社会課題に寄り添う未来のカタチ。日野自動車が示した、地域と物流の新たな可能性【JMS2025】
2025/11/18(火)
ジャパンモビリティショー2025の会場で、日野自動車は未来の「人と物の移動」に対する明確なビジョンを提示した。カーボンニュートラル、デジタル化、そして少子高齢化に伴う人手不足。商用車を取り巻く環境が大きな変革期を迎える中、同社がその回答として披露したのが、地域の暮らしに寄り添う小型BEVバス「ポンチョドット」と、幹線物流の未来を担う燃料電池大型トラック「日野プロフィア Z FCV L4自動運転コンセプト」だ。
これら2台は、日野が掲げる「お客様のビジネスを支え、社会の課題を解決する」という使命を具現化した具体的な提案に他ならない。本稿では、プレスカンファレンスでのメッセージを紐解き、この2台が切り拓く商用車の新たな未来を探る。
これら2台は、日野が掲げる「お客様のビジネスを支え、社会の課題を解決する」という使命を具現化した具体的な提案に他ならない。本稿では、プレスカンファレンスでのメッセージを紐解き、この2台が切り拓く商用車の新たな未来を探る。
変革の時代に挑む。日野が描く「人と物の移動」の未来
プレスカンファレンスに登壇した小木曽聡(おぎそ さとし)社長は、社会が「大きな変革期」にあると指摘。物流の2024年問題や地域の交通インフラといった複雑化する課題に対し、日野自動車はBEVやFCEVなどを最適に組み合わせる「マルチパスウェイ」戦略で応える姿勢を示した。
小木曽社長は「良い商品とは単に性能や技術のことだけではない。お客様のビジネスを支え社会の課題を解決する誠実なものづくりの結晶だ」と強調。その言葉を具現化したのが、今回の展示の核となる「ポンチョドット」と、「プロフィア Z FCV L4自動運転コンセプト」だ。
地域の手足になる。マルチパーパスEVバス「ポンチョドット」
ブースの一角でひときわ注目を集めていたのが、愛らしいデザインの小型BEVバス「ポンチョドット」だ。公共交通の減少、宅配ニーズの増加、ドライバーの人手不足といった課題に対して、地域の人同士の助け合いが重要になる。特に、「移動を支える」というコンセプトを掲げたこの車両は、現代日本の地域社会が抱える課題解決のひとつといえる存在だ。
「ポンと乗って、ちょこっと行く。地域の皆さんにもっと近い存在になってほしい」。車名に込められた思いの通り、その最大の特徴は、驚くべき多様性(マルチパーパス)にある。ベースとなっているのは、すでに市場で実績のある小型BEVトラック「日野デュトロ Z EV」。その低床フラットな構造を活かし、誰もが乗り降りしやすいノンステップバスを実現している。航続距離は150km、乗車定員は運転者を含め11名。このスペックは、コミュニティ内の移動手段として現実的な運用を想定したものだ。
このバスの真価は、その柔軟な室内空間にある。デザインセンターの大倉僚馬(おおくら りょうま)氏は、車内の跳ね上げ式シートを指しながらこう説明する。「必要な時だけ、まるで映画館のようにシートを倒して座席として使います。
例えば、朝夕の通学の時間帯など、バスの需要が高い時は人を運び、日中の時間帯には席を上げておくことで、広い荷物スペースが生まれます。そこに宅配の荷物を積んで運べるのです」。
これは、人と物の輸送を時間帯によって切り替える「貨客混載」の新しい形だ。過疎化や高齢化によりバス路線が維持できなくなった地域では、住民の移動手段の確保が課題となっている。一方で、Eコマースの拡大により、個別配送の需要は増え続けている。
ポンチョドットは、それぞれのニーズに一台で応えることが可能。朝は学生を乗せるスクールバス、日中は地域を巡る宅配車、そして夕方は買い物帰りの高齢者を乗せるコミュニティバスへ。
一台の車両が、地域の「足」となり、時には「手」ともなることで、持続可能な地域交通と物流の実現に貢献する。まさに社会課題解決を具現化した一台といえるだろう。
L4自動運転を見据えた「日野プロフィア Z FCV」
ポンチョドットが「地域内の移動」という身近な課題に向き合う一方、日本の大動脈である「幹線物流」の未来を力強く見据えるのが「日野プロフィア Z FCV L4自動運転コンセプト」だ。この一台は、電動化の先にある、物流業界の構造変革への挑戦状ともいえる。
このコンセプトカーの開発思想について、プロダクト推進室の白石拡之(しらいしひろゆき)氏は、まずFCV(燃料電池自動車)の優位性を強調する。「大型トラックには、一度のエネルギー充填で長距離を走りきり、かつ短時間の充填が求められます。その点で、水素を燃料とするFCVは非常に親和性が高い。我々はこのFCVのポテンシャルを最大限に引き出し、カーボンニュートラルと実用性を両立する形で、お客様に未来の選択肢を提供したいと考えています」。
その言葉を裏付けるように、ベースとなった量産モデルの性能は極めて実用的だ。日野プロフィア Z FCVは、航続距離は約650kmを確保し、水素の充填時間はわずか15〜30分。さらにFCユニットの最適配置により、ディーゼル車と同等の荷台スペースと最大積載量を実現している。モーター駆動ならではの高い静粛性と少ない振動は、ドライバーの疲労軽減と積み荷の保護にも貢献する。
そして、このコンセプトカーの進化を象徴するのが、その先に搭載された「レベル4自動運転」技術だ。その狙いを白石氏はこう続ける。「ドライバー不足という深刻な課題に対し、自動運転は極めて有効な解決策です。特に高速道路のような特定条件下でシステムが運転を担うことで、ドライバーの負担を劇的に軽減し、労働環境を改善できます。これは単に人を楽にするだけでなく、ヒューマンエラーを減らし、輸送全体の安全性を飛躍的に高めることにもつながります」。
日野が掲げる「交通事故死傷者ゼロ」の実現に向け、車両にはまさに“死角なき”センシング技術が搭載されている。具体的には、車両の全周を監視するように高性能なカメラ、レーダー、そしてLiDAR(ライダー)である。これらのセンサー群がリアルタイムで周囲の状況をより高精細に認識し、安全な自動運転を支えるのだ。
こうした先進技術に加え、万が一の事態に備えドライバーの状態を常に監視し、異常を検知した際に車両を安全に停止させる「ドライバー異常時対応システム(EDSS)」も搭載。システムが運転の主役となる未来においても「人の安全」を最優先するという、日野の揺ぎない姿勢が貫かれている。
2030年代前半の実用化が実現すれば、高速道路での輸送効率の劇的な向上が見込まれる。この一台には「お客様のビジネス」と「社会課題の解決」に貢献するという、開発陣の熱い想いが凝縮されている。
技術の先に「人」を見る哲学
ジャパンモビリティショー2025で日野自動車が示したのは、単なる電動化・自動化のロードマップではなかった。それは、先進技術をいかにして社会のために役立てるか、という企業としての明確な哲学である。とりわけ印象深かったのは、開発担当者たちの言葉だ。彼らはスペックや性能以上に、その技術が「誰の、どんな困りごとを解決するのか」を熱心に語った。
「ポンチョドット」の貨客混載のアイデアは、過疎化に悩む地域の日常を支えるため。「プロフィア Z FCV」のL4自動運転コンセプトは、ドライバー不足という深刻な社会課題に挑むため。そこには「お客様のビジネスを支え、社会の課題を解決する」という哲学が、スローガンとしてではなく、開発の原点として息づいていた。
2台のコンセプトカーが示す未来は、決して遠い夢物語ではない。その根底に、現場で働く「人」への真摯な眼差しがあるからこそ、日野自動車の挑戦は、日本の商用車と社会の未来を導く、確かな一歩だと感じられた。
取材・文/LIGARE記者 松永つむじ
















