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未来都市の構想をテーマパークで形に―Osaka Metroが描く2050年―

2025/2/14(金)

大阪市高速電気軌道(以下、Osaka Metro)は今年1月、森之宮(大阪市城東区)に「e METRO MOBILITY TOWN」をグランドオープンした。「未来モビリティ体験型テーマパーク」のコンセプト通り、2050年をイメージした未来の交通や生活を直感的に体感できるアトラクションが並ぶ。開催を間近に控える大阪・関西万博の機運醸成も狙いの一つだ。さらに万博の会期後には、新たなまちづくりも見据えている。構想の“裏側”も含め、Osaka Metroの次世代モビリティ推進部で万博推進課長を務める西村氏に話を聞いた。
※地名を指す場合「森之宮」、Osaka Metro・JRの駅名を指す場合「森ノ宮(駅)」と表記。

リアル&バーチャルで体感する未来都市

Osaka Metro 交通事業本部 次世代モビリティ推進部 万博推進課長 西村慶友氏

Osaka Metro 交通事業本部 次世代モビリティ推進部 万博推進課長 西村慶友氏


――まずは、e METRO MOBILITY TOWNの概要を教えてください。

西村氏:2050年をイメージしたOsaka Metroの未来構想を体験していただける場として、多様なアトラクションを用意しました。大きく分けて、5つのエリアで構成されています。

1つ目の「ミライ体験エリア」では、引退した地下鉄車両(20系)を活用した6つのブースを設けました。プロジェクションマッピングやバーチャル体験などを通じて、未来の大阪の街並みやモビリティを体験できます。

2つ目が「EV・自動運転バスエリア」で、敷地内を走行するレベル4相当の自動運転バスに実際にご乗車していただけます。3つ目の「EVカートサーキット」では、本格的なレース体験を味わえます。

次の4つ目が、休憩しながら食事が楽しめる空間「屋外フードスクエア」です。オリジナルメニューの提供のほか、土日や祝日にはフードトラックも並びます。5つ目の「空飛ぶクルマエリア」は現在、LIFT Aircraft社(米)の空飛ぶクルマ「HEXA」の飛行映像・部品の展示を実施しており、今後、コンテンツを拡充していく予定です。
e METRO MOBILITY TOWNの全体マップ(提供:Osaka Metro)

e METRO MOBILITY TOWNの全体マップ
(資料提供:Osaka Metro)


――テーマパークをつくるにあたって、どんな点を意識したのでしょうか?

西村氏:大阪・関西万博では、大阪ヘルスケアパビリオン「ミライの都市ゾーン」に出展が決まっており、そちらの展示ではバーチャルに特化した内容になる予定です。そこでe METRO MOBILITY TOWNでは体験型のアトラクションに力を入れ、リアルとバーチャルの両面から楽しんでいただける体験を重視しています。

――引退した車両を活用した「ミライ体験エリア」では、どんな体験ができるのでしょうか?

西村氏:「ミライ体験エリア」は、6つのブースに分かれています。例えば、「ニュー・ワールド・シアター」では、未来の大阪の街と人々の暮らしを、プロジェクションマッピングで表現し、地上・上空・地下・サイバー空間での暮らしぶりをイメージできるブースです。そのほか、「バーチャル時空ツアー」では、車窓に映像を映し出し、過去から未来へのタイムトラベル体験を通じて、未来の暮らしやモビリティへの興味を刺激する構成になっています。
バーチャル時空ツアーの「ヒストリー・オブ・モビリティ」。過去から未来の大阪の姿が車窓に映し出される。

バーチャル時空ツアーの「ヒストリー・オブ・モビリティ」。過去から未来の大阪の姿が車窓に映し出される。


――特に子どもに人気の催しはなんでしょうか?

西村氏:子ども向けには「キッズトレイン」が人気です。自分で色付けしたモビリティの塗り絵をスキャンして、デジタル上でレースをしたり記念撮影をしたりできるブースです。自動運転バスにも目をキラキラさせながら乗っていますね。そのほか「コラボ企画トレイン」では、車内でDJプレイを楽しめるキッズディスコのイベントなどを期間限定で実施しており好評です。

――施設入場時に顔認証システムが導入されているのも印象的でした。

西村氏:当社のアプリ「e METRO」で事前に顔情報を登録すると、入場時に顔認証で入れる仕組みを導入しています。複数人の同時認証も可能です。未来の駅のゲートはこのようになることを想定しています。
入口に設けられた顔認証ゲート

入口に設けられた顔認証ゲート


――環境面への取り組みについてはいかがでしょうか?

西村氏:SDGsへの取り組みも、施設全体で重視しているポイントです。隣接する森之宮検車場に設置した太陽光パネルと水素燃料電池で発電した電力を供給しており、施設の最大電力量の約5分の1を賄っています。また、サステナトレイン内ではカーボンナノチューブを電極に活用した次世代太陽電池の実証実験も行っています。
サステナトレイン内で、名古屋大学と共同で実施中の次世代太陽電池(カーボンナノチューブ電極を用いた有機薄膜太陽電池)の実証実験。

名古屋大学と共同で行う次世代太陽電池(カーボンナノチューブ電極を用いた有機薄膜太陽電池)の実証実験。


体験を通じて伝えたい「2050年の未来像」

――e METRO MOBILITY TOWNは「未来モビリティ体験型テーマパーク」と掲げています。「体験型」を重視したのは、どのような意図があるのでしょうか?

西村氏:特に子どもたちに、楽しみながら未来を感じ取ってほしいと考えました。テレビやスマホを楽しむときに、細かい仕組みまで理解する必要はないですよね。それと同じで、自動運転や交通のDXなどの仕組みを正確に理解してもらおうとは考えていません。

ただ、さまざまなイノベーションを通じて、「自分たちの暮らしがどう変わるのか」「Osaka Metroがつくろうとしている世界」を、漠然とでもいいから体感してほしい。そして子どもたちが社会を担うころ、この場所で描いた未来の技術が現実のものとなったら、「そういえば昔、Osaka Metroが取り組んでいたな」と、思い出してほしい。そんな風に考えています。
上映中のニュー・ワールド・シアター。プロジェクションマッピングで未来のまちの姿が表現されている。

上映中のニュー・ワールド・シアター。プロジェクションマッピングで未来のまちの姿が表現されている。


――先ほど万博への出展についても触れられましたが、e METRO MOBILITY TOWNと万博との関連についても教えていただけますか?

西村氏:1月19日、万博会場の最寄り駅となるOsaka Metro中央線「夢洲駅」が開業しました。輸送面でいえば、万博の来場者のうち約6割が鉄道を利用すると想定されており、中心となるのがこの路線になりますから、開催期間中は増便して対応する予定です。そのほかにも、パークアンドライドによるバス輸送なども担います。

ただ、Osaka Metroとしては、単なる輸送機関としてだけでなく、万博の成功に最大限コミットしていきたいと考えています。そこで、e METRO MOBILITY TOWNの企画が生まれました。森ノ宮駅から夢洲駅まで中央線1本でアクセスできる利点を生かしつつ、この場所と万博会場の両方を訪れていただけるよう、注力しているところです。
1月19日夢洲駅の出発式の様子

1月19日夢洲駅の出発式の様子
(写真:Osaka Metro)


――e METRO MOBILITY TOWNや万博での取り組みの背景には、何か長期的なビジョンはあるのでしょうか?

西村氏:取り組みを始めるにあたり、まずは「2050年の未来像」を社内で議論することから始めました。例えば、地上部分は緑があふれ、モビリティは地下と空中を中心に走る。建物間の移動にはロープウェイや空飛ぶクルマが行き交う。そしてパーソナルモビリティや大量輸送機関がシームレスにつながる――。

こうした未来像を描く過程では、社内の各部門にヒアリングを重ね、社長や役員も交えて徹底的に議論しました。技術面では完全自動運転やスマートレール(線路なしで走れる電車)、バッテリーの小型化などの実現を見越したり、広告や飲食、商業施設などの生活サービスとの連携も想定したり、さまざまな可能性を考え尽くしました。最終的には、一枚のイラストに未来像をまとめました(下図)。e METRO MOBILITY TOWNや万博のパビリオンは、その未来像の一部を形にしたものでもあるんです。
e METRO MOBILITY TOWNや万博出展の礎には、描きあげた「2050年の交通の姿」がある。(資料提供:Osaka Metro)

e METRO MOBILITY TOWNや万博出展の礎には、描きあげた「2050年の交通の姿」がある。
(資料提供:Osaka Metro)


2028年、森之宮エリアのまちびらきへ

インタビューに応じるOsaka Metro西村氏

インタビューに応じるOsaka Metro西村氏


――Osaka Metroとしてさまざまな交通モードを導入している背景には、大阪の交通課題への対応という側面もあるのでしょうか?

西村氏:大阪の交通は一見便利そうに見えて、全国の事例と同じくさまざまな課題を抱えています。少子高齢化による利用者減少、運転手不足、運転コストの増大、環境対策など。これまで通りの公共交通のあり方では、立ち行かなくなっていくでしょう。

その中で、Osaka Metroが特に注力しているのが、「自動運転化」、「オンデマンド化」、「EV化」。そしてそれらの基盤となる「データ利活用」です。実際に、自動運転バスはe METRO MOBILITY TOWNの敷地内を走っているだけでなく、昨年11月からレベル2の路線バスを森之宮・京橋周遊ルートで運行しています。
実証実験中の自動運転バス

実証実験中の自動運転バス


オンデマンドバスについても、これまでの運行エリアに加え、万博会期終了まで西区と港区でも運行しています。将来的には大阪市内全域での展開を目指しています。e METRO MOBILITY TOWNを起点にして、これらのサービスをどんどん広げていく考えです。
※大阪市内の4区5エリア(生野エリア、平野Aエリア、平野Bエリア、キタエリア、福島エリア)に加え、期間限定で森之宮エリア(中央区、都島区、城東区、東成区の各一部区域)でも運行中。
2025年1月下旬に導入が始まったEVオンデマンドバス。森之宮エリア、西エリア・港エリアを皮切りに、順次拡大する予定。

1月下旬に導入開始のEVオンデマンドバス。森之宮エリア、西エリア・港エリアを皮切りに、順次拡大する。


――最後に、万博終了後のe METRO MOBILITY TOWNについて教えてください。

西村氏:森之宮では、2028年に新駅を開業する計画が進行中です。e METRO MOBILITY TOWNは、本格的な再開発が始まるまでの暫定利用という位置づけで、万博の会期終了とともに、今年10月にはその役目をいったん終える予定です。

ただし、それきりで終わるわけではなく、未来の大阪のまちづくりへとつながっていきます。あわせて動き出す森之宮エリアの再開発では、新駅に加え、Osaka Metro初の駅ビルやアリーナ、大阪公立大学の新キャンパスも建設される計画で、このエリアは大きく様変わりするでしょう。

(取材・文:和田翔/後藤塁)

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