JR東日本、2034年の経営構想 「モビリティ×生活」で売上高4兆円超へ
2025/7/11(金)
JR東日本は2034年度に向けて「モビリティとソリューションの二軸による経営」を推進する。7月1日、グループ経営ビジョン「勇翔 2034」を発表した。事業化を進める「空飛ぶクルマ」など複数のモビリティがつながる技術革新を進め、Suicaを「生活のデバイスに進化させ、『Suica生活圏』を構築する」といったシナジー創出を図る。連結の売上高(営業収益)目標を2031年度は2024年度の約1.4倍に当たる4兆円超と明示し、2034年度5兆円に向けて長期的な企業価値の拡大を追求する。
■「勇翔 2034」:二軸経営の狙いと、「LX」とは?
JR東日本は「勇翔 2034」において、モビリティと生活ソリューションを二軸とする新たな事業構造を打ち出した。この二軸経営は、従来の経営ビジョン「変革 2027」でのポートフォリオ「運輸:非運輸」とは異なり、「ヒト起点のマーケットイン」を事業活動の出発点にすることで、潜在的なニーズや社会課題を捉え、新たな価値創造につなげていく考え方だ。「モビリティ軸」では、鉄道サービスの向上はもちろん、自動運転やAIとロボットを活用した運行・設備管理、MaaS、地域交通のリ・デザインなど、移動の価値を再定義するとともに次世代モビリティの社会実装、地域モビリティの再編に挑戦する。
「生活ソリューション軸」では、駅とまちが一体となったまちづくり、Suicaの生活デバイス化、デジタルプラットフォーム、地域活性化、地域医療との連携など、暮らしの質を高めていく。
これら二つの軸を融合・連携させ、モビリティと生活が相互補完的に機能することでシナジーを生み出し、持続的な利益成長の実現を見据える。例えば、新幹線や特急列車を利用して荷物を輸送するサービス「はこビュン」による地域経済の振興、物流業界の人手不足問題といった社会課題解決への貢献などが象徴的な取り組みの一部である。
二軸経営により創造する価値として、移動や生活の枠を超えて暮らしそのものを再構築する「ライフスタイル・トランスフォーメーション(LX)」を提唱している。また、価値創造のフィールドは、都市・地方・世界に宇宙も加え、さらに拡大する。
- 「モビリティの技術革新」例
- 「変革 2027」と「勇翔 2034」基本方針
「勇翔 2034」で推進する取り組みは下記の通り。
▼モビリティのイノベーション
業務革新として、宇宙からの衛星情報を活用したチケッティングサービス、列車制御、施設管理を考案している。さらに、「新えきねっと」や販売窓口のAI化、Suicaの進化などによる「お待たせしない駅空間づくり」や、鉄道とバス・航空機・ライドシェア・バイクシェア・空のモビリティといった多様な交通手段をつなぐMaaSの構築も行う。▼鉄道と融合したまちづくり(J-TOD)の展開
鉄道を核とした都市開発を手がけ、モビリティと生活ソリューションによるシナジーを創出する。加えて、「ご当地Suica(仮称)」や環境・物流・二次交通といった地域課題へのソリューションの提供など、鉄道ネットワーク型まちづくり(J-TOD※)を展開し、東南アジア・南アジアでの新たなまちづくりにも参画していく。※ J-TOD=JR East-Transit Oriented Development(JR東日本型の公共交通指向型都市開発)プレスリリースより
▼Suica Renaissance構想:交通系ICから生活必需のデバイスへ
Suicaの「2万円上限・事前チャージ・タッチが必要という常識」を超える構想として「Suica Renaissance」を掲げている。これは、Suicaを単なる交通系ICカードから「生活のデバイス」へと進化させ、移動と販売をつなげたビジネスモデルの構築やモビリティと生活ソリューションのサービスを一体化したサブスクリプション型商品の開発など、新たなビジネス機会を創出するものである。SuicaタッチデータのOMOマーケティング活用実証もSuica Renaissanceの一環といえる。加えて、GPSや人工衛星など通信手段によるエリア全体でのウォークスルー改札も導入を進める。このように、Suicaをあらゆるビジネスの基盤として進化させ、統一されたIDと合わせて「Suica生活圏」を整備していく。
■2031年度の業績目標と成長シナリオ
業績面では、KGI(Key Goal Indicator:長期的な経営目標)として、2031年度にROE(Return on Equity:自己資本当期純利益率)10%以上、売上高(営業収益)4兆円超を設定し、2034年度5兆円を目指す。軸別の目標では、営業利益と減価償却費を合計したEBITDAで、モビリティは2031年度に2025年度予想比で約25%増、生活ソリューション8割増となる各6000億円程度を見込む。これらの業績目標達成に向け、既存事業の着実な成長に加え、M&A実現や新規事業創出を通じて、収益構造の強化と“稼ぐ力”の早期向上を促すとともに、従来の延長線上にない非連続な成長を実現するとしている。▼キャッシュ・アロケーション戦略
各ビジネスの利益成長による営業キャッシュ・フローの拡大に加え、不動産販売の規模拡大や政策保有株式の縮減によるアセットマネジメントを組み合わせ、キャッシュインを最大化する。獲得したキャッシュは、成長資金および基盤維持・強化資金に重点的に充てつつ、革新的なイノベーションを促進する「LX資金」にも振り向ける方針を示している。株主還元については、成長投資とのバランスを勘案しながら、2027年度に向けて配当性向を段階的に40%まで引き上げる。あわせて、柔軟に自己株式取得を実施する予定となっている。
(図表の出典はJR東日本Webサイトより)