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日本版MaaSの強みは「改札」? 西鉄の取り組みから見る モビリティサービスの未来

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2019/9/4(水)

左:西日本鉄道株式会社 未来モビリティ部 田中 昭彦 部長 右:同 日高 悟 課長

日本版MaaSの実現に向けて、各社が新たなサービスの提供に向けたさまざまな動きを見せており注目が集まっている。5月23日、都内で開催したLIGAREビジネスセミナーでは、登壇者にアーサー・ディ・リトル・ジャパン株式会社から北朴木祥吾氏、⻄日本鉄道株式会社(以下、西鉄)の未来モビリティ部から田中昭彦部長(以下、田中氏)を招き、日本版MaaSの事業モデルについて講演を行った。当記事では田中氏の講演を振り返り、過熱するMaaS市場の中でどのような取り組みを行っているのか詳しく見ていきたい。

西鉄が目指す新たなモビリティサービス

西鉄は、「安心・快適で持続可能な公共交通ネットワークの構築」を将来ビジョンに掲げている。そのために、「街の交通モードを『幹線・支線・地域交通・補完的交通システム』の4つに階層化し、それぞれに適した交通モードを当てはめていく必要がある」と田中氏は語る。

例えば、幹線には鉄道や連接バスなど大量輸送を可能にするモードを、支線には路線バス、地域交通には乗り合いバスを、補完的役割としてシェアサイクルなどを当てはめていく。そして自動運転などの新技術やキャッシュレスなどの決済サービスそれぞれの階層をつないでいくという考え方だ(右ページ図参照)。そのビジョンを実現するために、「新たなモビリティサービスの創出」と「お互いの強みを活かせる企業・団体との協業」を基本戦略に据え、取り組みを推進している。

西鉄が描く「安心・快適で持続可能な公共交通ネットワークの構築」に向けた将来ビジョン。(資料提供:西鉄)


西鉄が取り組んできたMaaS事業で、大きく注目を集めたのが昨年11月からトヨタ自動車と協業して行っている「my route(マイルート)」の実証実験が挙げられる。マイルートは、ルート検索、予約・決済、店舗・イベント情報の配信まで、ワンストップで可能にし、「人がもっと移動したくなる環境」を作るために開発された。当初予定していた今年3月までの実証期間が8月末まで延長され、まちづくり目線から見たモビリティサービスの実践が続いている。

また、今年4月からは福岡市東区の人工島「アイランドシティ」で、AI活用型オンデマンドバス「のるーと」のサービス展開を始めた。こちらは三菱商事と合弁でネクスト・モビリティ株式会社を立ち上げ、持続可能な公共交通ネットワークの構築と移動課題の解決を目指し、有効性・事業性の検証を進めている。

西鉄はその他にも、日立製作所と協業し、路線網の抜本的な見直しと最適化、スタッフの働き方改革などを目的とした「バスダイヤ運行計画支援システム」や、SBドライブと協業し、将来的な自動運転バスにおける車内安全性の向上を目指した「バス車内安全監視AIシステム」の運用を行うなど、多士済々の企業と協業して新たなモビリティサービスの創出に向けた動きを加速している。

「改札」から取得する正確な移動データこそ強み

将来の交通事業について話題が移ると、田中氏は「運送だけ行う従来のバスの概念の時代は終わる」と述べる一方で、「移動サービスのリアルな提供者であり、情報の一次生産者として位置づけられ再評価される」と語った。さらに田中氏は農業に例えて、「農家=交通事業者、産地=地域、農地=鉄道・バス・タクシー、農機具=クルマ・機器・システム等になり、生産物=運送 ・ 情報で生業を営む。栽培からサービスまで全てやる形態もありえるし、一つのプロセスに特化する専業型も残る」と述べ、「従来の自前式業態から、補完・協業型の業態へ変化する」との見通しを語った。

MaaSについては、「交通事業者やそれ以外の領域やそのサービスを結びつける触媒となり、きっかけになる」と語った。その中でも交通事業者がMaaSに取り組む際に注目すべきは決済分野だ。田中氏は「入口と出口で適正な料金を徴収する『改札』という概念」が交通事業者、とりわけ日本の独自性と指摘し、それは人流データを正確に入手できることにほかならない。

交通は従来からのリアルな移動体験を供給するサービス産業であることに加えて、まちづくりの基盤となるデータの生成機関となる可能性を秘めている。基盤となるデータが必要で、それを正確に、スマートに集めるのに、特にバスは都市のデータの収集に向いた適正があると思っている。つまり、移動サービスを提供しつつ顧客の正確な移動データを収集が可能であるということが、日本版MaaSの一つの特徴になる可能性があるのだ。

後日、改めて福岡にある西鉄本社に取材に赴いた。セミナーに登壇した田中氏と、未来モビリティ部企画開発課の日髙悟課長(以下、日髙氏)に、「マイルート」や「のるーと」など新しい移動サービスに向けた取り組みについて話を伺った。

my route(マイルート)の操作イメージ。
検索したルート詳細の画面から、バスフリー乗車券の決済がアプリ内で可能。
(資料提供:西鉄)


トヨタと協業し、交通モードが広がった「マイルート」

――トヨタとの「マイルート」の実証実験を当初の3月の予定から8月までに延長されましたね。現時点での気づきなどがあれば教えてください。

日髙氏:2019年4月末時点で17,000ダウンロードを突破しました。ユーザーアンケートでは「とても満足」「やや満足」合わせて全体の70%以上と、好意的な評価をいただきました。

――アプリの利用を通して行動変容を促せたとう感触は得られましたか?


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