの中に学習塾機能を搭載したいと考えています。今の子供たちの教育環境を見ると、都市部の子供の方が大学進学率も高く、地方では塾も少なくて勉強できる環境がないという格差が生まれています。もちろん勉強は家庭でもできますが、塾という環境がある点が大きいと思うので、いずれ事業として設計していけたらいいなと考えています。
(取材/齊藤 せつな、柴田 祐希)