豊田自動織機、人と協調する運搬ロボット「LEAN」で労働力不足の物流現場に新風【JMS2025】
2025/11/21(金)
豊田自動織機は、ジャパンモビリティショー(JMS)2025で人協調運搬ロボット「LEAN」を初出展した。登壇した経営役員 技術統括の一条恒氏は「深刻化する物流業界の労働人口不足を、ロボティクスの力で補いたい」と強調。人とロボットが同じ空間で自然に協働する未来を提示した。
二輪で人と共に働く運搬ロボット「LEAN」の仕組み

LEANという名称は、英語の「傾く」 に由来する。従来の運搬ロボットの多くが四輪や多脚構造で安定性を確保するのに対し、LEANは二輪での自律走行を採用している点が特徴だ。二足歩行の人間がバランスをとりながら移動するかのように、倒れる力をあえて利用しつつ必要な方向に傾きながら走行する。この仕組みにより、荷物を持ち上げた際の重心変化や外力をロボット自身が推定し、最適なバランスをとる。
会場では「四輪のほうが安定するのでは」といった疑問の声も上がった。これに対し、同社スタッフは「四輪車は重量物を載せた部分に重心が偏り、転倒のリスクが生じる。一方、LEANは二輪ならではの制御によって後方へ力を加え、姿勢を維持できる」と説明した。人の力の強さや動きに合わせて柔軟に反応できる点も、二輪構造ならではの利点だという。
LEANの主なターゲットは、eコマース領域だ。フォークリフトのように大量の荷物を一度に運ぶのではなく、これまで人が行ってきた細やかなピッキングや小口荷物の運搬を代替する存在として位置づける。
LEANは単独での作業に加え、2台が連携して協調運搬することも可能。状況に応じて柔軟に役割を変えられる。運搬容量はフォークリフトに劣るものの、そのぶんエネルギー効率に優れ軽快な動作が可能だ。
これからの働き方と暮らしを支えるLEANの未来像

これまで多くの物流現場では、安全確保の観点から人とロボットの作業エリアを分離することが一般的だった。ロボットの誤作動による接触や事故を避けるためだ。しかしLEANは、AIを活用した動作学習により、人の動きと息を合わせる協調作業を実現した。単に荷物を運ぶだけでなく、人や周囲の状況を理解しながら「最適な配送」を導き出せる。今後のソフトウェアアップデートによって、より複雑な指示や判断が可能になる見通しだ。
海外の物流倉庫では無人化を進める事例が増えているが、LEANが持つ「人と協調する」というアプローチは、日本の現場文化に根ざした発想ともいえる。人手不足を補いながら、人のきめ細かい判断や作業を尊重し、ロボットがそれを支援するというモデルだ。
一条氏は将来について「LEANは物流だけでなく、家事やレジャーなど生活シーンへの展開も視野に入れている」と述べた。最終的には人がルールを細かく教え込むのではなく、ロボット自身が考え行動するヒューマノイドのような進化が競争の鍵になると展望を語り、ロボティクスの未来像を提示した。
労働力不足や自動化への期待が高まる中、同ロボットが業界にもたらす変革は小さくない。今後の実装と進化に注目が集まる。
(取材・文/平井千恵美)







