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コウノトリの郷で住民がつくる地域の足 豊岡市の「持続可能」な公共交通サービスとは?

2019/1/31(木)



イナカーとチクタクの利 用者数・市負担額の比較(提供:豊岡市)


また、事業見直しのスキームをオープンにすることや、年1~2回の住民向け説明会の開催を通して「チクタク」の運営に住民の参画を促したことで、当事者意識が醸成された。地域の公共交通サービスで交通弱者を守ろうという機運が高まったのだ。出石町の奥山地区・ひぼこ地区を例に挙げると、「イナカー」から「チクタク」へ移行した後に、月平均の利用者数が約9倍に跳ね上がった(22.5人→194.6人 上図参照)。かつ、市営バスである「イナカー」と比べ、市の年間負担額(運行経費から運賃収入を引いた額)は半分近くまで削減した(3,264千円→1,700千円 上図参照)。

ドライバーの確保についても地域密着型の取り組みが見られる。現在「チクタク」は豊岡市内の4地区を運行しており、2017年度の運行実績によると、合計75名のドライバーが「チクタク」のサービスに携わっている。集落の地区長などが参加する協議会で具体的な運行方法に加え、その地区や周辺に住む住民に声を掛けドライバーを確保している。多くは60歳以上の一度定年退職を迎えたシニア層で、元JA職員など、地域と関わりの深い職業に就いていた経験のあるドライバーもいる。また、週3回(月水金)の運行で、月ごとにシフト管理を行うという運営のため、本業のかたわらドライバーを兼ねる30歳代のスタッフも参加しているという。

将来、過疎と高齢化がさらに進むことでドライバーの確保がより困難になることが予想される。豊岡市役所 都市整備部 都市整備課 交通政策係 主幹の瀬崎 晃久 氏によると、「将来、ドライバーの確保ができなくことも見据えている。10年、20年後には、地域のお年寄りを支える40歳から60歳代の人口は確実に減少する」という。そこで豊岡市が見据えているのが自動運転サービスだ。「今のサービスは将来自動運転を導入するまでの『つなぎ』だと思っている(瀬崎氏)」と早期の普及に期待を寄せている。

自治体も覚悟を持って臨む プロフェッショナル育成

地域密着の公共交通を住民の手で運営するチクタク。しかしそれだけで全て完結するわけではない。行政側が一体となって取り組む姿勢も欠かせない。豊岡市では、公共交通を社会資本ととらえ、「市民の足を守る」ことを基本理念としている。交通政策を都市計画の一環として組み込み、これまで挙げたような数々の施策を打ち出してきた。また、人材育成にも力を入れており、通常1~2年で異動を繰り返すことが一般的な地方公務員の中にあって、公共交通の専門チームは3~5年掛け、戦略的なプロフェッショナル育成を行っている。地域の需要や特性をよく理解している当事者意識の高い人材が、個々の事業の見直しや改善に携わることで、より住民のニーズに沿った取り組みへつなげることができる。

チクタクドライバーの芝地 政伸 氏のコメント


人口減少社会で 「持続可能」なモデルの構築を目指す

また、豊岡市が掲げる最大のテーマは「持続可能」であることだ。そのためには運賃以外の事業収入を確保することも重要だ。そこで豊岡市内を運行する全但バス(株)は、2017年6月からヤマト運輸と共同で貨客混載事業に取り組んでいる。さらに2018年10月には近畿大学と大阪大学が中心となって、IoT技術を活用したデマンド型交通サービスの実証実験を開始した(実施期間は1年間)。簡易な予約・配車システムとバス乗降者数カウントシステムの導入で、より便利なサービスの導入に本腰を入れている。豊岡市は、縮小していく地方公共交通を何とか維持するのみではなく、新しい事業や技術を導入して、サービスを進化させていく新たなフェーズへと進んだと言える。

変わる地方のまちづくり 移動ニーズに沿った交通体系を

豊岡市が掲げるような「持続可能」なモデルを構築することが急務だ。そのためには自治体・事業者・地域住民が一体となって取り組むことはもちろん、地域の実態に沿ったサービスづくりが何より重要だ。「イナカー」や「チクタク」のように、住民の移動ニーズを反映した移動サービスは、その一つの回答だろう。一方で、MaaSをはじめとしたサービスの多様化や、自動運転技術の発展などを背景に、地域住民の移動ニーズは今後ますます多様化していくことが予想される。新しい地域の移動の仕組みづくりがどのようなものになるのか、興味は尽きない。

トヨタ・モビリティ基金は、2014年の設立以来、人々の自由な移動の実現を目指し、国内外の多様なパートナーとともにモビリティに関する取り組みを推進している。日本では過疎化、高齢化に直面する中山間地域の移動課題に関するプロジェクトを実施しており、2018年11月からは地域に合った移動の仕組みづくりに取り組むさまざまな団体を支援する公募を行っている。詳細は、「みんなで作る地域に合った移動の仕組み」Web サイト(http://min-mobi.jp/)。締切は2019 年2 月28 日( 午後5 時) 。

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