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拡大する「働くクルマ」の役割 視覚を助けるインターフェースとしての可能性

2022/6/21(火)

【特集:ドライブレコーダーの進化に迫る】

CASEやMaaSといったキーワードに代表されるように、クルマに求められる役割は多様化し続けている。そんな中、今後「働くクルマ」の世界はどのように変わっていくだろうか?そして、ドライブレコーダーをはじめとした車載デバイスの進化は?

早稲田大学大学院 経営管理研究科で教授を務め、経営学を専門に活躍する入山章栄氏に話を伺った。

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■「働くクルマ」はどう進化していくのか?

――近年、CASE関連の技術が発展し、MaaSの導入も進み移動のあり方が徐々に変わってきました。そうした潮流を背景に、クルマに求められる役割も多様化している状況です。商用車などの「働くクルマ」に注目すると、入山さんは今後どのような流れで進化していくと考えていますか?

入山氏:一つの大きなポイントは、自動運転の導入による無人化です。実際、地方ではバスやタクシーの運転手が高齢化して人手不足が深刻な状況で、路線廃止や廃業にまで追い込まれたケースもあります。苦しい地方交通の問題を解決するために、すでに一部の地域では自動運転バスが導入されており、今後この流れは間違いなく加速するでしょう。

早稲田大学大学院 経営管理研究科 教授 入山章栄氏

早稲田大学大学院 経営管理研究科 教授 入山章栄氏


――バスやタクシー以外の「働くクルマ」についてはいかがでしょう?

入山氏:今述べた無人化については、限られたエリアだからこそ導入しやすい面があります。トラックや高速バスにそのまま当てはめられるかといえば、そう簡単ではありません。これらの領域では、自動運転による効率化というよりも、ドライバーの負担軽減が当面の大きな課題になると思います。

――そうした課題に対して、どのようなポイントが重要だと思いますか?

入山氏:いずれの場合にも言えることですが、いかにデータを上手く活用できるかが重要です。その意味では「ドライブレコーダーはデータの塊」だと言えるので、収集したデータの事故防止などへの活用は必要な取り組みだと思います。まして、完全自動運転が実現するのはしばらく先の話で、当面は人の手で運転する必要がありますから。

――事故防止以外への活用についてはいかがでしょうか?

入山氏:今までの「働くクルマ」は、人や物を運ぶ役割を果たすことに重点が置かれてきました。それを「定期的に同じ場所を動く物体」として捉えなおすと、違った価値が生まれる可能性があります。すでに一部で取り組みが始まっていますが、例えばバスやタクシーなどに搭載したカメラを街やインフラに向けて、走行しながら道路の劣化状況を点検したり、地図を更新したりといった活用が進めば、「働くクルマ」に新しい価値が生まれると思います。

■クルマは「究極のパーソナル空間」

――いわゆる営業車を広義の「働くクルマ」として考えた場合、同じことが言えるでしょうか?

入山氏:可能な限り早く自動運転を実現すべきという点は共通しています。ただ、先に述べた「働くクルマ」とは少し意味が違っていて、営業車の場合は「移動時間の無駄をなくす」ことが大切だと思います。

――「移動時間の無駄」ですか?

入山氏:私自身、都内で移動するときは電車よりもタクシーを選んで、車内で仕事をすることが多いんですよ。個人差はあると思いますが、クルマの中は誰にも邪魔されない「究極のパーソナル空間」ですから、とても仕事がはかどります。

デジタル化が進んだ現在、一番有効で限りのある資源はやはり「時間」ですから、今後は移動時間に車内の空間をどう活用するのかが重要なポイントになるでしょう。車内で仕事をしたり会議をしたり、そういう活用がどんどん広がるだろうと考えています。

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――車内空間の活用について、仕事以外にもあれば教えてください。

入山氏:車内でリラックスして過ごせるようにして、仮眠スペースにする活用もあり得ます。今まで出張先にホテルで前泊していたようなケースでも、完全自動運転の世界では眠っている間に移動してもらうことも可能です。その意味で言えば、将来クルマは「ビジネスホテルの対抗馬」にもなり得るのではないでしょうか。

ちなみに、企業の役員と大事な相談をする際、ホテルの一室を指定されることも多々あります。ホテルの一室が重要な話し合いの場に選ばれるのは、オフィスや会議室とは違って、誰にも見られない、聞かれない空間だからです。先ほど述べたように「究極のパーソナル空間」という要素はクルマにも備わっているので、そういう意味でも今後ホテルに代わる存在になり得ると考えています。

これからは不動産ではなく、移動可能な「動産」の時代になると思います。移動するクルマの上にどんなサービスやビジネスを載せるのか考えると、いろいろな可能性が広がっていくでしょう。

■人とクルマの間で、求められる機能とは?

――それでは、今後ドライブレコーダーを含めたHMIにはどんな機能が求められるでしょうか?
※HMI:Human Machine Interfaceの略。人と機械がやりとりするための装置・ソフトなどの総称。
入山氏:ドライバーの表情をデジタル解析する技術が今後進むと思います。冒頭で「ドライバーの負担軽減が重要」だと話しましたが、長時間運転するドライバーの疲労をあらかじめ検知することができれば事故防止にもつながります。カメラから取得した画像をAIが解析して、「疲れているようなので、一度休憩してください」といったアラートを出すとか、そういう機能があればドライバーはうれしいでしょう。

――他のデバイスやシステムとの連携という面では、最近はヘッドアップディスプレイも進化していますし、スマートスピーカーのように応答が可能なAIが車内に搭載される例もあります。

入山氏:ヘッドアップディスプレイで大切なのは、「ドライバーの視線を不必要に動かさない」という点だと思います。また、会話できるAIが進化して、「このエリアは事故多発地点なので、注意して運転してください」のようなアナウンスがされると、ドライバーはありがたいでしょう。ドライバーの聴覚に働きかけて、視覚の負担を減らすことは有用だと思います。

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――「聴覚で視覚を助ける」という論点は興味深いですね。

入山氏:Web会議などのオンラインコミュニケーションが普及し、さらにメタバースのような新たな世界も生まれました。そうやってデジタル化が進めば、人間の五感を強く意識することが重要になると思います。デジタルの世界では、主に視覚と聴覚で情報をとらえます。ですから、まちづくりの文脈においては、「デジタルで再現できない味覚や嗅覚を大事にしよう」という話をよくするんです。

――クルマにおける五感の重要性についてはいかがでしょうか?

入山氏:クルマの進化にこの五感の話を当てはめると、完全自動運転の世界ではこれまで挙げたような車内空間の活用のように、いろいろな五感へのアプローチが考えられると思います。一方、そうなる前の世界では、やはり視覚の負担を減らして、よそ見をさせないとか、居眠りをさせないという工夫が大切になると思います。

ヘッドアップディスプレイや会話型のAIを活用して、場合によっては「眠気を感じたらリフレッシュする香りを出す」のように嗅覚に働きかけ、五感を最大限使って運転中の視覚をサポートしてあげることが、人の手で運転するときは大切だと思います。



【取材後記】
将来、自動運転社会が訪れれば、車室空間の活用方法は確実に多様化する。「不動産から『動産』へ」とは入山氏の言葉だが、自動運転社会でクルマがさまざまなサービスを載せて運ぶ姿を想像すると、大きな可能性を感じずにはいられない。他方、人とクルマの間にあるHMIについて伺うと、「五感の重要性」へと話が広がった点も示唆に富んでいる。ドライブレコーダーをはじめとした車載デバイスはどのような進化を遂げるべきか、ここにヒントがあるのかもしれない。

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