「MaaSメガトレンド」とこれからの“日本版MaaS”の在り方とは?【寄稿:リブ・コンサルティング】
2022/2/17(木)
ポストコロナを見据えたモビリティサービスの実装が進む中、大きな潮流として、移動の「エンタメ化、サブスク化、シームレス化、脱炭素化」という4つのメガトレンドが生まれている。
業界の枠を超えたプレイヤーがモビリティサービスへの参入を進める中、4つのメガトレンドから現在の社会的ニーズを抑えた上で、MaaSの事業開発に取り組む必用があるのではないか。
またその一方で、ポストコロナを見据えた事業化の動きが加速する中、“日本版MaaS”の課題も浮き彫りになってきている。欧州などのMaaS先進国とは異なるビジネスルールや歴史的背景を紐解きながら、事業化に向けたポイントや活動の方向性を改めて整理していく。
業界の枠を超えたプレイヤーがモビリティサービスへの参入を進める中、4つのメガトレンドから現在の社会的ニーズを抑えた上で、MaaSの事業開発に取り組む必用があるのではないか。
またその一方で、ポストコロナを見据えた事業化の動きが加速する中、“日本版MaaS”の課題も浮き彫りになってきている。欧州などのMaaS先進国とは異なるビジネスルールや歴史的背景を紐解きながら、事業化に向けたポイントや活動の方向性を改めて整理していく。
■ポストコロナにおけるMaaSメガトレンド
そもそも“MaaS”の起源は2014年頃のフィンランド・ヘルシンキにある。同国にあるMaaS Global社のサンポ・ヒータネンCEOが提唱して以降、各交通モードの経路検索から予約、決済まで一気通貫でサービスとして提供するMaaSというビジネスが生まれ、産業の変革が起こり始めた。そして昨年、脱炭素の流れが世界共通のアジェンダとなる中、改めてMaaSの価値の見直しが始まり、その中から4つのメガトレンドが生まれてきている。
各カテゴリーにはそれぞれ注目すべきユースケースが存在するが、その中でも“移動のサブスク化”を実現したWILLER社のエリア定額乗り放題サービスmobiは2つの意味において今後のMaaS事業のフラッグシップとなり得る事例である。
1.“マイカーユーザー”が顧客ターゲットであること
エリア定額乗り放題サービスのmobiは2022年2月現在、国内3か所でサービスローンチ済みであり、今後、KDDIと共同で現在のサービスモデルを各地域へ横展開する予定である。
mobiは、従来のオンデマンド交通サービスとはターゲットが異なる点がユニークなポイントである。
これまでのオンデマンド交通サービスの多くはマイカーでの移動が出来ない高齢者や要介護者など、所謂、移動弱者向けの交通サービスである事が一般的であり、社会貢献的な文脈はあるものの市場ボリュームの問題で、事業としての採算性に難があった。
その一方、地方エリアでは大人1人につき1台の車を所有するということも珍しい状況ではなく、結果、自家用車の維持に多額のコストが発生している。実際の自家用車の稼働率は低くとも、どこに行くにもマイカーが必用な地方エリアにおいては、複数台のマイカーを所有している世帯が多い。
そこに目を付けたWILLER社は、エリア定額乗り放題サービスとして利便性を上げ、「2台目、3台目のマイカーを手放す生活」を現実的な選択オプションとして提供している事が従来のサービスとは大きく異なる。つまり、これまでのオンデマンド交通サービスとはターゲットを変える事より、新たな需要を生み出している。
2.半径約2kmという小さなエリアでの移動サービス
mobiは半径2キロのという狭いエリアでのワンマイル移動サービスであるが、こうした近距離移動の需要が大きくなってきている事も1つのポイントである。
背景には新型コロナの拡大により自宅周辺で過ごす時間が増えた、という背景があるが、現在、世界的に広がっている「20-minute neighborhood」という新たな街づくりのコンセプトもmobiのような近距離移動サービスを増やす要因になっているのではないか。
「20-minute neighborhood」とは、徒歩、自転車、公共交通機関等で、自宅から20分以内で日常生活の大半のニーズを満たせるようにする、“地域に密着した生活”を実現させるというコンセプトであり、パリやメルボルン、シンガポールなどの都市で実現に向けた構想が進んでいる。
その実現のためには当然ながら公共交通サービスの拡充は必須であり、mobiような近距離移動かつオンデマンド形式のモビリティサービスとの親和性は高い。「20-minute neighborhood」はこれからの街づくり文脈においての1つのメガトレンドであり、つまりはポストコロナ後も、小さな商圏内での移動需要は存在し続けるものと考える。
■“日本版MaaS”の課題
mobiのサービスは既存の公共交通サービスに風穴を開けるディスラプターとしてユニークな事例だが、今後もmobiと同じく既存の業界の秩序やビジネスモデルを破壊するサービスが続くかは懐疑的である。それは日本の“白タク禁止”のような法規制の縛りの問題もあるが、根本的には日本の自動車産業、或いは公共交通の歴史に起因する所が大きいと考える。
1つ目の理由としては、そもそも日本の基幹産業として自動車産業が位置付けられている、という事が大きい。全就業人口の約9%が自動車産業で働いている状況の中で、公共共通へのモーダルシフトを促すMaaSに一気に舵を切る政策は現実的ではなく、段階的な移行に成らざるを得ない。
もちろん、国交省や経産省を中心として、各地域でのMaaSの推進活動は実施しているものの、同時に国内での自動車販売需要をどう守るのか?という表裏一体の政策に成らざる得ない状況が欧州とは異なる背景である。
そして、2つ目の理由としては、国内の公共交通サービスは民間主導で形成されており、他国のそれとは異なる。海外では鉄道やバスなどの公共交通機関は国営である事が一般的であり、その分、中央集権的に路線や運賃の見直し、データ基盤の統合などが可能である。
日本においては各社がそれぞれの形式で各種データを保有しており、各種の交通モードを統合するMaaSにおいては、まずはデータフォーマットを整える所からのスタートであり、発生コストに対してリターンが小さい現在の状況では、MaaSを推進するモチベーションが上がり難い状況が続いている。
これらの背景を理解した上で、どのように“日本版MaaS”に向き合うかが、業界構造を変えていく次のMaaSを生み出す事に繋がるのではないか。
そのための1つのキーになるのは結局の所、「業種や立場の壁を越えた仲間をどう増やしていくのか?」という事に尽きるはず。
ここでの“仲間”という表現は単純なアライアンス関係や業務提携だけではなく、同じビジョンや目的を持った共同体をどのように形成するのか?という事である。ここ数年でのMaaS界隈の動きを見ていても、単純に大きな資本が結びついただけでは物事は進まず、ユーザーも含めた各ステークホルダーが共感できる共通のビジョンや明確な目的、つまりは錦の御旗をどう立てるか?が重要になってきている。
昨年開催されたICC(https://industry-co-creation.com/)でも“ソーシャルグッド”というキーワードが多方面から聞こえてきたが、このようにビジョンや目的に共感する所に、次の経済圏が生まれる時流は来ていると感じる。
業種や立場の壁を越え、ステークホルダー全員が共感できるコンセプトをどこに置くのか。
モビリティサービスの開発では長く、他社での取り組みをベンチマークする「事例消費の文化」が続いていたが、今では、共通の目的やビジョンに共感した仲間が次のビジネスを生み出す「コンセプト消費の文化」にシフトチェンジしてきているのが、現在のモビリティサービス開発の特徴の1つと考える。
■これからのMaaSはどこに向かうのか?
冒頭にも述べたがMaaSは2014年の誕生から多くの注目を浴び、その一方で寄せられる期待値とは裏腹にビジネスとしてそこまでのスケールはせず、その市場は冷え込んでいった。その中で昨年より始まった脱炭素化の潮流により、改めて各国でのMaaSの取り組みが加速し始めている。これからのMaaSはどこに向かうのか?を考えるヒントは、そもそものMaaSのレベル定義にある。
現状の定義では、MaaSレベル4が最終到着地となっており、各種交通モードの統合/パッケージ化を超え、国や自治体、事業者らが都市計画や政策レベルで交通の在り方について協調していく段階を目指している。
この視点で考えると、そもそもMaaSという言葉自体、近い将来は消え去るものではないかと考える。
既にSociety5.0を踏まえたデジタル空間・フィジカル空間の両面での検討が始まっている国内においても、MaaSは今後、都市OSの中に組み込まれる1パーツの存在になるはず。
つまりは移動手段としてのモビリティはそもそも公共インフラである以上、都市OSの機能の1つとなり、それとは別にレジャーやアクティビティの一環としてのモビリティサービスは高付加価値なものとしての別の進化を遂げていくのではないか。
現状では地域の移動課題や世界的な脱炭素化という課題への対抗策としてのモーダルシフトを促す文脈でMaaSを述べられるケースが多いが、今後はより、街づくりの一環としてMaaS捉えるべきである。
このような考え方に基づくと“日本版MaaSの課題”で取り上げた仲間づくりも、更に広い領域、つまりは“モビリティだけではなく街づくり”、“リアルなフィジカル空間だけではくデジタル空間”を創るプレイヤーも巻き込みながら、これからの都市OSフォーマットを検討すべきではないか。
2022年現在において、MaaSという言葉の消費期限おそらく後3年。
日本でも2025年の大阪・関西万博を1つのターゲットとして、各エリアにおける都市OSの取り組みは進んでおり、業界の壁を越えた仲間づくり、そしてそこから生み出される次代のコンセプト、街づくりのフォーマットの検討は既に始まっている。
なお、「市場調査/各種リサーチ」と「新規事業開発サポート」、「オンデマンド交通導入サポート」サービス詳細の資料はリブ・コンサルティングのWebサイトからダウンロードが可能(指定フォームへの情報入力が必要)。
「市場調査/各種リサーチ」サービス紹介資料
https://www.libcon.co.jp/abc/download/detail_63/
「新規事業開発サポート」サービス詳細資料
https://www.libcon.co.jp/abc/download/detail_64/
「オンデマンド交通導入サポート」サービス詳細資料
https://www.libcon.co.jp/abc/download/detail_65/
文:西口 恒一郎(株式会社リブ・コンサルティング モビリティインダストリーグループ ディレクター)
2015年、リブ・コンサルティングへ入社。自動車メーカー、公共交通事業者、自治体を対象に、中期経営計画の策定、新規事業開発、M&A/PMIなどのテーマを担当。現在は、MaaS事業開発、地域モビリティサービスの展開など持続可能なモビリティ社会の実現に向け活動中。2020年より、三重県伊勢湾熊野灘 広域連携スーパーシティ推進協議会のメンバーとして、交通空白地の移動題解決に向けたモビリティサービス開発を担当