淡路島の漁港で考える地域交通「淡路島まるやまFESTIVAL 2025」レポート
2025/11/19(水)
兵庫県南あわじ市の丸山漁港で、「淡路島まるやまFESTIVAL 2025」が9月27・28日に開催された。主催者であり、丸山漁港を中心に地域活性化を目的とする「株式会社まるやまと」の代表・本丸勝也氏(兵庫ベンダ工業)によると、同イベントは水産振興と漁村のまちづくりというビジョンを具現化する実験的な試みだという。
イベントと並行して、地域交通の課題を議論するカンファレンスも開催。名古屋大学の森川高行氏、デジタル庁の本丸達也氏を招き「モビリティ・ブレンド」「準公共」「公共財プラットフォーム」といったキーワードのもと、中山間地域における交通の未来像が示された。本記事では、その議論の内容をレポートする。
イベントと並行して、地域交通の課題を議論するカンファレンスも開催。名古屋大学の森川高行氏、デジタル庁の本丸達也氏を招き「モビリティ・ブレンド」「準公共」「公共財プラットフォーム」といったキーワードのもと、中山間地域における交通の未来像が示された。本記事では、その議論の内容をレポートする。
●「海業」の取り組みから見えてきた地域交通の課題
今回のイベントの背景にあるのが、昨年4月に施行された漁港漁場整備法の改正だ。この法改正によって、民間事業者が漁港を活用した海業(うみぎょう)※に参入しやすくなった。しかし現状では、海業の成功事例はほとんどが潤沢な資金を持つ企業のものだ。今回まるやまと社が行ったのはレアケースで、地域の漁協、自治会、商工会などが参加する「丸山漁港海業協議会」 での合意形成を経て、県の公募に応募する形で実現した。※海業(うみぎょう):海や漁村の地域資源の価値や魅力を活用する事業(水産庁Webサイト「海業の推進」より)
会場では、魚との触れ合いスペースや海上釣り堀などが設置されたほか、ライブステージや野外ナイトシアターなどの芸術イベント、キッチンカーや浜焼きBBQといった食のイベントも充実。多様な要素を組み合わせた総合的なイベントとしてにぎわった。まるやまと社の本丸勝也氏は「今回のイベントのような、いわゆる『シン・海業』を展開していきたい」と意気込む。今後は、海洋研究施設の設置なども進め、漁港ならではのまちづくりを進める方針だ。
一方で、施設の整備と並行して浮上したのが地域交通の課題だ。丸山地区は公共交通の便が良いとは言えず、高齢化も進んでいる。また、同地区に診療所はあるものの、近隣には総合病院はない。「若い世代が施設で働き、家族を持つようになったとき、病院や保育園などへの移動手段をどう確保するか」。本丸勝也氏が指摘するこの問題は、イベントのカンファレンスで取り上げられることになった。
●専門家たちが示した地方版の交通戦略

同イベントで開催されたカンファレンス「地域の足をどう守る?~中山間地域の交通を問いなおす~」には、名古屋大学未来創造機構特任教授の森川高行氏と、デジタル庁チーフアーキテクトの本丸達也氏が登壇。モビリティ分野の事業化支援を手がける株式会社AMANEの井上佳三(LIGARE編集長)がモデレーターを務めた。
冒頭、「この地域は近隣にバスターミナルがあるものの、今後、若い世代や子育て世代を呼び込むには、高齢化への対応と合わせて交通の問題を考える必要がある」と問題を提起し、議論が始まった。
▼森川氏が提唱する「モビリティ・ブレンド」
森川氏は、イノベーション創出を目的とした「COIプロジェクト」で9年間取り組んだ「高齢者を元気にするモビリティ社会」の研究成果を紹介した。特に力を入れたのが「モビリティ・ブレンド」という概念だ。これは都市型MaaSとは対照的に、中山間地域やオールドニュータウンなどを対象とした「地方版MaaS」とも呼べる考え方で、既存の公共交通とCASE型の移動手段(例:ライドシェア、自動運転など)を組み合わせて提供するものだ。
具体例として、愛知県春日井市の高蔵寺ニュータウンでは、「ゆっくり自動運転」を導入。電動ゴルフカートなどを用い、自動運転レベル2で運行している。注目すべきは、運転を担うのが地域の高齢者が作ったNPOである点だ。2023年2月の開始以来、事故なく運行を続けている。
今後は遠隔監視型の自動運転への移行を進めており、森川氏は「遠隔地にいる人が複数台の無人車両を監視し、必要な判断を遠隔で行う新しい形のレベル4の実現を目指す」と語った。
▼本丸氏が語る「準公共」という視点
デジタル庁の本丸達也氏(勝也氏とは兄弟)は、「準公共」という概念から地域交通を捉え直した。医療、交通、防災、教育といった「公的でもあり、みんなが携わる」領域は、民間単独では黒字化が困難だという。「特に中山間地域などにおいて、民間が単体で交通をビジネスとして成り立たせるのはほぼ不可能」だと同氏は指摘する。
続いて、富山県南砺(なんと)市の事例で取り組んでいる「幹・枝・葉」という交通ネットワークの考え方を紹介。「幹」の部分については、JR路線を自治体が買い取り「あいの風とやま鉄道」に移管するという取り組みを進めている。枝葉の交通については、モビリティサービス「なんモビ」が2025年春に始動した。既存のタクシー事業者と協調する「タクシー優先」方式の予約・配車依頼サービスを展開中だ。他方、合掌造り集落がある五箇山(ごかやま)地域では、既存のタクシー会社のみではインバウンド需要に対応しきれないとの判断で、公共ライドシェアサービスを導入している。
本丸達也氏が強調したのは、サービススキームの設計だ。「補助金に依存すると、打ち切られた瞬間にシュリンクする。民間の事業化と協調し、主体性を持って行動することで持続可能性を高める必要がある」。そのために、公共ライドシェアにおける「公共財プラットフォーム」という考え方を提示した。公の機関がどの自治体でも使えるシステムを用意し、利用者向けアプリ、ドライバー向けアプリ、タクシー配車システムなどを提供する仕組みの構築が重要だと説いた。
●議論から見えた「共通プラットフォーム」の必要性
▼高校生が提起した「自転車運搬サービス」
トークセッションには、地元の淡路三原高校の生徒も参加しており、切実な問題提起があった。「南あわじ市では主に自転車で移動することが多いが、目的地までの往復がつらい。でも、タクシーを使えば5,000円はかかる距離だし、家族に送ってもらっても、帰りの手段がない。そういった課題を踏まえて、自転車を運搬するサービスを実現できないか考えている」。この提案に対し、本丸達也氏は台湾のシェアサイクル「U-BIKE」の事例を紹介した。「台北市が自転車を供給し、至る所で利用できる。淡路島全体でこのようなシステムを導入するのも一つの方法では」と助言した。
▼公共財はハードとソフト両面で必要
森川氏は、現状政府が掲げる自動運転の実装に向けた課題に触れ、「2025年度中に50カ所、2027年度中に100カ所という目標を掲げているが、1週間の実験で数千万円のコストがかかるといわれる現状では、達成は難しい」と指摘した。その解決策の一つとして挙げたのが、本丸達也氏も言及した「公共財プラットフォーム」の考え方だ。自動運転車両と基礎的な運行システムを公的機関が所有し、仕様を決めて大量発注することでコストを下げる。それを自治体や交通事業者に安くリースする仕組みだ。森川氏はこの構想について「年内を目処に国交省や経産省、デジタル庁に提言する予定」だと明かした。
▼地域資源を総動員して持続可能に
総括として、森川氏は「交通事業者と自治体だけでなく、漁協、旅館、スーパーマーケットなど、地域の資源を総動員して公共交通を守ることが大切」と述べた。
本丸氏は持続可能性の鍵として収益化を挙げ、「別府では観光需要によってタクシードライバーの収入が高い。地域を魅力的にし、外から人を呼び込み、交通を持続可能にする2階建ての発想が必要」だとした。
最後にモデレーターを務めた井上が、淡路島の地域交通計画でのアンケートに言及。「現状の公共交通が便利だと思う住民の割合」が1.2%という数字を示し、「今日の場がこの数字を1%でも増やすきっかけになれば」と締めくくった。














