【CES2025】ホンダが来年投入の新型EVで描く、モビリティの再定義
2025/1/29(水)
CES2025において、ホンダは来年から展開予定のEV「Honda 0(ゼロ)シリーズ」を軸にした、包括的なEVエコシステムの構想を明らかにした。昨年に示した開発アプローチ「Thin, Light, and Wise.」を踏襲しつつ、独自開発のビークルOSから充電インフラまでを網羅する一気通貫の取り組みで、モビリティの新たな価値を提案する。
「Honda 0シリーズ」は2026年北米投入から、日本・欧州へ
フラッグシップモデル「Honda 0 SALOON」は、昨年公開したコンセプトモデルのデザインを忠実に量産化。低全高のスポーティーなスタイリングでありながら、外観からは想像できないほどの広い室内空間を両立させた。続いて、来場客の視線を集めたのが、中型SUVのプロトタイプである「Honda 0 SUV」だ。昨年披露された「SPACE-HUB」コンセプトを継承しながら、空間の広さを拡張し、開放的な視界と自由な居住空間を実現。さらにホンダ独自のロボティクス技術を活かした3次元ジャイロセンサーの採用で、高精度な姿勢推定と安定化制御を行い、路面環境を問わず高い走行性能を実現するという。
両モデルは2026年中に北米市場でデビューを飾った後、日本や欧州へと展開される。
SDVの中核へと受け継がれるASIMOの遺伝子
技術面で要注目なのが、独自開発のビークルOS「ASIMO OS」だ。1986年から開発が始まり、2000年に登場したヒューマノイドロボット「ASIMO」が由来となっている。Honda 0シリーズでは、ロボティクスの分野で進化させてきた外界認識技術や自律行動制御技術を、先進知能化技術と融合。そして「独自のソフトウェアデファインドビークル(SDV)の価値を提供することを目指す」との方針が打ち出された。ASIMO OSは、ソフトウェアプラットフォームとして、自動運転やADAS(先進運転支援システム)、IVI(車載インフォテイメント)などのECUを統合的にコントロールするという。また、OTA(Over The Air)での継続的な機能進化などを通じて、ユーザーの好みや使い方に応じて進化する「超・個人最適化」との概念も打ち出し、モビリティの未来像を提示した。
Hem.ai、ルネサスとの協業で、自動運転・SDV開発を加速
自動運転技術においても、ホンダは2021年にLEGENDで世界初のレベル3実用化を果たした。この実用化にあたり開発したHonda SENSING Eliteをさらに進化させ、普及させていくことが、「交通事故死者ゼロに繋がる道」だという。そして、この目標を実現するために取り組んでいるのが、Helm.ai(2021年12月出資)との開発だ。
同社の「教師なし学習※」と、熟練ドライバーの行動モデルを組み合わせたAI技術により、効率的な自動運転学習システムを開発。ホンダ独自の協調AIによって他の交通参加者との協調行動の精度を向上させ、予期せぬ障害物にも対応可能な運転支援を実現する。
Honda 0シリーズでは、高速道路の渋滞時におけるアイズオフ機能から開始し、OTAアップデートにより自動運転レベル3の適用範囲を段階的に拡大する計画。これにより、運転中の映画視聴やリモート会議といったセカンドタスクが可能となり、最終的には全域でのアイズオフ運転の実現を目指す。
※AIを支える技術である機械学習の手法の1つ。入力データに対してどのような正解を導き出すかを学習させる「教師あり学習」と異なり、機械に正解を与えずに学習させ、自力でデータの規則性や特徴を導き出す学習方法(引用:ホンダプレスリリース)
他方、自動運転やパーソナライズされた車両制御を高精度で実現するには、膨大な処理能力が求められる。この課題に対する一つの方策として示したのが、ルネサス エレクトロニクスと契約を結んだ、Honda 0シリーズ専用SoCの開発だ。
2020年代後半に投入予定の次世代Honda 0シリーズでは、車両の各システムを制御する複数のECUをコアECUに集約する「セントラルアーキテクチャー型」の設計を採用する。文字通りSDVの中心部分となるコアECUは、高い処理能力だけでなく、消費電力の抑制も求められる。この難題に対応するのが、開発中の専用SoCとなる。
ルネサスの第5世代「R-Car X5シリーズ」SoCをベースに、ホンダのAIソフトウェアに最適化されたアクセラレーターを統合。1秒あたり2,000兆回の整数演算処理(2,000 TOPS)という最高水準の処理能力と、20 TOPS/Wという電力効率の実現を目指す計画だ。
EVの本格普及に向け、充電インフラも一気通貫で
EVの普及における障壁の一つが、充電インフラの整備だ。この課題に対し、ホンダは北米においては、自動車メーカー8社※による合弁会社「IONNA」(読み:アイオナ)を通じ、2030年までの3万口の充電網構築を計画している。加えて、Honda 0シリーズの充電ポートに北米充電規格(NACS)採用し、TeslaのSupercharger Networkへのアクセスを確保することも表明しており、充電不安という大きな課題への現実的な対応策を提示した。
※ホンダの米国現地法人アメリカン・ホンダモーターと、BMWグループ、ゼネラルモーターズ、ヒョンデ、キア、メルセデス・ベンツグループ、ステランティスN.V.、トヨタ自動車(参照:ホンダ プレスリリースより)
もう一つ打ち出した注目点が、充電体験のデジタル化。ホンダの知能化技術とAWSの生成AI「Amazon Bedrock」などの技術を組み合わせ、ユーザーごとにパーソナライズされた充電設備の検索や支払いのシンプル化を提供する考えだという。
さらに、家庭におけるECの充電シーンにおいても新たな方針を提示。Emporia Corp.との共同開発によるHome Energy Management Systemと、BMWおよびFordとの合弁会社「ChargeScape」のVGI(Vehicle Grid Integration)システムを組み合わせ、北米で展開しているEV充電サービス「Honda Smart Charge」を一層進化させる考えだ。2026年以降、北米市場などで順次開始する予定だという。
なお、このサービスにおいては、Honda 0シリーズの車両は、仮想発電所(Virtual Power Plant)と位置づけられる。電気料金の安い夜間充電や、電力需給に応じた系統への給電など、EVに移動手段という役割だけでなく、家庭におけるエネルギーマネジメントの中核にも役割も付与させる計画だ。
CES2025におけるホンダの発表は、クルマが担う役割の再定義だと言えるだろう。EVはソフトウェアとAIによって進化し続けるプラットフォームとなり、社会のエネルギーインフラの一部としても機能する存在となる。それらの姿を統合的に示したことで、そう遠くない未来に訪れるモビリティ社会の姿が、色濃く浮かび上がってきたのではないだろうか。