日本版MaaSの鍵を握るのはタクシーか?--福島大学、吉田樹准教授講演
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2019/9/19(木)
神姫バスは5月21日、MaaS・次世代モビリティに関する勉強会(※)を姫路市内で行い、兵庫県下の自治体、商工会議所などが参加した。勉強会では、国交省「都市と地方の新たなモビリティサービス懇談会」、国交省東北運輸局「地域公共交通東北仕事人」のメンバーを務める福島大学の吉田樹准教授が「MaaSが切り拓くこれからの地域交通」と題して、登壇した。その講演内容を紹介する。
※神姫バスは勉強会の開催により、MaaSや自動運転技術等の新たな技術活用の有効性に関連する情報を広く共有し、これからの公共交通のあり方を共に考えることを目的としている。さらに、多様な立場の参加者から意見を伺い、基幹的バスヘの新たな技術の導入・普及に関する課題を灸り出し、その解決策の検討を行っていく。
免許返納後は外出がおっくうに
地方では、高齢者の免許返納後の移動や、多様化する移動ニーズ、担い手不足といった問題がある。高齢化率が地域住民の約4割を占めるという新潟県佐渡市で行った自家用車と運転の機会についての調査では、現時点で自家用車を運転する人であっても、将来の外出への不安感は30%と、不安を感じないと回答した23%よりも多く、高齢化社会に対しての移動への不安が表れている。また、福島県南相馬市で後期高齢者を対象に行ったアンケートによると、自家用車の運転を辞めることで外出頻度が減るという事実の他に、「外出すること自体がおっくうになる」という結果が出た。さらに注目したいのは、家族の中で本人の代わりに運転できる人がいたとしても、外出機会は減るという結果だ。高齢者は自分自身で車を運転し続けることで、外出の機会を作っているのだ。
吉田氏は、「車を持たない人はいかにリーズナブルにお出かけできるか、また人に頼らず自力でお出かけできるかが重要」とし、「車を運転する、しないで活動機会に格差が生まれる」と話す。また、外出しにくい地域では、交流機会が減少しやすく、地域経済の循環も弱り、地域の存続が危うくなると指摘した。
自家用車に代わる価値観の創出がMaaS
吉田氏はMaaSを「利用シーン毎に最適なモビリティを選択できる環境をつくり、自家用車に代わる価値観の創出を目指すこと」とし、新型モビリティサービスとデータ連携の2つの柱で成り立っているとした。データ連携については、「公共交通データをいかに標準化できるかがポイントで、基盤整備が必要」である一方、データ連携がいくら進んでいても、駅や乗り場が利用者とってわかりにくければ意味を成さない。「現実世界の移動を、ソフトでカバーしようとしているのがMaaS」であり、公共交通での移動は使って初めて価値がわかる経験財であることを念頭に、現場を充実させ、使えない公共交通から脱却する必要がある。
また、車を持たなくても出かけられるかどうかがMaaSの鍵で、交通空白地域では小口のモビリティサービスを提供していく必要がある。ニーズを調査して、固定された目的地に行くためにバスを走らせるという需要追随型ではなく、「需要自体をマネジメント・管理していくのがMaaS」だ。
フィンランド、MaaSの実現で増えたのは個別輸送
MaaSを進める上では、「公共交通のオープンデータ化やタクシーの定額制に踏み込んでいけるかが鍵」となるが、日本では旅行業において企画商品として交通チケットの再販売が可能であるという点でMaaSの構築がしやすい。一方で、フィンランドでは交通チケットの再販売ができないため、法律で義務付け、公共交通チケットの販売システムを開放している。MaaSの先駆けとなったMaaS Global社の「Whim」アプリでは、公共交通の乗車券が直接買える。タクシーの事前決済も可能だ。料金体系は「whim to go」「whim urban」「whim unlimited」3つ。「whim to go」は都度払い、「whim urban」はエリア限定でトラムとバスの乗り放題、タクシーは1回10ユーロ上限、「whim unlimited」は499ユーロで全て乗り放題だ。
2019年3月に公表された「whim」のデータを分析した「WHIMPACT」の報告書によると、