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伊藤慎介氏 モビリティの技術と将来性 LIGAREビジネスセミナー in 特装車とトレーラ展

2017/11/6(月)

株式会社rimOnO 伊藤 慎介 氏

伊藤慎介氏は、経済産業省出身で、自動車産業やIT産業、航空機産業で国産ジェット機の開発に携わり、その後rimOnOを立ち上げ、外側が布でできたユニークな車両をつくっている。高齢者の事故が増える中、新たな交通手段としてこれまでの概念を覆す発想のrimOnO。このような新しい価値を生み出す取り組みを行ってきた伊藤氏が、近年のIT企業の自動車業界への参入の流れや、これからのモビリティの可能性について講演を行った。

[LIGARE vol.34 (2017.7.31発行) より記事を再構成]

複製により成長したエレクトロニクス業界

現在の自動車業界は、UBERやテスラ、Googleなどインターネットやコンピューターの世界からの参入が多くなっている。伊藤氏は「これまではヴァーチャルな世界でサービスや技術開発をしてきた人たちが、コンピューターを閉じてリアルの世界を見渡して見たときに、コンピューターの世界で起きたような効率化の動きがリアルの世界で起きていないということに気付いた」と述べる。

その効率化の流れは、1995年を境に始まっていると言う。それまでは自動車と並び日本の主要産業の1つだったエレクトロニクスが下落を始めたこの年は、Windows95が発売された年であり、コンピューターが一般の生活の中に入り込み始めたタイミングだ。コンピューターの普及により、デジタル化が進み、エレクトロニクス産業も成長した。

それまで主流だったアナログは、設計図は共通だとしても、最終的に1つ1つのモノにマネやネジといった部品を精巧に組み上げてやっと機能する。一方でデジタル化されると、プログラム自体が機能を持つようになるので、一度プログラムを組み上げればいくらでも複製できるようになる。「これがデジタル化のマジックだ」と伊藤氏は述べ、日本はアナログには強いがデジタルには弱いと指摘する。

さらに、Windows95のOSと、その上のソフトウェアというレイヤー分けにより、コンピューターの可能性が広がったことも、エレクトロニクス進展の大きな要因だ。デザインをするのもワープロを打つのもゲームをするのも、ありとあらゆるニーズを全てコンピューターで満たすことができるようになったのだ。

 

アナログでは、ハードウェアのつくり込みと機能が一体となっていたため、1つ1つのハードウェアをつくり上げなければいけなかった。デジタル化が進んだことにより、機能がハードウェアから分離し、プログラムで実現できるようになったため、容易にコピーできるようになった。


 
 

オープン・イノベーションにより広がるデジタルの世界

こうしてあらゆるニーズに応えることができるようになったコンピューターだが、1社で対応できることには限りがある。そこで、海外ではオープン・イノベーションという考え方が広まった。例えば、MicrosoftはOffice製品を出したり、Adobeがイラストレーターを出したり、ハードウェアではUSBのジャックを付与することで、後付けでさまざまな機能を付与できる。このようなことは、コンピューターをつくった人は想定していなかっただろう。このような周辺市場がどんどん広がり、全体のエコシステムができ上がっていく。

しかし、日本のメーカーは、製品の仕様を自社で全て決め、仕様全てに責任を持とうとする。もちろんこれではメーカーの創造を超えた周辺市場は生まれず、サービスも増えていかない。これもエレクトロニクス産業で日本が勝てない理由の1つだろう。一方で、このエコシステムの広がりの基盤となる、みんなが使う仕組み作りを行ってきたIntelやApple、Googleといったプレイヤーが王者となっているのが今の時代だ。
 

自社で全てを開発・製造しようとするクローズド型の商品は、オープンになる部分がないためだんだんとシェアが減っていく。一方オープン型商品は、オープンであるがゆえに新規参入が起こり、周辺市場も巻き込み市場全体が拡大し、シェアも拡大する。


 
このように、デジタル化の時代の中で機能の複製が簡単になり、重要な機能を自社で開発し、自社で埋められない機能や、新しい周辺市場として生まれる機能を他社に任せるオープン・イノベーションを繰り返し、エレクトロニクスは発展してきた。日本のように自社で機能を作り込み、特許などで全てを守ってしまうと、オープン・イノベーションを行ってきた企業に負けてしまうのだ。

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