トヨタ紡織 自動運転時代の車室空間の楽しみ提案【CES2023】
2023/1/17(火)
トヨタ紡織株式会社(以下、トヨタ紡織)は1月5日、CES2023の会場でコンセプト・カー2種を出展した。同社が見据えるのは、2030年のレベル4自動運転とロボタクシーの普及だ。運転席を必要としない新時代の車室空間を柔軟に活用し、快適に過ごす設備と技術を披露した。
個人に合わせて内装を自由自在に、ライドシェア用MX221
「MX221」は2030年の都市で使用するレベル4自動運転※ライドシェアモビリティとして開発した。トヨタ紡織は、30年には自家用車の所有が減り、スマートフォンで呼び出すロボタクシーのライドシェア利用が格段に増えると予想している。※特定条件下においてシステムが全ての運転タスクを実行する自動運転
開発のコンセプトテーマは、自動運転時代に求められると見込む「Diversatility」。Diversity(ダイバーシティ、多様性)とVersality(バーサリティ、可変性)を組み合わせた造語で、老若男女の多様なニーズに応える車室空間を設計した。
MX221はシートなどの設備と機能によってグレードが分かれ、シートを簡単に入れ替えできる点が大きな特徴だ。ライドシェア利用者は好みの車両を呼び出すことができ、ライドシェア運行者はコストやメンテンナンスの手間を軽減しつつ、柔軟な運行が可能となる。
新システムで簡単シート入れ替え
簡単なシート入れ替えは「テイラードスペースシステム」採用の成果だ。専用の無人搬送車を使って車内のオートスライドレールからシートを取り出し、新しいシートをレールに流すだけで交換が完了する。引用:Youtube「トヨタ紡織WEB」
シートは各部を取り外しでき、破損部分や汚れた箇所のみを取り換え可能。不特定多数の人が利用するライドシェア車両の保守管理が容易になる。また、同じ製品プラットフォームを使いながらシートの機能をアップデートできる点は、ライドシェア運行者だけでなく自動車メーカーにとってもメリットがある。また、MX221は車いす利用者にとっての利便性も高い。現在、車いす利用者が乗用車の後部に乗り込む際は、専用の改造車両内で車いすをベルト・ハーネスで固定する方式が多い。しかし、この方法では「固定や調整が大変」「安全性や安定性に不安」といった難点が利用者から寄せられていた。
MX221では専用車いすとリアシートの脱着システムを開発し、問題を解決した。この車いすを使い、車両を呼ぶ際に車いす利用を選択すると、車両から自動でスロープが下りる。乗車後は車いす後部をリアシートに合わせて簡単に固定できる。離れるのも簡単。車いすはシート同様の強度・安全性をもち、快適性も高いという。
3グレードのMX221とそれぞれの機能
MX221はPASS、PLUS、PRIMEの3グレードが用意されている。利用者は料金や求める機能に応じて配車できる。各グレードの機能を紹介する。MX PASS 目的地間のシンプルな移動に
PASSは「シンプルでスマートな移動空間」。ロングスライドレール上のシートは乗客の数に合わせて自動で前後させ、脚を伸ばして座れる。座席ごとに温度や照明を調節できるアームレストスイッチを装備。乗客の体調変化をとらえる心拍センサーもシートに内蔵されている。MX PLUS 多彩なコンテンツと空間アレンジで過ごす
PLUSは、シートを回転して向かい合わせにする「ファミリーモード」を選べる。ヘッドレストにはパーソナルスピーカーが内蔵されている。他の乗員に聞こえないよう座席ごとに異なる音楽を聞くことも、全員が同じコンテンツを楽しむことも可能だ。ヘッドレストから首元に冷風を当てることで車酔いを軽減する機能も備える。これは日本の伝統的な知恵なのだとか。MX PRIME 移動しながら極上の睡眠
PRIMEのテーマは「極上の移動時間」。移動しながら車内で快適な睡眠をとれる。見るからに高級な「クラウドスイングシート」は入眠姿勢に変わり、やさしく揺れることで「まるで雲に浮かんでいるような」眠り心地を提供する。微細アロマもリラックス効果を高める。スマートフォンの除菌ユニットも標準装備。なお、全グレードが車内を自動で清潔に保つ機能を持つ。乗車時に乗客の体についたごみや菌を落とすエアカーテンや、車内をモニタリングして清浄にする空気室コントロール、車室内除菌などがある。
レベル5運転時代の走る施設 ウェルネスも体感 MOOX
「MOOX」は完全自動運転のレベル5時代において商用利用を想定した車両。テイラードスペースシステムで柔軟に内装を入れ替えできる。移動販売車、会議室、レストラン、遠隔医療クリニックなどさまざまな用途を見込んでいる。今回のCES会場ではウェルネス体感仕様車が展示された。ウェルネス体感は、シートに座って座席側部のセンサーを握るところから開始。疲労・ストレスを3段階で測る。測定を終えると、車窓でもある透過ディスプレイに森林の映像が映し出される。8つのスピーカーから流れる立体音響、「感情誘導香りデバイス」から発生する香り、振動、照明を駆使してリラックスに導く。そして、ディスプレイ全面を使ったジェスチャー検知の体を動かすゲームでリフレッシュ。疲労、ストレスの軽減を確認して終了した。
MOOXは外のリアルな景色と映像を組み合わせたAR(拡張現実)を楽しむこともでき、観光用途の研究開発も進められている。
スタートアップとのコラボも実施
なお、トヨタ紡織アメリカはCES2023でライドシェア向けの車載ソフトウェアを開発するスタートアップIveeと協力。同社とトヨタ紡織によるデモンストレーション「Ivee Immersive」が行われた。Ivee Immersiveではシートとソフトウェアが連動する体験を紹介した。まず、車載タブレットで「シアター」「スパ」「オフィス」のモードを選ぶ。「シアター」は映像や音楽を視聴できる。ヘッドレストのパーソナルスピーカーからは大音量が聞こえ、背もたれからは振動が起きる。しかし、ヘッドレストから頭を離すと音は聞こえない。周りを気にせず映像と音を満喫できる。
パーソナルスピーカーは「オフィス」モードでも役に立つ。周りには聞こえないビデオ会議が車内で可能。「スパ」モードでは、リラクゼーション音楽が流れ、シート下のライティングがやさしい色調となる。
トヨタ紡織のブランド責任者リチャード・チャン氏によると、21年の見本市でIveeの技術力に感銘を受けたことが今回の協業に結びついた。チャン氏は「乗客をインスパイアする明日の車室空間を作るという当社のミッションにとってIveeは大きな助けとなる」と語った。