経路検索から見た日本版MaaSの現在地は?―ナビタイムジャパン×ヴァル研究所―【前編】
2022/1/18(火)
株式会社ナビタイムジャパン(以下、ナビタイム)と株式会社ヴァル研究所(以下、ヴァル研究所)は12月15日、オンラインでモビリティ勉強会~経路探索編~ を開催した。
コロナ禍を経てなお、日本各地でMaaSに関する取り組みが進んでいる。同勉強会では、経路検索※の分野で長年存在感を示している両社が、IT事業者の視点から意見を交わした。
また、勉強会の終了後には、ナビタイムでMaaS事業部長を務める森雄大氏(以下、森氏)と、ヴァル研究所でCTOを務める見川孝太氏(以下、見川氏)にインタビューを実施した。当記事では勉強会と両氏へのインタビューから、日本版MaaSの現状や課題を考えていきたい。
コロナ禍を経てなお、日本各地でMaaSに関する取り組みが進んでいる。同勉強会では、経路検索※の分野で長年存在感を示している両社が、IT事業者の視点から意見を交わした。
また、勉強会の終了後には、ナビタイムでMaaS事業部長を務める森雄大氏(以下、森氏)と、ヴァル研究所でCTOを務める見川孝太氏(以下、見川氏)にインタビューを実施した。当記事では勉強会と両氏へのインタビューから、日本版MaaSの現状や課題を考えていきたい。
※ほかにも経路探索、乗換案内などさまざまな表記があるが、当記事では「経路検索」で統一する。なお、勉強会のタイトルやナビタイムの企業理念など当サイトで改変不可の箇所はそのまま記載する。
■IT事業者が感じたMaaSのリアルとは?
まず両社は会社概要と直近の取り組みを紹介した。ナビタイムは、鉄道やバスなどの公共交通のみならず、自家用車やトラック、自転車やバイクとさまざまな移動手段に対応したナビゲーションサービスを提供している。同社の強みについて、森氏は「公共交通と道路交通を組み合わせたドアtoドアの経路検索が可能 」であることだと語った。MaaS分野では、トヨタの「my route」をはじめ、JR西日本の「setowa」や「東京メトロmy!アプリ」などに、同社技術をAPIで提供している。これから注力する分野には、バリアフリーに関する取り組みを挙げ、今後は地上から駅構内への徒歩ルートの検索を実現するべく、ネットワークの整備を進めていくという。
ヴァル研究所は、1988年に発売した国内初の経路検索ソフト「駅すぱあと」の開発企業として知られている。さらに、2019年には、APIサービス「mixway API」 を発表し、MaaSプレイヤーを対象とした取り組みを始めた。公共交通、徒歩、シェアサイクル、デマンド交通などを組み合わせたマルチモーダルな経路検索を、素早く組み込むことができる点がmixway APIの特長だ。現在は、JR東日本の「JR東日本アプリ」や、小田急電鉄の「EMot」など、多数のMaaSプラットフォームにAPIを提供し、開発支援を行っている。
会社紹介の後に行われたトークショーでは、国内における数々のプロジェクトを支えてきた両社だからこその視点で、日本版MaaSの現状や課題について語った。トークテーマは、「日本におけるMaaSの課題や可能性」、「経路検索事業者の悩みや要望」、「IT側がもっと頑張らないといけないところ」の3つ。それぞれ両社は何を語ったのだろうか?
■テーマ1: 日本におけるMaaSの可能性と課題
【可能性について】
森氏:MaaSに関する書籍が多数出版されたり、メディアで特集が組まれたりと、注目されていること自体が可能性だと思う。また、省庁が予算を投入して、よりよい移動や交通を目指したムーブメントも起こっている。そのような大きな動きもMaaSに可能性があるからこそだと言える。見川氏:森さんの意見は大いに同意できる。付け加えるなら、経路検索の分野以外からの新規参入がある点や、これまで結びつかなかった事業者同士が連携している点を挙げたい。この動きは各事業者がMaaSの分野に大きなチャンスを見出しているから起こるもので、同時に成功への道筋でもあると思う。
【課題について】
森氏:いろいろな地域で行った取り組みを、事業者同士で共有できていない印象がある。取り組みの中で得た気づきだけでなく、うまくいった経験、いかなかった経験も含めてノウハウを広く共有し、連携していくことが大事だと思う。見川氏:正直なところ課題は山積み。IT事業者の視点から言うと、実装面に大きな課題があると感じている。また、MaaSがバズワード化しており、「as a Service」の部分をとらえきれていないことも課題だと言える。
■テーマ2: 経路検索事業者の悩みや要望
森氏:特にソフトウエアやサービスなど、ものづくりの価値観やプロセスを共有することが重要な点で、同時に難しい点だと考えている。例えば、ソフトウエアをまず市場に出してアップデートして高めていくのと、リリース時点で完璧なソフトウエアを目指すなど、いろいろなアプローチの仕方があると思う。どういう価値観でものづくりを進めていくのか、そこを暗黙化せず、いかに足並みをそろえつつ言語化していくかが重要だ。見川氏:われわれが提供しているサービスは、現状ではどこまでいっても移動の「手段」であり、「目的」にはなり得ない。MaaS自体も目的に対する手段ではあるが、経路検索はMaaSの中の一つの手段という位置づけになると思う。経路検索を行った履歴から、実際にお客様がどんな目的や思いを持っているのかまでフォローすることは現状ではできていない。その点がわかるようになれば、もっとサービスの質が上げられるだけに悩ましい点だ。
■テーマ3: IT側がもっと頑張らないといけないところ
森氏:「ITを導入したら全てうまくいくわけではない」という面もしっかり伝えるべきだと思う。経路検索サービスを作ったから観光客が増えたり、乗り物が満席になったりするわけではないため、有効性の限界をきちんと伝える必要がある。IT側は、MaaSプレイヤーが達成したい目的に照らした判断に資する情報を提示することが重要だ。つまり、移動や交通の目的に照らして意思決定をしていくことが大事だと思うし、その点で私たちがやれることはたくさんあると思う。見川氏:先ほど述べた点とも重なるが、正直に言うとIT事業者が単独では解決できない問題もあると思う。モビリティをどうやって抽象化して、プラットフォームの上で扱うか。もっと真剣に、MaaSにおける「as a Service」の部分との向き合い方を考える必要がある。国内で成功事例と言える取り組みでは、この点をうまくできている印象がある。逆に、それなくしてはうまく行かないのだろうと認識している。
■その他のトピックス(質疑応答から抜粋)
【Q. 貨客混載はMaaSのシステム上でも可能か?】
森氏:実現できると思う。空間を有効利用できるメリット以外に、新鮮なものをすぐ購入できるワクワク感は利用者にとってもうれしい点だと思う。一方、現状ではラストワンマイルの部分に課題がある。人は自分の足で乗り換えることが可能だが、物は自分では降りられない。駅留めにするなど、取り扱い方法を工夫する必要がある。
見川氏:実現可能だと思う。MaaSプラットフォーム上での実施までは至っていないが、実際にJR東日本などが新幹線を使った貨客混載の実証を行っている。小ロットでも運べることが強みになり得る。フードデリバリーのサービスと連携してラストワンマイルを任せて、小ロットの長距離輸送を行う貨客混載などができれば面白いのではと思う。
【Q:観光型MaaSに取り組む地域や事業者へのアドバイスと期待する点】
森氏:尾道で実際にJR西日本の観光型MaaS「setowa」を利用した。日常的に利用するモビリティとは違い、観光目的の利用だと積極的に「乗りたい」と思えるモビリティが存在する。setowaで言えば、尾道のロープウエーやフェリー、レンタサイクル(SHIMANAMI LEMON BIKE)など。観光型MaaSでは、目的地で過ごす楽しさに加えて、移動自体も楽しいと思ってもらえる非日常のモビリティ体験を提供しなければならないと、自身の体験を通じて感じた。見川氏:観光は最初から最後まで個人の体験だ。効率を追求するだけでなく、その地域をどれだけ楽しんでもらえるかが観光型MaaSでは重要な点だと考えている。そのうえで、MaaSの細分化(ex. 日常型と観光型のどちらを取り組むべきか)について話すと、地域が抱える課題から考えて、どちらを優先するのかよく検討する必要があると思う。ただ、どちらの入り口から入っても、どちらの要素も包含するようなところに着地するのがいいかと思っている。
その他にも、取得した移動データの活用方法や共通プラットフォームの必要性など多様な質問が挙がり、ナビタイムとヴァル研究所は盛んに意見を交わしあった。次回は、勉強会終了後に実施した両社へのインタビューを掲載する。さらに深掘りした日本版MaaSの現状や、海外展開に向けた考えなど、トークショーでは語り尽くせなかった内容を聞いた。
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