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JMS2023│「ジャパンモビリティショー2023」で感じたモビリティ業界の現在地と展望【寄稿】

2023/11/17(金)

東京モーターショーから名称を変え、4年ぶりの開催となったJAPAN MOBILITY SHOW 2023(以下、JMS)。名称変更にある通り、「自動車業界」から「モビリティ業界」への変貌を体感できるイベントとなっていた。特に、各自動車メーカーは電気自動車(以下、EV)のコンセプトカーを数多く展示しており、「EVシフト」の潮流を感じ取ることができる。

今回は、EVをテーマに筆者がJMSを視察した感想や今後のモビリティ業界の展望について、考察する。

■エンジン車からEVへの明確なシフト

10月26日から11月5日まで開催されていたJMSは、「日本の未来を新しい仲間と一緒に創っていくショー」をコンセプトにしている通り、自動車業界の枠を超えて、さまざまな産業やスタートアップ企業が参加していた。

各自動車メーカーでは、EVや「自動運転」など新しい技術開発が進んでおり、その技術を象徴するコンセプトカーが多数展示されていた。また、スタートアップエリアでは、独自性の高い製品やサービスが数多く展示されており、モビリティ業界へ新たに参入している企業が増えていることを鮮明に感じ取れる。

多くのブースを視察する中で、筆者が特に感じたことは、「エンジン車からEVへのシフト」が確実に進んでおり、各社がEVの普及に向けた取り組みを強化しているということだ。

1.バッテリー技術の革新
各自動車メーカーがEVを展示している中、2010年に発売された「リーフ」をはじめ、日本のEVを牽引してきた日産自動車では、全個体電池を搭載したコンセプトカーを展示。

全固体電池は、従来の液体リチウムイオン電池に比べてエネルギー密度が高いため、EVの航続距離が向上し、充電時間も短縮できる。また、小型化が可能となるため、車高を抑えることができ、重心を低くして高い走行性能を発揮できる。

EVの性能を最も左右する車両部品がバッテリーであり、このバッテリー技術の進化を実感することができた。バッテリーの技術革新によって、ユーザビリティが向上し、EVに乗るユーザーが増えていくことを期待したい。

「ニッサン ハイパーツアラー」</br>(全個体電池を搭載)

「ニッサン ハイパーツアラー」
(全個体電池を搭載)



2.「バッテリー交換」という選択肢の広がり
現在流通しているEVの多くは、外部電源からバッテリーに充電する仕様のため、ユーザーにとっては充電待機時間が発生してしまう課題がある。前述の通り、充電待機時間を軽減するためにバッテリー技術の革新が進んでいる一方で、バッテリーを「充電」するのではなく、「交換」するという選択肢が広がっている。

本田技研工業では、着脱式リチウムイオンバッテリー「モバイルパワーパック e:(イー)」を搭載するさまざまなモビリティを展示。充電済みのバッテリーと交換することで、充電時間を待つことなく、連続して走行・稼働することが可能となる。

「MEV-VAN コンセプト」</br>床下に合計8個の「モバイルパワーパック e:」を搭載

「MEV-VAN コンセプト」
床下に合計8個の「モバイルパワーパック e:」を搭載



着脱式バッテリーを搭載したモビリティは、充電時間を大幅に短縮できることから、配達の効率性が求められる運送事業者との親和性が高い。

三菱ふそうのブースでは、北米スタートアップ企業「Ample」と共同実証を行っているバッテリー交換式EVトラック「eキャンター」を展示。Ampleのモジュールを装着したeキャンターがバッテリー交換ステーションに入庫すると、バッテリーを5分程度で自動的に交換する仕組みを実現しており、JMSでは交換のデモンストレーションを見学することができた。

この仕組みが普及することによって、運送事業者が使う車両の脱炭素化が進むだろう。

「eキャンター」</br>(「Ample社とバッテリー交換技術の共同実証を行う)

「eキャンター」
(Ample社とバッテリー交換技術の共同実証を行う)



EVユーザーが増えない大きな要因となっている「充電問題」。さまざまな企業や個人ユーザーに適したEV・充電方法が広がっている。

充電時間や充電施設の設置など「充電」がEV購入の障壁となっている</br>(出典:J.D.パワー 2022年車のエンジンタイプやEV購入意向調査)

充電時間や充電施設の設置など「充電」がEV購入の障壁となっている
(出典:J.D.パワー 2022年車のエンジンタイプやEV購入意向調査)



■モビリティ業界の課題と展望

今回挙げた例は、ほんの一部に過ぎないが、各社が技術を凝らしながらEVの普及に努めており、
持続可能な社会の実現に向けて重要な「自動車の電動化」は確実に進んでいる。

しかし、本格的にEVが普及していくうえでは、解決しなければならない課題が山積している。

・高い車両価格
・充電インフラの整備
・EVなど新たな技術に対応した車両点検設備の拡充
・車両点検の担い手不足
・二次流通(中古車)市場の構築

これらの課題を解決することは個々の企業努力のみでは対応することができず、政府、企業、消費者などが協力して取り組む必要がある。
日本におけるEVの普及は、「競争」ではなく、「共創」が必要だと考える。

その一方、日本に比べてEVシフトが進んでいる国では、「自動車の脱炭素化における最適解はEVなのか。」という見方も生まれている。

EUではエンジン車の新車販売を2035年から禁止するとして、EVシフトを世界に先駆けて進めてきていたが、「合成燃料」の使用を条件に販売継続を認めた方針転換があり、モビリティ業界の動向がさらに混沌としている状況だ。

・充電式EV、それに伴う充電インフラを整備していくのか。
・多様なモビリティに使えるバッテリー交換型EVが普及していくのか。
・脱炭素化に資する新たなエネルギーの活用が市場を席巻していくのか。

いまだ答えのないモビリティ業界の変革。あらゆる産業、あらゆるプレイヤーがこれからも多くの革新的な技術やサービスを開発し、事業展開を進めるだろう。筆者はモビリティ業界の動向に今後も注目していきたい。

文:匿名を条件に、プロの立場から見たジャパンモビリティショーについて寄稿いただいた。
※当記事の掲載画像は、全て寄稿者の提供

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