glafit×リブ・コンサルティング対談〜マイクロモビリティとMaaSの未来像
2021/12/8(水)
ハイブリッドバイク「GFR」など、新たな移動を楽しむ体験としてマイクロモビリティの開発から販売まで一貫して手掛けるglafitと、マーケティング戦略策定やMaaS実証のサポートを手掛けるリブ・コンサルティング。
MaaSとマイクロモビリティの現在と未来について、glafit代表取締役社長の鳴海禎造氏とリブ・コンサルティング モビリティインダストリーグループ ベンチャービジネスチームマネージャーの切通英樹氏に対談していただいた。
切通氏:glafit鳴海社長とは1年ほど前からお付き合いがスタートしました。主にマーケティング領域での戦略策定・実行サポートをし、社内にまだそこまでマーケティング視点で考えられる人が少なかった中、マーケティング人財の育成を通じて新規販路開拓や認知拡大などに携わらせていただきました。今回このような対談の機会をいただけてうれしく思います。MaaSとマイクロモビリティの現在と未来について、glafit代表取締役社長の鳴海禎造氏とリブ・コンサルティング モビリティインダストリーグループ ベンチャービジネスチームマネージャーの切通英樹氏に対談していただいた。
御社は現在ハイブリッドバイク「GFR」と立ち乗り電動スクーター「LOM」の2つのマイクロモビリティの製造から販売までを手掛けていらっしゃいます。マイクロモビリティと最近ニュース記事で目にする機会がとても増えたMaaSとは関係性が強いかと思います。
MaaSにおいてはさまざまな捉え方があるとは思いますが、鳴海社長はどのようにお考えでしょうか?
鳴海氏:私のMaaSの考え方では、生活型MaaSと観光型MaaSという二軸があります。さらに生活型MaaSも、都市部と地方では移動についての問題が全然違うので2つに分かれます。それらについて考えていく必要があるかと思います。
切通氏:ありがとうございます。MaaSの詳細については後ほど詳しくお聞きしたいと思います。
社会の多様性に対応したモビリティの多様性
切通氏:まずは、マイクロモビリティについてお聞かせください。今年7月、ハイブリッドバイクGFRに取り付け可能なモビリティカテゴリーチェンジャーによって、電動バイクと自転車の車両区分の切り替えが日本で初めて正式に認められました。電動キックボードの公道実証も始まるなど、マイクロモビリティの国内の議論も進んでいるように感じますが、今後どうなっていくのでしょうか?
鳴海氏:自転車は所有に際して税金がかからず、免許も要らず、誰もが自由に乗ることができる移動手段です。戦後からずっと、気軽な国民の足としてのパーソナルモビリティといえば自転車でしたが、これをそろそろアップデートする時が来たんじゃないかと。私はそれがマイクロモビリティだと思っています。
社会の多様性に対応するモビリティの多様性を考える時になったし、自転車もマイクロモビリティの中の1つという位置付けになるわけです。
切通氏:マイクロモビリティが日本で普及していく際、どういう部分がハードルになると思われますか?
鳴海氏:一番のハードルは道路ですね。道路とは、つまり街です。そのモビリティが乗りやすいかどうかは道路環境に関わってくるので、モビリティはそれを走らせる場所も重要です。今の電動キックボードの公道実証でも、走行場所は車道に限られています。でも自転車は歩道に入ることができる、ここが決定的な違いです。
車道側の走行部分に十分なスペースを確保できていない道が多いので、ユーザーはやむを得ず歩道に入るわけですけど、それを公的に許されている自転車と許されていないマイクロモビリティとでは大きな差があります。なので、道路側が整備されるまでは自転車の優位性が高い状況が続くと思います。
道路を含む街ごとアップデートするとなると、次の大きな戦略として裾野市での取り組みのように、新しい街を1つつくるといった動きが出てきますよね。
切通氏:モビリティと共に街づくりもアップデートする必要があるわけですね。それは地方と都市部では、どちらがスピード感もって早くやれそうですか?
鳴海氏:これは難しいところですね。都市か地方かでいうと、MaaSの中のシェアリングサービスは都市部など人の多いエリアで初めて成立するモデルだと言われています。
GFRは今年ようやく道路交通法上で電動バイク(原付)と自転車の車両区分の切替えを認められましたが、発売当初はその枠組みがなかったんです。切り替えができない前提の、ある意味不完全な状態でしたが、それを受け入れてくれるイノベーター層の方々がいたので、開発・製造して、社会実装しました。
マイクロモビリティを使った新しいシェアサービスもGFRと同じように、初めは不完全でも、それを受け入れてくれる一部のユーザーから始まって、徐々に社会に浸透していくのではないでしょうか。
切通氏:都市部のシェアリングサービスもポートの拡充はかなり進み、ユーザー数は増えてきていると思いますが、ここからのマネタイズの仕方はなかなか難しそうですね。
鳴海氏:そうですね。ただ、海外ではすでにシェアサービスの成功事例も失敗事例も出てきてるので、それをヒントにできそうです。私は2008年から中国で生活しながら、世界初の自転車のシェアサービスがローンチして、流行、衰退するまでを現地で見ていたんです。あの当時、なぜかすごい感動して、シェア自転車をよく使っていました。
しばらくしてから「自分は何に対してあれほど感動したんだろう」と冷静に考えてみると、自転車に乗ることに感動したわけではなく、街で見かけたらすぐ乗れて、駅前や店先など、どこでも「乗り捨てできる」ことに感動したんだと気づきました。その後、日本で自転車のシェアサービスが始まりましたが、ポート制だと聞いた時に、感動ポイントは存在しなくなったんです。
ただ、同じシェアサービスでも電動キックボードのように立って乗るモビリティは、それ自体に新鮮味や感動があるので、そこが自転車とは異なります。自転車の場合と電動キックボードの場合では、「いいね」と思うポイントがそれぞれ違うはずなので、その本質を捉える必要があると思います。
中国ではUberやDiDiといったライドシェアサービスが広がったことで、ドライバーとユーザーの双方向評価によって、ルールを守ることや乗客へのおもてなしといった民度が飛躍的に上がりました。ライドシェアの導入効果は、単純に移動が安くて楽になったという次元のことだけではなかったわけです。これはMaaSに限らず新しいサービスの本質だと思います。
切通氏:マイクロモビリティもMaaSも、何を提供価値として与えられるかがポイントですね。それは2つあって、1つは不の解消。誰かの何かの不便や不満や不安などを解消していくというアプローチ。
もう1つは表現が難しいですが、「快」の創造。これはglafitが掲げられている「移動を、タノシメ!」といった快感・爽快といった「快」を創造することで市場に受け入れられていく。この2つのアプローチがマイクロモビリティの普及やMaaSには必要なんですね。
ちなみにglafitでは、シェアリングサービスをどう考えているんですか?
鳴海氏:glafitは都市部のシェアではなく、地方の観光地でのレンタルに積極的に関わっています。都市部では移動手段の提供だけですが、地方観光の場合は移動自体を目的や楽しみに変えることが可能です。これはglafitのミッション「移動をエンターテイメントに変え、人々の⽣活を豊かにする」にも合致すると考えて、取り組んでいます。
何も声高にMaaSと言う必要はなくて、シンプルに「あったらいいな」ってサービスがモビリティを活用したものなら、それをMaaSと呼ぶような感じでいいですよね。
マイクロモビリティの変革点は2023年
切通氏:マイクロモビリティの普及についてもう一つ伺いたいのですが、変革点やターニングポイントは、いつ頃になると思われますか?鳴海氏:今も国交省や警察庁などで法改正の検討が続いています。来年国会で審議され、法律が改正された場合、公示期間を経て、実際に動き出すのは再来年でしょうから、そこが起点になるのではないかと思っています。
今行われているマイクロモビリティ関連の実証実験が正式サービスとしてローンチされるのも、おそらくそのタイミングになるはずなので、2023年に日本国内で一つの大きな山が来るでしょう。
もう一つ、先ほど、中国のシェアサービスの価値の本質は自転車ではなく「乗り捨て」の部分だったと話しましたが、シェアリングの次のイノベーションが起こるのは、間違いなくこの部分だと思います。
すでにアメリカで自動運転シェアスクーターの「乗り捨て」の実証が始まっています。その仕組みは、乗り終わって放置すると機体が自動運転で充電ポートまで自分で帰るという、近距離モビリティの「WHILL」と同じ方式なんですよ。これが社会実装されると、また劇的に社会が変わると思います。
切通氏:「WHILL」については、慶応義塾大学病院や羽田空港国内線ターミナルでもすでに自動運転システムで展開されていますよね。病院でも空港でも仕組みは同じですが、タッチパネルで目的地を設定したらあとは自動運転で移動ができ、利用終了後は無人運転で元の場所に返却されるシステムになっています。羽田空港で実際に無人の電動車いすが自律して移動している姿を見たときはなかなかセンセーショナルでした。
MaaSや地域の移動・交通を街づくりと一緒に考えていく際、自治体と既存事業者、ベンチャー企業の連携が重要ですが、それぞれの役割はどうあるべきでしょう?
鳴海氏:自治体はその地域の重要拠点を所管されているので、場所の提供を積極的にしてほしいですね。既存事業者にお願いしたいのはリソースの提供です。成熟した既存商品やサービスなどを実証期間中だけでも提供していただくこと、あとベンチャー企業は企画やアイデアの部分で役に立てるのではないかと思います。
切通氏:ベンチャー企業が構想やアイデアを作るのはキーポイントになると私も思います。大企業はさまざまな事例をインプットされていることで、良くも悪くもアイデアがその枠の中で検討されてしまう傾向にありますが、その点、ベンチャー企業は枠にとらわれない尖ったものが出せるので。
あとは、それをみんなで一緒にいかに実現させていけるかになります。ところで、今後、glafitとして、街づくりにも関わっていくんでしょうか?
鳴海氏:はい。そう考えています。glafitはモビリティの企画から製造、販売、サポートまで一貫して提供できます。大手の自動車メーカーがやるような動きを、小さい領域で実現できるという、この強みを最大限発揮できる役割は何かをずっと考えてきました。
国交省の「歩いて暮らせる街づくり」のデータによると、多くの人が「歩いて行ける生活圏」と考えているのが約500m圏内だとされています。その500mを1〜5kmまで拡大し、自分の生活の行動範囲を広げていく役割をマイクロモビリティが担えるのではないかと思うんです。
今も新しい機体の企画・開発を進めていますが、新たなプロダクトを生み出しながら、移動を楽しめる環境ができるよう街のアップデートにも関わっていく。これをglafitのもう一つの存在意義にしていきたいと考えています。
MaaS戦略策定にマーケティングの視点を
切通氏:素晴らしいですね。地域とモビリティ、これらがどう掛け合わさると地域が活性化すると思われますか?鳴海氏:今、私は内閣府の地域活性化伝道師として、地元和歌山など3つの自治体で、MaaSやスーパーシティ、地域交通分野の新しい行政施策の企画立案の支援活動をしています。
MaaSの企画では、まず誰の何の問題を解決するためにMaaSをやるのか、MaaSの目的を明確にする必要があると思います。
経営的に行政を見ると、東京・大阪以外の自治体は、基本的にどこも中小企業のようないわゆる弱者の選択をすべきだと思うのです。しかし、自治体や地域の公共交通機関では、企業でいうところの中期経営計画が、大抵「お年寄りから赤ちゃんまで、みんなが笑顔で幸せに暮らせる街づくり」なんですよね。これはターゲットが広すぎて、定まっていない状態です。
切通氏:確かに自治体のサービスはターゲティングが全方位ですよね。マーケティング的には、全方位的にしたことで結局、誰にも響かなくなってしまうとも言えます。本来は、誰に対して何を提供するかが大事なのですが、MaaSをやること自体が目的になってしまうケースも多いように思います。あくまで誰の何を解決するのか、誰に何を提供するのか、議論の中心は常にhowとかwhatではなく、whoであるべきです。
私自身、化粧品会社の資生堂で国内マーケティングの仕事をしておりましたが、誰のための商品なのかを見失わないように常に顧客イメージ像を視界に見えるようにメモを貼っていました。
鳴海氏:そう、MaaSは目的ではなく手段なんですよね。自治体も際限なく財源があれば全てに投資できますが、そうではないので、限りあるリソースをいかに配分するかにかかってきます。そこで重要なのがマーケティングです。今は個人的に「行政に経営視点を」という標語を掲げているくらいです。
私のMaaSの考え方では、冒頭でもお話しした通り、生活型MaaSと観光型MaaSという軸があります。さらに生活型MaaSも、都市部と地方では移動についての問題が全然違うので2つに分かれます。
例えば、和歌山県の過疎地では、電車もバスもないし、タクシーも町内に2台しかない状態なので、都市部で考えられているようなMaaSは成立しません。一方、自家用車は沢山あるので、それを活用しない手はないとなれば、必然的にライドシェアサービスが残ります。
ライドシェアもいきなり全国導入は難しいでしょうから、地方で先に実現できれば、企業誘致や移住促進の宣伝のために多額の予算を使わなくても、注目を集めることができます。和歌山県知事にも「1つ斬新な施策を打ち出せば、和歌山は全国に踊り出ることができますよ」と伝えています。新しい施策はまず地方から限定的に始めていくべきだと思います。
切通氏:今後がとても楽しみですね。マイクロモビリティの発展にあたり、我々としてもMaaS領域での価値創造を加速させていきたいと思っています。それに伴って小型モビリティのカオスマップの作成も予定しており、業界に対しての理解促進とともに大企業とベンチャー企業のネットワーキングなども今後実施していきたいと思います。
本日はありがとうございました。