高齢者に優しい移動サービスを 舟屋の里・伊根を走るグリーンスローモビリティ―
2019/1/31(木)
持続可能なサービスを見据え、 有償運行を実施
2017年の実証において運賃は無償で行ったが、2018年の実証では有償での実施に踏み切った。その理由として、今後継続的に地域の足として効果的な移動手段となるのかを検証する目的があった。運賃は平日と土日祝祭日で違いはなく、住民は1回300円(小児200円)、住民以外は1回500円(小児200円)。価格は2017年の実証の際に行ったアンケートなどを参考している。アンケートに回答した半数近くの利用者が「500円程度が妥当」との意見だったという。合意形成のキーマンは「観光協会」
2018年の有償運行については、地域公共交通会議において合意形成を行った。そこでは運行方法への提案など前向きな質問が多く挙がり、官民ともに課題解決に向けて高い関心を持って臨んでいたことが伺える。また、デマンド予約システムは専用のタブレットを使用して行うため、高齢者にとってわかりやすい操作方法であることが大変重要になる。当実験においては、実験に協力する住民を集め説明会を実施し、個別の説明対応も行う体制を整えた。また、導入されたデンソーの予約システムは、すでに全国10カ所以上の自治体で運用しており、そこで得たノウハウを生かしながら操作方法を周知することができた。
地域住民への合意形成を行う上で、伊根町観光協会が大きな役割を果たしている。伊根町観光協会は、「海の京都DMO(※1)」としての顔を持ち、「DMOは住民のための組織」と捉え活動している。会員には集落の区長などの地域住民が参加しており、定例理事会などを通して合意形成を行った。
2017年の実証の際には、ドライバー全てを地域住民で確保することが難しく、派遣会社を通じ町外から補うことになり、人材確保が課題となった。しかし、「地域の交通は地域で運営を」という考えのもと、2018年の実証では、10名のドライバー全てを地域住民が担った。50~60歳代が中心で、定年退職後を迎えた後の人もいれば、本業のかたわらドライバーを勤めた人もいた。ここでも日ごろから地域住民と関わりが深い観光協会が先頭に立ち、直接住民に声を掛け依頼して回ったという。また、10名のドライバーは、全て事前に自家用有償運行の認定講習を受けている。さらにアルコールチェックなどの具体的な項目については、地域を運行する丹後海陸交通(丹海バス)からアドバイスを得た。運賃や利用する側への配慮だけでなく、地域で利用されるサービスとなるためのさまざまな工夫がみられる。
住民・技術提供を行うメーカー・町役場のハブ的な役割を果たし、住民への周知や合意形成、ドライバーの確保などに取り組むことで、包括的な合意形成を行うことができたと言えるだろう。
※DMO:観光、自然、食、芸術・芸能、風習、風俗など地域にある観光資源に精通し、地域と協同して観光地域作りを行う法人の略称
利便性を高め、 地域に根ざす移動サービスとなるために
1回目の実験後に行ったアンケートでは、窓が無いため「風が気持ちいい」や、時速20km未満で走るため「ゆっくりと景色を見ながら観光ができた」「ゆっくり走行するので安心感があった」などの感想が得られ、おおむね良好な結果が得られた。2回目の実証で行った利用者へのヒアリングでも好意的な意見が多かったという。観光地の周遊に適している点は地元の商工業者にとってメリットが大きい。また、オンデマンド化によって再編された新たな交通体系は、従来の路線バスやコミュニティバスにとって代わる移動サービスになると、バス事業者からも期待を寄せられている。一方で、2度の実証を通してさまざまな課題も見えてきた。今回は伊根町の舟屋が並ぶ沿岸のエリアを走行したが、山間部にも多くの移動不便を抱える住民が暮らしている。そうした地域の課題を解決していくためには、今回検証したグリーンスローモビリティという手段だけではなく、他の車両の使用も含めた総合的な検討が行われるだろう。舟屋をはじめとした観光資源を活用した移動サービスを構築し、交通空白地の移動課題も解決する。伊根町の取り組みは二つのテーマが相互に関わりながら進められていく。
トヨタ・モビリティ基金は、2014年の設立以来、人々の自由な移動の実現を目指し、国内外の多様なパートナーとともにモビリティに関する取り組みを推進している。日本では過疎化、高齢化に直面する中山間地域の移動課題に関するプロジェクトを実施しており、2018年11月からは地域に合った移動の仕組みづくりに取り組むさまざまな団体を支援する公募を行っている。詳細は、「みんなで作る地域に合った移動の仕組み」Web サイト(http://min-mobi.jp/)。締切は2019 年2 月28 日( 午後5 時) 。