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JRと西鉄がタッグ MaaSで変わる九州の地域交通

2020/5/18(月)

九州の玄関口である博多駅

2019年10月23日に九州旅客鉄道株式会社(以下、JR九州)と西日本鉄道株式会社(以下、西鉄)が「輸送サービスにおける連携に関する覚書」を締結した。これまで福岡を中心とした九州地域において、長くライバル関係にあった両社が、会社の枠を超えて連携するというニュースは大きな話題となった。

JR九州が「モビリティーサービス」を軸に

JR 九州は2019年に発表した中期経営計画で、2030 年にJR 九州があるべき姿として、長期ビジョン「安全・安心なモビリティサービスを軸に、地域の特性を活かしたまちづくりを通じて、九州の持続的な発展に貢献する」ことを掲げている。

安心・安全な「鉄道輸送サービス」ではなく、「モビリティサービス」という言葉を選んだところにも、従来の事業のあり方に捉われない、変革への決意が読み取れる。

鉄道以外の輸送サービスとのシナジーを生み出すべく、2019年5 月に最初の連携として北九州市が拠点のタクシー事業者の第一交通産業株式会社(以下、第一交通)と、10月には西鉄と提携を結び、地域の交通事業者と積極的な連携を進めてきた。

JR下曽根駅の改札口前に設置した西鉄バスの運行状況を示すモニター

JR下曽根駅構内に表示された西鉄バスの運行状況


JR九州と西鉄の初連携「下曽根モデル」

JR九州と西鉄はは覚書締結に際し、具体的に3つの取り組みを進めると発表した。

1つ目はMaaS分野での連携、2つ目は公共交通の利用促進につながる輸送サービスの提供、3つ目が公共交通の利便性を向上させるための新しいテクノロジーを活用した輸送サービスの実現だ。

連携発表から半年が過ぎた今、その形が徐々に現れ始めている。

連携事例の第一弾となる「下曽根モデル」と名付けられた事業では、2020年3月のJRダイヤ改正に合わせて、JR日豊本線下曽根駅(北九州市小倉南区)で西鉄バスとJR の電車ダイヤを連携した。

西鉄はJR下曽根駅と周辺の住宅地を結ぶバス路線を新設。JR九州は駅構内にバス停の案内やバス待合用のベンチを設置して、乗り継ぎがスムーズに行える環境を整備した。

この連携により、利用者はバスと電車をスムーズに乗り換えることができるようになり、ターミナル駅であるJR小倉駅までの所要時間が20〜30分短縮できたという。JR九州は、この下曽根モデルを他の駅へも展開していく方針だ。

AI 活用型オンデマンドバス「のるーと」の車両


九州での先駆者・西鉄が進めるMaaS

一方、西鉄も早い時期から積極的に他企業と連携しながら、MaaS事業に注力してきた。

2018年11月にトヨタ自動車(以下、トヨタ)とMaaSアプリ「my route(マイルート)」の実証実験を開始。さらに2019年4月には三菱商事とAI活用型オンデマンドバス「のるーと」のサービス実証を始動している。

AI活用型オンデマンドバスとは、乗客のリクエストに応じ、AI が効率的なルートを選びながらバンタイプの車両で運行する乗り合いサービスのことだ。

西鉄は2019 年4月から福岡市東区の人工島「アイランドシティ」で「のるーと」の有料サービス実証を開始している。

「のるーと」のバスはアイランドシティ地区とイオンモール香椎浜、千早駅間を運行しており、アイランドシティ内に61 カ所(3 月12 日時点)の乗降場所を設けている。

配車受付時間は6:00~22:00、運賃は大人1名200円~400円で、専用アプリ「のるーと」から配車予約を行う。

そして2020年2月、アイランドシティ地区での「のるーと」の運行は2021年4 月24 日まで1 年間延長することが発表された。

サービス開始から1年が経ち、地域の移動手段として定着しつつある証拠だろう。西鉄では蓄積したデータ・知見を活用して、他地域への展開にも取り組む予定という。

マイルートの車内広告


MaaSアプリ「my route(マイルート)」とは

マイルートは、公共交通、自動車、自転車、徒歩など、様々な移動手段を組み合わせたルート検索から予約・決済、さらには店舗・イベント情報の配信までワンストップで可能にし、人がもっと移動したくなる環境を作るためにトヨタが開発したMaaSアプリケーションだ。

西鉄とトヨタは2018年11月より福岡市でマイルートの実証実験を1年間実施した。1年間のアプリダウンロード数が約30,000件、利用後アンケートでは約8割のユーザーから「満足」と回答を得たという。

この結果を踏まえ、2019年11月からサービス提供エリアを福岡市に加えて北九州市にも拡大し、本格的なサービス実施を開始した。この本格実施のタイミングで、西鉄と事業連携を結ぶJR 九州も新たにマイルートに参画した。

「マイルート」にJRも参画 九州MaaS実現なるか?

本格実施に伴い、マイルートではスマホ決済アプリTOYOTA Walletへの対応(アプリはiOS版、Android版共に無料)による電子決済手段の拡充、TOYOTA SHARE対応によるトヨタのカーシェアサービスの提供、また従来の日本語・英語に加えて今年2月に中国語(繁体字・簡体字)・韓国語にも対応した。

また福岡市では、これまで販売していた西鉄のバス・電車のフリー乗車券に加えて、福岡市・西鉄・JR九州・昭和自動車が共同で提供する訪日外国人専用1日フリー乗車券「FUKUOKA TOURIST CITY PASS」をデジタル化し、マイルート内で今年2月から販売開始した。

北九州市では、西鉄バスフリー乗車券(路線バスのみ)の販売を開始し、これまでのJapanTaxiとの連携に加えて第一交通のタクシー配車予約サービス「モタク」とも連携を予定している。

また、九州新幹線や全国の高速バスと連携することで、福岡市・北九州市を目的地・出発地とした長距離移動もサポートを予定しており、順次サービスを拡充していくという。

※2020年春ごろを予定

オール九州で挑む、公共交通の維持・存続

九州各地では人口減少や少子高齢化が大きな社会問題となっており、その影響が交通事業にも顕著に現れている。

JR九州は人口の多い都市部とは違い、地方のローカル線では乗客数の減少が続いている。また大きな自然災害により長期不通となるケースが相次ぐなど、交通ネットワーク維持が深刻な問題だ。

一方、西鉄ではバスのドライバー不足の問題が慢性化しており、過疎による地方の路線バスの廃止や縮小に直面しているという。

JR九州と西鉄は、それぞれの厳しい経営環境下で、何か手を打たねばならないという危機感を共有して、冒頭にも触れたように2019年10 月「輸送サービスにおける連携に関する覚書」 の連携を結んだ。

交通モード連携の下曽根モデルなど両社による新たな動きが始まった矢先、突然訪れたのがコロナショックだ。

新型コロナウィルス感染拡大防止のための外出自粛により、今、公共交通の利用者は激減している。

輸送人員が激減し、売り上げが全く見込めない。しかし、交通事業者はそのような中でも安定供給を行わねばならないというジレンマを抱えている。

JR九州と西鉄の連携という大きな出来事は、両社が当初目指していたサービスの利便性向上だけにとどまらず、アフターコロナ社会に向けた九州地域全体の公共交通サービスの維持・存続という課題に立ち向かう道標となることにも期待が掛かるだろう。

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