「道路の景色が変わる」国土交通省が示す20年後のビジョン達成に向けた動き
2020/10/15(木)
日本の道路は今、大きな変革期にある。
国土交通省 道路局が今年6月に公表した道路政策の中長期的ビジョン「2040年、道路の景色が変わる」(以下、ビジョン)では、ポストコロナの新しい生活様式や社会経済の変化を見据え、道路政策を通じて実現を目指す20年後の社会像が提案されている。また、ビジョンの達成に向けて、道路法の改正も進められているところだ。
ビジョンを打ち出した狙いや背景、今後の具体的な取り組みについて取材した。
国土交通省 道路局が今年6月に公表した道路政策の中長期的ビジョン「2040年、道路の景色が変わる」(以下、ビジョン)では、ポストコロナの新しい生活様式や社会経済の変化を見据え、道路政策を通じて実現を目指す20年後の社会像が提案されている。また、ビジョンの達成に向けて、道路法の改正も進められているところだ。
ビジョンを打ち出した狙いや背景、今後の具体的な取り組みについて取材した。
■「2040年、道路の景色が変わる」の狙い
ビジョンでは、道路の役割を改めて定義したうえで、「通勤帰宅ラッシュが消滅」「公園のような道路に人が溢れる」「人・モノの移動が自動化・無人化」「店舗(サービス)の移動でまちが時々刻々と変化」「災害時に『被災する道路』から『救援する道路』に」という5つの将来像が提示されている。さらに、これらを踏まえ、道路行政が目指す「持続可能な社会の姿」として、「日本全国どこにいても、誰もが自由に移動、交流、社会参加できる社会」「世界と人・モノ・サービスが行き交うことで活力を生み出す社会」「国土の災害脆弱性とインフラ老朽化を克服した安全に安心して暮らせる社会」の3つの理想が掲げられ、それぞれの社会の実現に向けた道路政策の具体的な方向性が挙げられている。
また、ビジョンは読者がイメージしやすいよう、イラストによってわかりやすく表現されている。
国土交通省 道路局の担当者は、このような将来像を掲げた背景について、次のように語る。
「こうした将来像を達成するためには、今後、新しい技術などを取り入れることで、道路を変えていく必要がある。ビジョンには、道路を進化させていきたいという想いが込められている。例えば近年、CASEやMaaSなどの領域が盛り上がっていることからもわかるように、道路はモビリティ側ともつながっていかなければならない」
国土交通省は、同ビジョンを起点として、道路政策関係者だけでなく、関係省庁や自治体、産業界、大学などをはじめとする研究機関、民間団体など各ステークホルダー間の議論や連携を進め、具体的な取り組みを喚起させていきたい考えだ。
■ビジョンの実現に向けて、検討会や法改正など具体的な取り組みが始動
ビジョンは、国土交通省が設置する社会資本整備審議会 道路分科会 基本政策部会の提言として取りまとめたもので、現在は関連する各検討会において具体的な政策に関する議論が進められている段階だ。政策の方向性は、大きく分けて下記10項目のテーマに分けられており、各テーマに沿った検討会が設けられている。1. 国土をフル稼働し、国土の恵みを享受
2. マイカーなしでも便利に移動できる道路
3. 交通事故ゼロ
4. 行きたくなる、居たくなる道路
5. 世界に選ばれる都市へ
6. 持続可能な物流システム
7. 世界から観光客を魅了
8. 災害から人と暮らしを守る道路
9. 道路交通の低炭素化
10. 道路ネットワークの長寿命化
(参考:国土交通省「2040年、道路の景色が変わる」関連プロジェクト一覧)
例えば、「3. 交通事故ゼロ」「4. 行きたくなる、居たくなる道路」「5. 世界に選ばれる都市へ」に対しては、「『多様なニーズに応える道路空間』のあり方に関する検討会」が設置され、社会・経済情勢の変化やCASEなど新たな技術の登場による道路交通をめぐる最新の情勢に対応していくための議論がスタートしている。
さらに、ビジョンの根底にある思想は今年2月に閣議決定された「道路法等の一部を改正する法律案」にも一部反映されている。法改正のポイントとなるのは以下5つの要素だ。
1. 物流生産性の向上のための特殊車両の新たな通行制度の創設
2. 民間と連携した新たな交通結節点づくりの推進
3. 地域を豊かにする歩行者中心の道路空間の構築
4. 自動運転を補助する施設の道路空間への整備
5. 国による地方管理道路の災害復旧等を代行できる制度の拡充
■法改正のポイントとビジョンとのつながり
「4. 自動運転を補助する施設の道路空間への整備」に対する動きとしては、法改正によって自動運転車両を支援するための補助施設が「道路附属物」へ追加されることとなる。担当者は「補助設備としては、今のところ磁気マーカーを利用した自動車誘導用の設備を想定している。未来像としてワクワクするものにはなりきれていないかもしれないが、モビリティ支援という発想で道路法を変えたということ自体は新しい」と説明する。
11月末の施行に向け、磁気マーカーなど設備基準の整備を進めているところだという。将来的には、磁気マーカーだけでなく、GPSを補完するような自動車の位置情報取得のための施設など、さまざまな可能性を検討していくことが想定されている。
また「2. 民間と連携した新たな交通結節点づくりの推進」に関連して、バス、タクシー、トラック等の事業者専用の停留施設も「道路附属物」に位置付けられるようになる。これは、未来型MaaSの拠点として、集約型公共交通ターミナル「バスタ」の展開をスムーズに進めていくことが狙いだ。「道路空間のユニバーサルデザインを考える懇談会」では、バスタを展開させていくにあたり、特に高齢者や障がい者の方にも使いやすいようなユニバーサルデザインを重視した基準の検討を進めているという。
集約型公共交通ターミナル「バスタ新宿」昼と夜の様子
(写真提供:国土交通省 道路局)
(写真提供:国土交通省 道路局)
さらに、ユニバーサルデザインは「3. 地域を豊かにする歩行者中心の道路空間の構築」にも重要な観点となる。ビジョンにおいては、子どもたちが遊んだり、大人が立ち話や井戸端会議を行なったりするような、人々の交流やコミュニケーションを育む場としての道路へ「回帰」するという社会像も示されており、近年、車両が通行するための空間となっていた道路を、歩行者中心の空間へとつくり変えていく取り組みも考えられている。
ビジョンには、通勤帰宅ラッシュの消滅や、飲食店やスーパーなどの小型店舗が顧客の求めに応じて道路を移動する世界観など、その他にもワクワクする道路の未来像が描かれている。これらは、2040年でもまだ現役で働く国土交通省の中堅・若手の意見をもとにつくられたものだ。これから20年掛けて日本の道路はどう変わっていくだろうか。今後の動きにも注目していきたい。
(取材/井上 佳三・齊藤 せつな、記事/周藤 瞳美)
当記事に掲載したイメージイラストは、いずれも「国土交通省『2040年、道路の景色が変わる』」より