特集

「安全運転教育とは人材育成」事故防止のヒントを探る

2021/9/7(火)

【特集:ドライブレコーダーの進化に迫る】

株式会社デンソーテン(以下、デンソーテン)は社有車などに向けて、通信型ドライブレコーダー「G500Lite」のサービスを提供している。クラウドサーバーと連携し、車載器から録画したヒヤリハット映像をAIが自動で抽出する機能などが特徴だ。

社有車が交通事故を起こすと、人的・物的な損害だけでなく、会社の信用失墜にもつながる。そのため、各企業はドライブレコーダーなどの機器を導入し、交通事故の防止・削減に努めている。

しかし、事故を減らすためにはただ「録画する」以外の行動も必要になる。導入した機器の多様な機能を会社のニーズに合わせて使いこなすことも重要だが、並行して社内の取り組み体制を整備することも同等に重要だ。

大阪ガスセキュリティサービス株式会社では、警備員の駆け付けサービスやガス導管の保守など、安全安心な暮らしを支えるサービスを提供しつつ、日々安全運転の徹底も欠かさない。同社の取り組みを紹介しながら、企業における安全運転意識の向上というテーマについて考えていきたい。

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【導入の目的・活用の方法】
・安全運転意識の向上
・社内教育資料への活用

■駆けつけ警備と安全運転、日々のコミュニケーションが重要

――まずは御社の事業内容について教えてください。

若松氏:弊社の事業内容は、セキュリティ・緊急通報・警備防災・ガス導管保全・賃貸マンション管理があります。さらにセキュリティ事業はホームセキュリティやマンションセキュリティ、事務所や店舗向けの業務用セキュリティなどに分かれており、通報に応じて現場へ向かう「駆けつけ警備」を行っています。

――多彩な事業展開ですね。若松さんと細野さんはどのような業務にあたっているのでしょうか?

若松氏:セキュリティサービス部のビートエンジニアチームに所属し、マネジャー代理を務めています。業務内容は全てのサービスステーション(待機所)の統括です。
※ビートエンジニア:機械警備隊員

社有車に乗り込むビートエンジニア

社有車に乗り込むビートエンジニア



細野氏:セキュリティサービス部は担当エリアを「ブロック」という区分で管理しています。私はそのうち、大阪市内を中心とした「大阪中央ブロック」のブロック長を担当し、主にトラブル対応など現場で起きた事象への対応を行っています。

――警備の仕事は緊急出動などがあって、日々の業務で安全運転に関する取り組みを継続するのは大変ではないですか?

若松氏:確かに「駆けつけ警備」は24時間365日体制で行うものです。交代勤務が前提になりますから、日々コミュニケーションを取ることが非常に重要になります。朝礼や点呼はもちろん、勤務の引き継ぎ時に現場のメンバーでドライブレコーダーの映像を振り返るなどしています。

細野氏:グループミーティングも定期的に行っており、ドライブレコーダーの映像を振り返りながらKY(危険予知)トレーニングなどをしています。また、毎月の末日に「安全の日」を設けていて、メンバー全員に改めて安全運転の注意喚起を行う機会にしています。

G500LiteはAIがヒヤリハット映像を抽出する機能(左)や、抽出したデータをもとに教育資料を作成するeラーニング機能(右)も搭載している。(資料提供:デンソーテン)

■コメンタリー運転も日々の業務で


――そのほかにも安全運転に関するトレーニングを行っているんですよね?

細野氏:警備の仕事は毎年「現任教育」を受けなければなりません。その中で必ず安全運転教育の時間を設け、部内で作成した資料を用いながら安全運転の指導をしています。
※現任教育:警備業者に義務付けられている法定教育のうち、現職の警備員を対象に行うもの。法改正などの知識習得や警備の技能向上を主な目的としている。(参考:一般社団法人 全国警備業協会)

――全社員向けのマニュアルではなく、部署ごとに教育資料を作っているんですか?

細野氏:もちろん本社が作った安全運転教育資料もあります。ただ、われわれが所属するセキュリティサービス部は隊員の数が多いですし、緊急出動を行う業務特性上、本社の安全推進とは別に資料を作って教育しています。

インタビューに答える細野氏(左)と若松氏(右)

インタビューに答える細野氏(左)と若松氏(右)



――それほど徹底して安全運転教育をしているとは驚きです。さらに現場ではコメンタリー運転も行っていると聞きました。
※コメンタリー運転:見たもの、確認したものを発声しながら運転操作を行うこと。コメンタリードライブとも言う。

若松氏:はい、日々の運転業務の中で実践しています。加えて、日本自動車連盟(JAF)の「交通安全3分トレーニング」を社内教育に活用しており、「どこでコメンタリーすべきなのか」「どこに危険が潜んでいるのか」も合わせて考えるように徹底しています。

――物流や公共交通関係ではない企業で、ここまで取り組んでいる事例は非常に珍しいのではないかと思います。会社全体で昔から安全運転には注力してきたんでしょうか?

若松氏:コメンタリー運転については、5年ほど前の社内資料には出てきますから、少なくともその時期には取り組み始めていました。

細野氏:実は、過去に社内で重大な人身事故が起きてしまったんです。先ほど述べた「安全の日」はそのときの教訓を風化させないように設けたものです。悲惨な事故を二度と起こさないように、さらに安全運転に関する取り組みを徹底するようになりました。

■簡単に公道へは出られない?ハイレベルな社内研修



――社員ごとの運転技能はどうしてもバラつきがあると思います。例えば、新人への教育などはどうしているのですか?

若松氏:まずDaigasグループ(旧・大阪ガスグループ)で業務車両を運転する場合は、グループ企業の大阪ガスオートサービスが行う、2日間の運転研修に合格する必要があります。何度も不合格になる人がいるほどの厳しい試験で、みんな真剣に取り組んでいます。

細野氏:さらにその研修に合格した後は、アドバイザーが添乗して社内で改めて検定を行います。それに合格して初めて、業務車両を運転できるようになります。また、アドバイザーになるには別途認定試験に合格しないといけません。

――会社の看板を背負って運転するために、非常に高い基準を設けているんですね。

■安全運転教育は人材育成

(資料提供:デンソーテン)

――ドライブレコーダーを運用していると、急ブレーキを踏めばそれを検知してアラート(通知)が鳴りますよね。そのような場合、G500Liteはすぐに管理者に通知が届く仕様になっていますが、この機能は有用でしょうか?

若松氏:これまでは映像を録画したSDカードを、車内のレコーダーから回収する必要があったのですが、リアルタイムで通知が来るようになって良かったなと思います。

細野氏:急ブレーキが発生するとすぐ通知が飛んでくるので、現場からの報告を待たずに映像を確認できます。万が一事故が発生しても、スピーディに対応できるのが良いですね。
※クラウドサーバーへの映像送信、管理者へのメール通知のほか、G500Lite本体に挿入されたSDカードから映像を読み込むことは現在も可能。

――事故に至らないものの、やむを得ず急ブレーキが発生してしまう場合も多いと思います。そのようなケースでは、どう指導しているのでしょうか?

細野氏:急ブレーキが発生してしまっても、コメンタリー運転を実施できていて、危険予知もしっかりできているような場合は、むしろ良い事例として共有する場合もありますね。

――事故やヒヤリハットの運転データではなく、御社のように「良い事例」を選別して安全運転教育に活用するのは興味深いですね。

細野氏:実際、アラートが出ること自体は悪くないと思っていて、現場のメンバーにもアラートの有無を重要視しないと伝えています。重要なのは、アラートが鳴った事実よりもその内容です。ですので、ドライブレコーダーから収集したアラート情報を1件ずつ丁寧にチェックしています。

――高いレベルの安全運転を実現できているのは、客観的に状況を把握できる映像を用いつつ、親身な対話や指導を行う環境があるからなんですね。

細野氏:まずは現場のメンバーや管理者が意識を高く持つことが大事だと思います。上司だけではなくて、近い先輩が後輩をきっちり教育できる組織は強いと考えていて、安全運転に関してもそこまで落とし込むのが目標ですね。

若松氏:結局、安全運転の指導は人材育成と同じで、指導する側が相手に関心を持つかどうかがとても大事です。社員の運転に対して、正面からしっかり関われるような上司や同僚、そういう存在が必要なんだろうと思います。「危ないやないか!」と叱るだけではダメで、「何でこういう運転になってしまったんや?」と親身に聞き出してあげることが大事ですね。



――そういう存在が身近にいると頼もしいですね。

細野氏:常々「早く着くより、無事に着く」ことを心掛けるように指導しています。慌てていいことなんて何もありませんから。

若松氏:特に駆けつけ警備は通報から25分以内に現場へ到着しないといけません。焦る気持ちは理解できますが、そこをいかに抑えるかがとても重要です。

細野氏:例えば交通事故や違反を起こして現場への到着が遅れる事態を考えたら、安全第一で運転するべきです。われわれの仕事はとにかく無事に現場に着いてから始まりますから。「とにかく無事に現場に着いて、無事に会社に帰ってきなさい」と、新人・ベテラン問わず言い続けています。

【取材後記】
営業活動の移動手段として社有車を運用する企業で、コメンタリー運転や定期的なKYトレーニングまで行っているところはそう多くないはずだ。しかし、安全運転教育を人材育成としてとらえる姿勢は多くの企業にとっても参考になる考え方ではないだろうか。交通事故の防止という大きな課題に取り組むのであれば、まずは現場で親身な指導環境を作ることが結果的に近道となるのかもしれない。

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