<特別対談:LIGARE×京都大学> Hospitality on Wheels を京都で 次世代の モビリティアントレプレナーを育てる
2019/8/15(木)
井上:最近、取材をしていて発想が斬新だったのは関西電力の「iino」プロジェクトです。
iinoさんは時速5キロで自動走行する低速モビリティ「iino」を活用したサービスを手がけていて、「目先ではなく、明々後日の目線を持って新しいことをやろう」という考え方で事業を展開しています。iinoは「○○×時速5キロ」をテーマにさまざまな業種とタイアップして新しいサービスを開発していて、今年1月にはヘッドマッサージ専門店「悟空のきもち」を展開するゴールデンフィールド、損害保険ジャパン日本興亜と共同で、車上でヘッドマッサージを提供する実証実験、5月にも大阪・北船場の市内公道でも実証実験をしました。今年3月の大阪城でのイベントでは、iinoに乗って日本舞踊を見ながらお城を周遊するチケットを8000円で販売したところ、即日完売したそうです。
木谷氏:観光都市である京都では、iinoさんのアイデアに可能性を感じますね。
イスラエルのベンチャー企業が「Hospitality on Wheels(以下、HOW):車両の上のおもてなし」と話していて、将来のモビリティサービスにはHOWの概念が重要になると感じました。
井上:今、自動車業界では、車が必ずしも運転するためのものではないという観点から、ユーザーにとっての快適性や高付加価値な車内空間創造についての議論はありますが、まだホスピタリティの話は出てきていません。
ただ、すでにxR(AR/VR/MR)やブロックチェーンの技術者も自動車業界に入ってきて、技術的多様性は急激に進んでいるので、今こそ価値創造できる環境を若者に作っていくべき時だと感じています。モビリティー分野はベンチャーが少ないため、学生起業家を企業が支援して新たな価値創造に取り組んでいかないと海外に負けるという危機感があります。
木谷氏:新しいことをやりたい若者は一定数いるので、彼らの中から飛び出す人が現れたら企業がサポートする仕組みが必要でしょう。京大のベンチャーファンドは常に投資先を探しています。新しいアイデアを年に1〜2個、数年で何個か発掘して、その中から将来メガベンチャーになり得るであろう事業の芽が出たら、投資するようなプログラムを作っていきたいです。
ベンチャーが盛んなイスラエルのテクニオン工科大学と京大は京大病院で臨床実験をしていることから協力関係にあるので、勉強会を開催したら何かヒントがあるかもしれないです。イスラエルはOttopiaというTeleoperastion(自動運転ではなく遠隔運転)のベンチャー企業などがありますが、変わったところでは、「匂い」の技術を用いてドライビングの安全性を高めるMoodifyというベンチャー企業もあり、モビリティ分野のベンチャー創出では先行していますね。
井上:企業間連携だけでなく若い人も参加するオープンイノベーションを実現するには、産官学連携が重要ですね。
木谷氏:文化芸術の領域での産学官連携ですと、京大では文化庁と京都の神社・仏閣等の文化資源を活用したアントレプレナー育成に取り組んでいます。
課題を根本的に考えるアートシンキング(Art Thinking)を使った「ARTS ECONOMICS ACADEMY」(*)を開催し、その中でデジタルアート、コミュニティアートなど、生活とアートの接点が拡大していることから「技術×アート」でプログラムを作りました。京都には芸術系の大学が多いので、アートが好きな若者も集まりますし、京大にはVRやAIに強い学生がいます。コンテンツ系とテクノロジー系の人材の掛け算ができたこともあって、面白いアイデアがたくさん出ました。
これはモビリティサービスの分野においても有効かと考えます。
井上:京都の文化的なコンテンツでベンチャー企業を生み出す基盤を作っているわけですね。リガーレは「人・まち・モビリティをつなぐことで生活が豊かになる」をテーマにしているので、モビリティのデータを活用したハッカソンのような企画も考えています。
木谷氏:MaaSやモビリティの文脈でのベンチャー創出のプログラムを京大で開催できたら面白そうですね。モビリティのハード面は自動車メーカーが進めているので、ベンチャーはサービスの分野をやるべきでしょう。技術的な多様性が進む中ではさまざまな顔ぶれ、プレイヤーが必要です。日本人には未来を発想する力があるし、真剣に取り組めば海外勢にも負けないはずです。
井上:ぜひ京都大学の学生さんたちと一緒に何かやってみたいです。今日はありがとうございました。
*「ARTS ECONOMICS ACADEMY2018」は、京都大学が文化庁「平成30年度 大学における文化芸術推進事業」の助成を受けてArt Thinkingの可能性に着目した起業家育成プログラム。文化芸術資源を利活用した新たなサービスやコンテンツを開発し、 ビジネスとして産業化することを狙いとし、その中心的な役割を担うアントレプレナーを育成するプログラム。