ニュース

地域のスーパーと買い物弱者をつなぐ「とくし丸」 目指すは、おばあちゃんのコンシェルジュ

2020/6/23(火)



「移動スーパーとくし丸」の車両


■3つの大事にしていること

とくし丸の事業理念は3つある。1つ目は「命を守ること」。買い物に困っている地域の人々、特に高齢者に食料品を届け、生活のライフラインになること。

2つ目は「食を守ること」。これは地域のスーパーの販売代行を担うことで、その地域のスーパーが食のインフラであり続けられるように、とくし丸が協力することを意味している。

そして3つ目は、「職を作ること」だ。

「この仕事は、薄利を積み重ねるので、そんなに大儲けはできません。でも、とくし丸の販売現場では、いつも『ありがとう』とお客様に言っていただける。買い物難民問題に貢献できている実感があり、やり甲斐を持って働けるという声はよく聞きます。

私たちはこのような『ありがとう』と言われて収入を得られる仕事を作ることを大事にしています。」(荒川氏)

トラックには約1,200〜1,500点の商品を積むことができる


■販売ノウハウは全体共有、自ら求めれば学べる環境

移動販売では、販売場所や商品構成などのノウハウが売り上げを左右すると言われている。

「顧客集客、ルートの組み方、商品構成など、とくし丸本部、スーパー、また販売パートナー自身が1つ1つ時間をかけて積み上げた結果、それがノウハウとなって売り上げが出ます」(荒川氏)

とくし丸は全国で新たな提携スーパーが増えているが、提携を結ぶ際には、必ず最初に徳島県で1週間、スーパー担当者と販売パートナー向けの研修を行っている。

徳島研修の翌週には現地での実地研修を行い、実地研修後も、都度電話相談や指導を行うなど、継続的に販売パートナーをサポートしている。

そのほか、稼働し始めた販売パートナーに向けて、売り上げ管理用サイトと掲示板を運営している。掲示板には毎日の売り上げと共にその日起きた出来事を自由に記入・閲覧できる。例えば、前年同月のコメントを参考にしている人も多いという。

また毎日、全車両の売り上げ一覧がとくし丸本部からメールで流れてくる。販売パートナーは周辺地域の動向と自分の売り上げを比べながら、経営者として積極的に売り上げを伸ばす努力をしている。

■顧客の好みの把握など、対面販売だからこその付加価値

高い売り上げを記録し続ける販売パートナーは共通して、顧客の購入した商品をよく記憶しているという。

「例えば、刺身が好きなお客様が、先週赤身を買ったから今週は白身だろうと推測して商品を選定する人。ご高齢のお客様の場合、そろそろ切れる消耗品があっても、実際に買う時になると忘れてしまうことがよくあります。その時に『トイレットペーパーはまだありますか?』と声をかける人もいます。

人と人との対面コミュニケーションという付加価値のあるサービスなので、今後、AIが発達したとしても、この部分の置き換えはできないのではないかと思っています。」(荒川氏)

玄関先で対面で、会話をしながら販売する


■自治体や警察と共に「地域を見守る」

とくし丸では、この販売で培った関係性を生かして地域の自治体や警察署と見守り協定を結び、地域の「見守り隊」の役割も担っている。顧客に病気の兆候があった場合は包括センターに連絡するなど地域の安全も見守っているという。

「とくし丸は週2回、家まで行って対面で会話をします。関係性もできている中で、いつも会うお客様の様子が普段と違って心配になるのは、これは自然なことでしょう。」(荒川氏)

■コロナショックで高まる利用、移動販売の今

新型コロナウィルス感染症の影響もあり、これまではクルマで買い物に行っていた人も、近所に販売車が来ると利用するようになるケースも増えたという。

「数字的にも、今年2〜3月は昨年同月と比較して、1車両の1日あたり売上額が7%ほど上がり、4月の緊急事態宣言後は通常時に比べて10%ほど上がっています。

ただ、これは単純に喜べる状況ではなく、お客様の危機意識の高まりが現れたものです。その信頼に応えるべく、頑張っていかなければと思います。」(荒川氏)

現在とくし丸では感染防止対策として、販売パートナーのマスク着用、販売前のアルコール消毒、体温測定などを毎日実施し、中には車両に自分の体温等健康状態を掲示している人もいるという。

「アフターコロナ社会では、各自治体、各地域で失業が増え、社会問題になってくるはずです。その時に販売パートナーという働き方はその解決方法の一つになると思うので、その準備も考えています。」(荒川氏)

<編集後記>
とくし丸は、買い物弱者の問題だけでなく、地域のスーパーの存続、やり甲斐ある社会貢献型の雇用機会の創出や、さらには地域の見守りまで手掛けている。細い生活道路を入った、玄関先での週2回の対面コミュニケーションで築いた信頼は、「遠くの親類より近くの他人」の言葉を形にしている。スーパーと販売パートナー、顧客ととくし丸、この4者が協力して作る新たなビジネスモデルの広がりに、続けて注目していきたい。
(記事/柴田 祐希)

1 2

get_the_ID : 53609
has_post_thumbnail(get_the_ID()) : 1

ログイン

ページ上部へ戻る