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Shared Mobility Rocks 2023│シェアモビリティ国際会議レポート 第2回「Movmi:シェアモビリティに特化したコンサルティングファームとは」【寄稿:AMANE】

2024/2/21(水)

写真右端:サンドラ・フィリップス氏 (提供:movmi)

<Movmiのチームのみなさん>
写真右端:サンドラ・フィリップス氏
(提供:Movmi)

第1回の記事では、この9月にバンクーバーで開催された「Shared Mobility Rocks 2023」の様子を伝えたが、今回のイベント主催の一つがMovmiだ。Movmiはシェアモビリティに特化したコンサルティングファームで、8年前にサンドラ・フィリップス氏(以下、サンドラ氏)が立ち上げた。第2回の記事では、立ち上げの経緯とバンクーバーでのシェアモビリティの状況について聞いた。

――Movmiを立ち上げた経緯と、普段の業務について教えてください。

サンドラ氏:Movmiはシェアモビリティに特化したコンサルティング会社です。もともと、ダイムラーのカーシェア会社「car2go」で働いていたのですが、カナダ市場はそれほど大きくなく、事業の拡大が頭打ちになっていました。次のキャリアを考えていたのですが、そのときに車だけでなく、さまざまなモビリティを含んだシェアモビリティ全般が人々に必要とされているのではないか、という仮説を立てたのです。自転車やスクーターや、オンデマンドも含めて、人々が必要なときに必要なモビリティにアクセスできる状態を目指しています。

Movmiでは、これを「シェアモビリティアーキテクチャ」と呼んでいます。この言葉は、アーキテクチャ=建築の考え方を参照しています。土地や素材が違うと、建築が一つ一つ異なるように、シェアモビリティも、展開する街ごとに上手くいく配置計画や組み合わせというのは異なるからです。コピーペーストで上手くいくケースはほとんどありません。シェアモビリティも、その街の交通の状況や計画、そして地形に合わせた、考え抜かれた設計と実装が必要なのです。

私たちが提供しているサービスは主に2種類です。1つ目はシェアモビリティの教育に関連するもの。Shared Mobility Rocksのようなイベントの開催もそうですし、他にもネットワーキングイベントの開催やeラーニングのコースの提供なども行っています。

2つ目は、コンサルティングです。主には、プロジェクトベースでシェアモビリティ事業の財務的な実現可能性調査や、成長戦略の検討を行っています。この8年間で学んだのは、多くの事業者は、コストがどこにかかっているかは把握しているのですが、どのように収益を増やしていくかについては苦闘している、ということです。他にも、キャパシティ計画も行います。これは、何台の電動自転車、何台のEVを、どこに配置すればよいか、緊急時にはどう対応するか、といった計画です。

我々が一番必要されていると感じるのは、複数のステークホルダーが関わっていて状況が複雑になっているときです。例えば3つの事業者と、公的機関と市が関わってくるときに、間に入って調整していきます。このような利害関係者のマネジメントも行います。

――「シェアモビリティアーキテクチャ」はあまり聞かない言葉ですが、わかりやすいですね。シェアモビリティを専門にしているのも珍しいです。

サンドラ氏:我々の仕事はなかなか伝えづらいところがあります。そのため、違う土地や条件のもと、ベストなものを作り上げていく建築の考え方は、わかりやすいのではないかと考え作った言葉です。

関係者間の調整やデジタルの知識など、シェアモビリティアーキテクチャの構築には実はさまざまな技能が必要だと感じています。私はスイスで育ったのですが、4つの公用語を持つ国で、異なるバックグラウンドがある人とのコミュニケーションが非常に重視されています。そこでの経験は、間違いなく今の仕事に生きています。また、「Siri」に代表されるような自然言語処理を専攻していたこともあり、システム関連に明るいことも役立っています。

――どのような方がクライアントですか?

サンドラ氏:主なクライアントは2種類いて、60%ほどはシェアモビリティのオペレーターです。収益の拡大が主なテーマで、交通計画やステーションのネットワーク、人口構成を見て、サービスを再設計していきます。

数値を見ることはもちろん大事ですが、全体のシステムから考えていくことが重要です。最近は既存事業者からの依頼が多いので、感覚的には「この建物をリノベーションして!」と聞かれる建築家のような役割ですね。残りは公的機関です。この場合は、公共交通機関や市などが、公共交通とシェアモビリティをどのように組み合わせていくか、に関心があることが多いです。

また、税制や法規制などに関して事業者側の意向を聞かれることもあります。シェアモビリティが成立するための条件や、事業者側の収益の課題について中立的な立場から意見を聞きたいと考えています。

会場ではさまざまなオペレーターが展示をしていた(提供:AMANE)

会場ではさまざまなオペレーターが展示をしていた
(提供:AMANE)



――市はシェアモビリティを応援したいという立場なのでしょうか?

サンドラ氏:市は環境負荷軽減の観点から、シェアモビリティが有効だと考えています。ただ、補助金をつけるかというと、それは違います。税制や政策を変更することで、シェアモビリティが持続できるのであれば、そうしていきたいという立場です。

例えば、カルガリーでは2年ほどカーシェアサービスが展開されていましたが、市が税率を引き上げたところ事業の採算性が成り立たなくなり、撤退してしまいました。また、10万人ほど会員がいたのですが、その後実施されたアンケートで、6割近くの人が今後の移動のために自動車を購入すると回答していました。これは市が望んでいた結果ではありません。

――シェアモビリティ事業者が収益を確保していくのに、一番大事なことはなんでしょうか?シンプルにはまとまらないかもしれませんが…

サンドラ氏:確かに単純な話ではないです。しかし、それでもシンプルです。シェアリングに必要なのはスペース、そしてネットワークです。スペースとネットワークさえあればサービスは始められます。

ただ、問題はどの街も歴史があり空間は限られていて、地形的な特徴も違います。例えば、シアトルは高低差がありますが、バイクシェアのネットワークを形成する際には、このような地形的な特徴が重要だったりします。

バンクーバーのバイクシェア。都心部だけでなく住宅地にもポートが設置されている。(提供:AMANE)

――バンクーバーは北米でのカーシェア発祥の地として知られています。現在はどのような状況でしょうか?

サンドラ氏:現在は、大きく分類して2つのモデルでカーシェアサービスが展開されています。一つは同じステーションへの返却が原則のもの。もう一つがワンウェイ型のカーシェアで、どこから借りて、どこに返却しても構いません。

往復型のカーシェアサービスでは、Modoというサービスが代表例です。Modoは1997年に設立されたバンクーバーで一番古いカーシェアサービスで、現在は3万人ほどの会員を抱え、1000台の車を運用しています。営利企業ではなく協働組合方式で運営されているのも特徴です。加えて利用できる車種が多様で、すでに10%の車がEVであるほか、バンやハイブリッドセダン、SUVも利用できます。

ワンウェイ型のカーシェアサービス、Evoは現在バンクーバーで2250台運用していますが、特徴があります。通常は同じ台数かそれ以上の駐車場が必要となりますが、Evoはその数の駐車場を契約しているわけではありません。バンクーバーはカーシェアに関して特例があり、事業許可を取得し、年間の利用料を支払うとカーシェア用の車両を住宅地に駐車することができます。

もともと、住民が申請し年間利用料を支払うと、その居住地域の範囲内の路上に駐車許可を得ることができるのですが、その規則を活用しています。Evoではジオフェンスを設定し、車両が範囲内に駐車されているか確認しています。

この方式は、信頼性のあるシェアモビリティのネットワークを形成する上でとても有効で、住民にとっては必要な時にいつでもカーシェアにアクセスできるという安心感があります。私も自動車を持っていないのですが、遠くても2ブロックほど歩けばカーシェアにアクセスできます。ただ、この方式は他の都市では展開が難しいようです。

――Movmiの今後の展開を教えてください。

サンドラ氏:ヨーロッパで始まったShared Mobility Rocksをバンクーバーで開催できたのは本当によかったと考えています。シェアカーやシェアバイク単体のイベントがあるたびに、「シェア」というキーワードでまとめて一緒に開催するべきだと考えていましたから。シェアモビリティに関するイベントは今後も開催していきたいです。コロナ禍が明け、北米を中心にヨーロッパでもプロジェクトが動き始め、チームを拡大していく時期でもあります。

また、今年はシェアモビリティに関するオンラインクラスを開講する予定です。最新情報はホームページから登録できるニュースレターで配信していますので、ぜひチェックしてください。

――楽しみですね!ありがとうございました。

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文:佐藤 和貴子(株式会社AMANE)

東京大学大学院にて都市デザイン・建築設計の研究を行う。大学院での修士論文を元に「小さい交通が都市を変える」を出版。ロンドンとダブリンの建築設計事務所にて建築設計・都市デザインに従事。香港の設計事務所で北海道・ニセコや東南アジアのプロジェクトに携わったのち、現職。

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