コネクテッド・カー社会を支える5G技術とは? ITS推進フォーラム2
2017/3/4(土)
総務省 総合通信基盤局 電波部 移動通信課 中村 裕治 氏
自動運転と並んで注目されているものとしてコネクテッド・カーが挙げられる。クルマがつながることでさらなる利便性の向上やサービス提供が可能になる。それを支える技術となるのが第五世代移動通信システム「5G」だ。その特徴と、実現に向けた総務省の取り組みを紹介する。
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コネクテッド・カーが社会に与えるインパクト
IoT、ビッグデータ、AIなどを利用したコネクテッド・カー社会における新たなビジネスサービスのイメージ。
家電の見本市としてはじまったCES。本年1月にラスベガスで開催されたCES2017の一番の話題をさらったのは自動車だ。家電がネットワークでつながるIoTに注目が集まり、今年はクルマがネットワークにつながるコネクテッド・カーが一番大きな話題となっていた。
この背景には、ITSを取り巻く環境が大きく変わったことが挙げられる。ビッグデータやAIの活用、さらには移動通信ネットワークが非常に進化している。この各要素とクルマが合わさることで、全く新しい「コネクテッド・カー社会」が少しずつ現出しはじめている。
例えば、運転手の感情や体調を読み取り、ドライバーの披露や緊張を感知し、それを和らげる音楽を流したり、エアコンの設定を変更したりすることができる。また、家庭内の家電とクルマがつながることで、クルマの中でドライバーがクルマに対して話しかけることで家の中の電気や鍵、お風呂の操作ができるなど、クルマの中から音声によってさまざまな操作ができることも一例だ。現在出始めているサービスとしては、ドライバーの特性に応じた保険サービスや、センサーによってクルマの中を監視し、部品のメンテナンスを促すサービスがある。
もっと普及発展すれば、クルマと家庭だけでなく、クルマとオフィスがつながることも考えられる。クルマがオフィスと同じ環境になり仕事ができるということも可能になる。さらに、シェアリングと相まってコネクテッド・カー社会が進展すれば、街の景観が変わり、駐車場や道路の配置など、まちづくりが大きく変わる可能性があると中村氏は言う。
また、コネクテッド・カーは社会が抱える課題を解決する一手にもなる。例えば高齢者の事故が問題として挙げられるが、クルマの中で高齢ドライバーの方を見守ることによって、リアルタイムにサポートすることができる。さらには高齢ドライバーの方が運転をしなくても生活していける社会づくりにも役立つだろう。
一方、ネットワークにつながることで、新たな脅威も生まれる。1つは遠隔操作・サイバーアタックだ。2つ目はデータの真正性、つまり提供元がはっきりした正しいデータなのかを検証する必要が出てくることだ。3つ目はプライバシーの保護が挙げられる。このようなことがコネクテッド・カー社会において非常に重要な検討課題である。
「コネクテッド・カーの実現によって、クルマが変わっていくという実感がある」と中村氏は述べた。課題はあるものの、コネクテッド・カーの普及は目前に迫っている。これまでは、車輛というハードウェアを売るというビジネスだったが、これからは付加価値が重要になり、ソフトウェアやビッグデータを活用した、モビリティサービスに焦点が当たるようになる。そこで重要なのが通信だ。
加速する自動車業界と通信業界の連携
世界的な動きとして、自動車と通信の業界の連携の動きが加速している。代表的な例として、5GAAという動きがある。これは「5G Automotive Association」の略で、BMW、アウデイ、ダイムラーの自動車会社と、エリクソン、インテル、ノキア、クアルコムなど通信会社が協力し、次世代移動通信システム「5G」技術を利用したコネクテッド・カー関連のサービス、自動運転サービス、さらに業界標準や業界横断的な実証実験を進めていこうというものだ。現在急速に参加メンバーが増えており、1月末時点で約30社近くが加盟している。
このように、クルマと通信は密接不可分なものとなってきており、その中で注目されるのが5Gの次世代通信技術だ。
これまでは主に携帯電話で移動通信システムが使われてきた。1980年ごろに第一世代が始まり、2000年ごろにiモードやメールなどが当たり前になる第三世代が登場し、第四世代でスマートフォンが普及してきた。そして2020年をめどに第五世代の移動通信システムを実現しようという議論が起こっている。
移動通信システムの第1世代からの進化。約10年ごとに新しいシステムに移行している。(出典:総務省資料)
第五世代の移動通信システムの特徴の1つは、超高速化になり伝送スピードが上がることだ。注目すべきは、その他2つの特徴だと中村氏は言う。
その1つが、超低遅延であるということ。通信の遅れが1ミリ秒程度までに縮めるという目標があり、リアルタイム性が増す。0.1秒でも数メートル進んでしまう自動運転などでは、この技術が非常に重要になる。もう1つが、多数同時接続である。これまでは数台の端末が同一ネットワークにつながると容量がいっぱいになっていたが、5Gのネットワークでは、1km2あたり100万台の端末をつなぐことができるという。クルマをはじめ、さまざまな端末が出現するIoT社会になると、多数同時接続は非常に重要になる。
「5Gが実現すると、まさしく産業構造、ビジネスの構造が変革する。ユースケースや活用事例を探していかなければ、これからは生き残っていけない。どういった形で、さまざまな分野で5Gが使えるのか、通信業界が関連業界といかに戦略的にパートナーシップを結んでいくのかが重要な課題になっていくと思う」と中村氏は述べ、総務省の取り組み事例について紹介した。
まず、キーテクノロジーの確立のため、研究開発や実証実験を進めているという。さらに世界中でつながることが求められる中、国際的な競争に勝つため、国際連携・国際協調の強化を進めている。
同時に5Gの制度面での検討も進めている。5Gに使用する電波周波数の検討など技術的条件の策定が2020年に向けて進んでおり、その他制度的課題などを情報通信審議会という会議の中で具体的に審議しているという。
最後に中村氏は「5Gを使っていただける自動車業界の方々、その他関連の方々のお話を伺いながら、具体的なスペックを考えていきたいと思っている。『身近なところに総務省』というキーワードを出しているので、自動車業界、ITSを含めたいろいろなフィールドの中でどういったように新しい通信、新しいICT技術が使われていくのか考えていきたい」とこれからの展望について述べた。
5Gの要求条件。5Gが可能になれば、超高速、超低遅延、多数同時接続が可能になる。(出典:総務省資料)
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