地方では、少子高齢化の進行や都市部への人口集中などに伴い公共交通機関が縮小するなど、地域ごとの公共交通サービスの格差が進行している。また、ドライバーの人材不足も大きな課題だ。

こうした背景から、前橋市では持続的な公共交通インフラの供給に向けて、2022年に自動運転バスを社会実装するための取り組みを推進している。今回は、その一環として自動運転バスの実用化に向けた実証を行う。得られた成果やノウハウを活かして、社会実装を目指す方針だ。

実証では、群馬県前橋駅から中央前橋駅までの区間(約1km)で、5G技術の高速・大容量・低遅延のメリットを活かし、自動運転遠隔管制や路車間通信を実現するソリューションの技術検証を行う。限定した地域での自動運転レベル4(完全自律型自動運転)を想定し、日本中央バス株式会社が通常運行する一部のバスを対象に、利用者を乗せて実証を行う。

また、完全自動運転を行うが、ドライバーが乗車した状態で走行し、緊急時にはドライバーの判断で手動運転に切り替えることで安全性を担保する。加えて、走行中の安全確認のため、群馬大学研究・産学連携推進機構次世代モビリティ社会実装研究センター(以下、CRANTS)の遠隔管制室から遠隔監視を行う。

■技術検証されるソリューション

(1) 5G対応型遠隔管制室情報集約ソリューション(車両ー遠隔管制室間)

5G技術の利用により、遠隔管制室へ高速・大容量のデータ転送ができるため、車両カメラの映像も大容量で高画質のまま転送可能。従来の4G/LTE通信では車両から遠隔管制室に送信できる速度や容量に制限があり、車両カメラで撮影した対向車や周辺の交通状況の高精細映像を伝送するのは困難だったが、情報密度が向上してより高画質なまま伝送でき、遠隔監視室からの遠隔監視・操作者の安全確認業務を支援する。

(2) 5G対応型遠隔管制室情報集約ソリューション(路側ー遠隔管制室間)

5G技術を利用して路側に設置したカメラやセンサ情報を収集することで、死角の映像情報を遠隔管制室へ高速・大容量でデータ転送が可能だ。従来の手法では、車両カメラから死角となる道路や、歩行者や自動車で混雑するバスターミナル内などは遠隔管制室から見えず、周辺状況の確認に時間が掛かっていたという。路側センサの情報をAI処理し、遠隔管制室に転送することで車両の死角情報を補完し、遠隔監視・操作者の安全確認業務を支援する。

(3) 5G対応型車両制御直結ソリューション(車両ー路側間)

5G技術およびエッジコンピューティングによる低遅延の特性を活かし、路側センサから必要な情報を車両制御に直結させることで、緊急停止などのリアルタイム性が求められる運行管制を支援する。

上記(1)・(2)のソリューションでは、日本モビリティが同社の遠隔管制システムと自動運転システムの技術に5G通信を対応させる。自動運転の社会実装により幅広い選択肢を用意し、安全かつ効率的な無人移動サービスプラットフォームの構築を加速させる狙いだ。

上記(1)から(3)のソリューションでは、NECの学習型通信品質予測技術と学習型メディア送信制御技術を活用する。両技術を用いて、走行車両や路上カメラの通信品質を可視化・予測。それに応じてカメラ映像から注目領域の画質を自動調整することにより、カメラ映像の送信データ量を削減して通信遅延を抑え、通信を安定させる。

同時に、2021年2月上旬から中旬にかけて、CRANTS試験路にてローカル5Gとキャリア5Gの連携を用いた自動運転の実証を行う。CRANTS試験路にローカル5G基地局とキャリア5G基地局を併設し、必要に応じてローカル5Gとキャリア5Gの接続を切り替えることで、継続的に自動運転車両の遠隔監視・操縦管制が可能なことを確認する。


そのほかにも、今回は他地域との連携を行う。しずおか自動運転ShowCASEの一環で、5G基地局やカメラを静岡県沼津市の公道上に設置し、前橋市の実証実験と同様に、群馬大学の自動運転車両と日本モビリティの自動運転システム、NECのシステムを使用し、検証する。

5G技術の特性である低遅延を活かし、自動運転車両(群馬大学提供)や歩行者などをリアルタイムにカメラで認識し、安全・安心に寄与する実証実験を行う。昨年末から始めたNECモビリティテストセンターのローカル5G評価環境を活用して評価・検証を行ったのち、1月13日から22日にかけて沼津市大手町交差点での公道実証を計画している。