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JR東日本・西日本がMaaS戦略を語る ―App Annie Mobile Leaders Summit―

2020/12/4(金)

(画像:Adobe Stockより)

アプリについての市場データや分析ツールなどを提供している、米サンフランシスコに本社を置くApp Annie(アップアニー)。その日本法人であるアップアニージャパンは、11月10日から12日にかけて、オンラインカンファレンス「Mobile Leaders Summit」を開催した。
ニューノーマル時代のモバイル戦略を考える場として、ゲーム・テレビ・フィンテックなどさまざまな分野の有識者が登壇した。当記事では「次世代のモビリティへの取り組み」と掲げ、JR東日本と西日本両社がそれぞれのMaaS戦略について語ったセッションを紹介する。
セッションのテーマと登壇者

セッションのテーマと登壇者
(提供:アップアニージャパン)


■観光・地方・都市、それぞれのMaaSを

まず、西日本旅客鉄道株式会社(JR西日本)のデジタルソリューション本部でMaaS企画室長を務める神田 隆 氏が同社の取り組み事例を紹介した。

JR西日本は、「観光エリア」・「地方エリア」・「都市エリア」それぞれのニーズや課題を踏まえたMaaSの取り組みを進めている。

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JR西日本が掲げるMaaSイメージ


10月から瀬戸内エリアで本格的なサービスを開始した「setowa」は、観光型の取り組みの一つだ。「setowa」は「せとうち広島デスティネーションキャンペーン」にあわせてリリースされ、複数の交通機関やホテル、せとうちエリアの観光素材などをスマートフォンでシームレスに検索・予約・利用できるサービスとして提供が始まった。
※デスティネーションキャンペーン・・・JRグループ各社や指定地域の自治体および観光事業者らが共同で実施する大型観光キャンペーンのこと。
また、地方においては、島根県邑南町と「地方版MaaS」の構築に2019年から共同で取り組んでいる。さらに都市型の取り組みとして、2019年に「関西MaaS検討会」を関西の鉄道7社らと立ち上げ、大阪・関西万博に向けたMaaS導入の検討を始めた。
※JR西日本のほか、大阪市高速電気軌道(大阪メトロ)、近畿日本鉄道、京阪ホールディングス、南海電気鉄道、阪急電鉄、阪神電気鉄道の計7社(順不同)。
そして今年9月には、前述の観光・地方・都市、それぞれのMaaSを束ねるアプリとして「WESTER」をリリース。西日本エリアで展開するMaaSをスマホ一つに統合することを掲げている。

JR西日本は、これらの取り組みに加え、2023年から開始予定のモバイルICOCA(仮称)を活用して、移動や生活サービスをシームレスに連携させる、大規模なデジタル化を目指す。利用者が移動を始めてから家に戻るまで、全ての行程をMaaSアプリやモバイルICOCAでカバーし、そこで貯まったポイントを次のサービスに利用するという、「循環型サービス」の確立に向けて取り組む方針だ。

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循環型サービスのイメージ


■「鉄道の復権」から「社会への新たな価値提供」に転換

続いて、東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)の MaaS・Suica推進本部 MaaS事業部門で、MaaSサービス開発グループリーダーを務める伊藤 健一 氏が同社の取り組みについて語った。

同社は、グループ経営ビジョン「変革2027」(2018年7月発表)で、さまざまな移動手段のシームレス化と、サービスのワンストップ化を目指すと掲げている。

30数年前の会社設立からこのビジョンの発表に至るまでは、鉄道のインフラなどを起点としたサービス提供を重視してきた。しかし、現在は人口減少社会に突入し、価値観の多様化も加速している。これらを背景に「変革2027」では、「ヒト(すべての人)の生活における『豊かさ』を起点とした社会への新たな価値の提供」を重視する姿勢へと転換した。

その価値の一つと位置付けられているのが「MaaS」だ。JR東日本は、変革2027の中で移動のための検索・手配・決済をオールインワンで提供する「モビリティ・リンケージ・プラットフォーム」の構築を掲げ、従来の駅から駅までの移動を想定したサービスから、出発地から目的地までシームレスに移動できることを目指している。

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モビリティ・リンケージ・プラットフォーム


この動きを加速させるため、JR東日本は、今年新たに「MaaS・Suica推進本部」を設置した。「移動のシームレス化」「多様なサービスのワンストップ化」「データを活用した新サービスの導入」の実現を目指す。

具体的な取り組みとして、首都圏エリアで行う都市型MaaSである「Ringo Pass」のほか、新潟・庄内エリアで昨年行った「にいがたMaaS」や今年トライアルを実施した宮城・仙台エリアの「TOHOKU MaaS」、群馬で行った「ググっとぐんMaaS」など、地方では観光型の取り組みを中心に行っている。

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JR東日本のMaaS展開


■西と東、MaaSで統合する未来はあるのか?

両社の取り組みを紹介した後、続いてパネルディスカッションに移った。アップアニージャパン株式会社 でSenior Account Managerを務める矢野 恵介 氏による司会進行のもと、新型コロナウイルスの感染拡大およびニューノーマルへの対応など、JR東日本・JR西日本の両社が目下取り組んでいることにも質問が及び、議論が進んだ。以下、その一部を要約して紹介する。

――コロナによって消費者行動はどう変わったと捉えているか?
神田氏: (少子高齢化による需要減やテレワークの加速などで)いずれ来ると思っていた未来がいきなりやってきた。一方、よりデジタルに接点を求めるようになり、MaaSにおいて追い風になる部分はあると思う。(JR西日本では)あと1、2年トライアルをした上で、2025年の大阪・関西万博を目指していたが、方向修正して取り組みを早めた。

伊藤氏:移動に関する行動が、非接触的なものに変わった。また、例えばライブがインターネット配信になって観客を集めるなど、移動が変わっただけでなく、体験そのものが変わったと捉えている。終電の繰り上げなどもお客様の行動変容にあわせてやっていく。

――GoToキャンペーンなどの影響について(当セッションは11月12日開催。その時点のコメント)
神田氏:生活者のみなさまも、世の中の流れとして「そろそろ旅行がしたい」という空気が芽生えてきた。旅行商品の割引などはMaaSに直結するものではないが、全体的には追い風と言える。

伊藤氏:ユニバーサル・スタジオ・ジャパンや東京ディズニーリゾートなどを見ると、まだ制限はあるが、週末には予約がとれないくらいに人気が回復した。人の動きが出ているので、影響はあると考えている。それと、事前に予約して行動するという様式が定着してきた。

――世界的に見ると、欧州のWhim、東南アジアのGrabなどの躍進がある。両社は日本の特性を鑑みた上でベンチマーク対象としている取り組みなどはあるか?
神田氏:観光型MaaSは日本独特のものではないかと思う。そのため海外のベンチマークはなく、最初に始めたIzukoなどとは、お互いの取り組みを参考にしたり、失敗も共有したり、ベンチマークは国内に置いている。

伊藤氏:海外での成功体験を日本でというより、日本は独自の発達をしていくのかなと思う。やはり日本の特徴はICカード。JR東日本のエリアで日常的に鉄道を使う人のうち、利用客は9割を超えていて、ほぼコンプリートに近い。それをどうやって発展させていくのか。便利なICカードに加えて、どうやってサービスを良くしていけるかだと思う。

――ユーザー体験を考えた時、移動する目的・動機まで抑える必要があると思う。両社は自社でカバーできないUX部分をどう考えているか。他社とコラボするのか、自社でスーパーアプリ化するのか?
神田氏:当社だけで全てやるのは難しいこと。(9月に発表した)WESTERのアプリでは、ひとまずJR西日本のサービスとして始めたが、今後はこれを受け皿としていきたい。周囲のさまざまなアプリ・サービスとも連携し、地域の有力アプリとして残していきたい。

伊藤氏:いろいろな娯楽がある中で移動する目的をつくることはとても難しい。日本の特徴は、ゲームが定着していてスマホでゲームをすることに慣れている点。旅行に関しても、そういう人たちに向けて、スマホで簡単に楽しめるものを提供するのも一つの方法かと思う。

――1人の消費者からすると、西と東でサービスがバラバラだと面倒に感じる。将来的には統合されるのか?
神田氏:大半の人にとって、日常的に移動するエリアはそこまで広くない。そう考えると、アプリを通じて利用されるところは限られる。ただ、時々の東京~大阪間の移動で、いつも使っているアプリで旅行ができ、そこでアプリ間連携という姿になっていくのかなと思う。

伊藤氏:一つに統合していくというよりは、連携していくことで考えている。JR西日本との連携もいろいろな可能性があると思う。統合されたアプリが出れば便利になると思うが、日本の市場では一つに統合されたサービスには収まらないだろう。現れたとしても、すぐ次のものが出てくるのでは。例えばSNSでもFacebookからInstagram、そしてその次となるように、時代に応じて変わっていくと思う。

終わりに、矢野氏は「1人の消費者として、スムーズなユーザー体験を今後も提供していただけるように応援している」と述べ、ディスカッションを締めくくった。

(画像:Adobe Stockより)


■加速する連携 社内外で

JR東日本・西日本の両社は、MaaSの取り組みを進めていくにあたり、相互連携に合意したと9月に発表している。その流れ通りに、このセッションでも両社は今後サービス連携を進める構えであると示した。

また、社外連携も加速している。今年9月にJR西日本はJR東海と共同で、新幹線のネット予約・チケットレス乗車サービスである「EXサービス」と、「setowa」のほかトヨタ「my route」などの各種沿線MaaSとの連携トライアルを開始した。

一方、JR東日本は同社の「モビリティ・リンケージ・プラットフォーム」の地図情報とNTTドコモの「モバイル空間統計人口マップ」との連携に合意するなど、ニューノーマルへの対応を連想させる動きを見せている。

今後、両社がグループ内外で連携を進めた先でどのようなサービスが生まれるのか。注目して見ていきたい。

(記事/和田 翔)

記事中の画像は、「Mobile Leaders Summit」の投影資料より抜粋。

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