全国の自治体が抱える道路維持管理の課題。コネクティッドカーから得られる客観的なデータがもたらす価値とは
2021/8/19(木)
現在、全国の自治体が抱える課題の一つとして、道路の適切な維持管理が指摘されている。少子高齢化や財政難、頻発する自然災害による被害への対応などから、地方自治体は十分な予算を道路の維持管理に回すことが困難になってきている。
しかし住民の安全な走行・歩行の確保は第一に求められる部分だ。桃の名産地としても知られる岡山県赤磐市も同様の課題を抱えていた。そこで一般財団法人トヨタ・モビリティ基金(以下、TMF)と共に実証実験を進め、車を動くセンサーとするコネクティッドカーから得られる車両の位置、車速や加速度等の走行データを道路の維持管理、さらには交通安全や災害への対応に応用する動きを進めている。「高額の予算をかけずに、道路補修に必要なデータが得られる」この実証実験から得られた現時点での成果について岡山県赤磐市ならびにTMFに伺った。
しかし住民の安全な走行・歩行の確保は第一に求められる部分だ。桃の名産地としても知られる岡山県赤磐市も同様の課題を抱えていた。そこで一般財団法人トヨタ・モビリティ基金(以下、TMF)と共に実証実験を進め、車を動くセンサーとするコネクティッドカーから得られる車両の位置、車速や加速度等の走行データを道路の維持管理、さらには交通安全や災害への対応に応用する動きを進めている。「高額の予算をかけずに、道路補修に必要なデータが得られる」この実証実験から得られた現時点での成果について岡山県赤磐市ならびにTMFに伺った。
■市内の道路補修における優先順位をつけたい。それには客観的なデータが必要
――まずは今回の実証実験の開始を決めた理由をお聞かせください。どのような課題があったのでしょうか?須波氏(赤磐市地域整備推進室・主任):岡山県赤磐市はこれまでも産学連携により、市民サービスの向上を目指す様々な取り組みを積極的に行ってきました。近隣の岡山県美作市で、小型EVを活用し中山間地の移動の課題解決を支援する活動を行っていたTMFと、赤磐市の課題について議論する中で、道路の維持管理において、コネクティッドカーから得られるデータを活用できることを聞き、ぜひその取り組みを赤磐市でも実施できないだろうかと考えました。
単刀直入に言えば、道路補修のための客観的なデータが欲しかったんです。以前は、地元要望や蓄積されたこれまでの道路整備の情報といった一定の基準では測れない情報を基に、修繕箇所の精査を行う必要があり、多くの労力がかかっていました。実証実験では、最新の客観的な路面状況のデータを得ることで、道路の整備や補修の判断をより効率良く行えるのではと考えました。
行正氏(赤磐市建設課・主幹):赤磐市は2005年に市町村合併によって4つの町が一緒になりました。岡山市のベッドタウンとしても発展し、各所から「道路のここを直してほしい」という要望が引っ切り無しに上がってきます。予算の中で順位や範囲を決めますが、古い報告から順次消化する決め方では平等性が欠けてしまいます。そこでコネクティッドカーから得られる客観的なデータで優先順位を付けようと考えました。
従来は職員の主観で道路補修の緊急度を判断していましたが、A地区担当の職員は少しの荒れや凹みでも緊急度を感じる一方で、B地区担当の職員はまだ大丈夫だと感じるなど、担当者間での捉え方の差もありました。これを解決するにはやはり客観的なデータが必要です。
ちなみに現在は道路の荒れや凹みの情報を収集するために、シルバー人材センターに委託して定期的なパトロールを行っています。ポットホールと呼ばれる路面の穴などを見つけて、その場で補修もするのですが、赤磐市の市道は約900km以上あり、一通り見回るのに約6週間かかります。しかし今回の実証実験によって、より迅速に対処できることがわかりました。
■実証実験から得られた道路の荒れ指標や工事の視える化、適切な調査による財源確保
――今回の実証実験はどのように行われたのでしょうか?福田氏(TMF):2019年7月から2021年3月までの実証実験では、赤磐市内を走行する一般のコネクティッドカーのデータを利用しました。今日では多くの乗用車にデータを収集する装置が取り付けられており、日々データが蓄積されています。そのデータをトヨタ自動車が分析して、赤磐市の道路の維持管理に有効な情報を提供することができました。既存の調査方法として、センサーを搭載した専用車両を走行させて路面の診断をする方法もありますが、費用が高く地方の自治体では予算の確保が難しいと伺っています。一方で、一般のコネクティッドカーのデータを活用すれば費用も抑えられ、自治体で活用しやすくなると考えています。
――実証実験で得られたデータは、実際に活用されたのですか?
行正氏:はい。実証実験のデータから「荒れ指標」という道路状況のデータを取得しました。ほとんど凹みなどがない「良」(緑色)から早急な補修が必要な「悪」(赤色)まで4つのレベルに色分けし、市内のどこから手を付けていけばよいのかが一目瞭然で判断できるようになりました。この色分けされたデータをもとに来年度以降の舗装修繕工事の候補を選定していきます。実際に舗装修繕工事をする前とした後の違いが、コネクティッドカーのデータからも見えてきました。修繕工事を完了した区間は荒れ指標が低くなっており、「工事の視える化」も実現できることがわかりました。この視える化で役所内の方向性がとれるようになったことは大きいと思います。
「方向性がとれるようになったことが大きい」を強調するのには、地方自治体ならではの事情があります。例えば道路の大規模な補修工事の場合は国から補助金が出る場合があります。しかし規模の小さな補修工事はなかなか補助金が下りず、その理由として正確で客観的な調査に欠けるというのがありました。しかし今回の実証実験のようにコネクティッドカーによる正確で客観的なデータに基づいた調査であれば、補助金が下りる可能性が高くなります。道もよくなるし、財源も確保できる。地方自治体にとって、コネクティッドカーによるデータ収集は非常に大きな意味があると思います。
福田氏:生活に必要な道路の安全確保のために補修したいのに、調査費用が高額で実態把握もできない。結果、荒れた状況でも補修できずその道路を使わざるを得ず、安全面で不安が残る。そんな悪循環が日本各地で起きている状況です。今回の赤磐市の実証実験のように、コネクティッドカーが収集しているデータを活用すれば、予算を抑えたうえで、客観的で正確な道路状況を把握できます。ぜひ他の自治体のご担当者様にも知っていただきたいと考えています。
■急ブレーキの回数から危険箇所を事前に察知、交通安全対策に活かす
――今回の実証実験では道路の荒れ指標だけでなく、交通安全対策にも活用できるデータが得られたと聞きました。福田氏:道路維持管理の課題として、交通安全も重視したいと実証実験に入る前に赤磐市から相談を受けました。これまでは事故が発生した後で交通危険箇所として認識され、対策が打たれていましたが、事故の発生前に危険箇所がわかれば事前に未然防止策を行うことができます。そこでコネクティッドカーから得られるデータを活用した交通安全対策支援を行いました。
まず市内の危険箇所を選定するために走行数における急ブレーキ数の割合から交通危険箇所を推定し、対策の優先度を決めました。一例を挙げると、あるT字路では見通しが悪く、また縁石を巻き込みやすい道路状況のため車は大回りになる傾向がありました。そのため対向車が危険を感じて急ブレーキを踏んでいる、危険な状況が確認できました。そこで外側線の移設やラバーポールの新設などの対策を行いました。
一般社団法人ヤマトグループ総合研究所と日本マイクロソフト株式会社にもご協力をいただき、宅配車両が走行するうえでの危険箇所をAIで抽出し、これらをマッピングしました。そうすることで、例えば交差点で子供が飛び出してきやすい場所など、市内の危険箇所の洗い出しが可能になります。この検証に活用した宅配車両の走行日数は8日分と短期間でしたが、赤磐市や交通安全の専門家の方々から長期間の検証を行えば対策が必要な箇所を特定できるので、体制を構築してほしいという声をいただきました。
一般財団法人トヨタ・モビリティ基金 ホームページ(岡山県赤磐市・車両データを活用した道路維持管理について)
https://toyotamobilityfoundation.jp/road-maintenance/
■費用を抑え、適切な調査データを得る。他の自治体でも応用できる赤磐市の実証実験
――今後も実証実験を継続すると伺いましたが、本年度はどのような内容を予定していますか?須波氏:道路の維持管理にデータを有効活用できることがわかりましたので、市の業務と組み合わせてコストを抑えたうえで、効率的な補修計画の立案やポットホール対処のリードタイムの短縮を進めていきたいと考えています。また、次は防災に活かしたいと考えています。令和2年度はコロナ禍のため行動や移動の制限が伴い、対面での打ち合わせが難しく思うように進められませんでした。しかし状況が幾分改善してきたので、次回の実証実験では防災にも重点を置きたいと考えています。
また、実証実験を進める中では、情報セキュリティの課題に直面することもあり、民間組織と公共が連携するうえでの課題も明らかになりました。しかしながら今後も赤磐市をこのような実証実験の舞台にしてもらって、住民サービスに役立つための新たな取り組みを一緒に作っていきたいと思います。
行正氏:今回のコネクティッドカーによるデータ収集と、それを活かした道路の維持管理や交通安全対策への活用という点では、私自身は満足のいく結果が得られたと感じています。あまりオーバースペック過ぎても意味がないと思っており、自治体の担当者が管理できる範疇で、実際に住民サービスに役立てていけるデータを、予算を抑えて収集できること。それが大事だと思います。
福田氏:赤磐市は道路の維持管理でシルバー人材を活用してポットホールを把握、対処するなど、これまでも費用をかけて積極的に動いている自治体です。一方で、広大な地域を支えているのに財源が確保できず、路面の状況把握ができていない厳しい環境にある自治体は少なくありません。そうした状況を改善し、道路を安全に快適に走行・歩行してもらえるように、TMFは実証実験を通じて自治体の道路維持管理の効率化、高度化につながるノウハウ、仕組みを検証して情報発信していきたいと考えています。
岡山県 赤磐市 ホームページ
https://www.city.akaiwa.lg.jp/index.html
一般財団法人トヨタ・モビリティ基金 ホームページ
https://toyotamobilityfoundation.jp/
当記事の掲載画像は、岡山県 赤磐市と一般財団法人トヨタ・モビリティ基金よりご提供。